今年4月に長岡駅前で移転リニューアルオープンをした「Catering 割烹 わだの」は、割烹でありながらケータリングにも積極的に対応している日本料理のお店です。今回は店主の和田さんがこれまでどんな修業を積んできて、どんなこだわりで料理を作っているのか、いろいろなお話を聞いてきました。
Catering 割烹 わだの
和田 浩之 Hiroyuki Wada
1984年長岡市生まれ。長岡市にある悠久山栄養調理専門学校に通いながらホテルの日本料理部門でアルバイトを経験。卒業後は東京の有名日本料理店をはじめ、栃木や神奈川でも働く。2018年長岡市で「Catering 割烹 わだの」をオープン。子どもの頃からサッカーを続けてきて、現在は自分の子どもたちの所属するサッカーチームでコーチを務めている。
——和田さんは昔から料理がお好きだったんですか?
和田さん:料理好きな母親の影響もあって、私自身も料理は好きでしたね。小学生の頃は学校の料理クラブに入ってました。 それで、そのうち料理人に対して憧れるようになったんですが、当時は「日本料理だけはやりたくない」と思っていました(笑)
——え? それはどうしてですか?
和田さん:日本料理には封建的で厳しいイメージしかなかったんです。一方で、フレンチやイタリアンは華やかなイメージがあったので、洋食のコックになろうと思って地元の専門学校に入学したんですよ。
——それがどうして日本料理の道に進むことになったんでしょう?
和田さん:講師として来ていたホテルの日本料理の料理長が、私をアルバイトに誘ってくれたんです。それで1年生の夏から卒業まで、ホテルの日本料理部門でアルバイトしました。そのときに見た親方や先輩方の仕事に対する姿勢がかっこよくて、日本料理の道に進もうと思ったんです。
——じゃあ卒業してからの進路は日本料理店で。
和田さん:「東京の日本料理店で修行したい」という気持ちがあったんですけど、自分みたいな半人前がそんなことを言うわけにもいかず黙っていたんです。ところが親方はちゃんと気持ちをわかってくれていて、東京の日本料理店で修行できるよう紹介してくれたんですよ。本当に嬉しかったですね。
——さすが親方ですね。その東京の日本料理店というのはどんなお店だったんですか?
和田さん:東京へ挨拶に行く直前まで、どんな店で修行するのか教えてもらってなかったんです。私が修行させてもらえるくらいだから、修業先に対してはまったく期待してませんでした。ところがちゃんと聞いてみたら日本料理の超有名店で、そこの親方は業界内では知らない人がないくらいの実力者だったんですよ。恐る恐る挨拶に行ったら、その親方はニコニコしていて「優しそうだな」と安心しました。
——お、それは優しい親方でよかったですね。
和田さん:ところが修行が始まった途端、とんでもなく厳しい方だと知りました(笑)。殺されるんじゃないかっていうくらいの厳しさで、お店を辞めた後でさえ、その店のある駅を電車で通るだけでビクビクしていたほどです(笑)
——おおお…。そのお話だけでどれだけ厳しかったかが伝わってきます。聞くのが怖いですけど、印象に残っているエピソードってありますか?(笑)
和田さん:私が焼き場を任されるようになったとき、大会社の社長さんがお食事に来られたんです。VIP待遇のお客様だったので、いつも以上に粗相がないようにと注意されていたんですが、私の焼いた魚にアルミホイルがくっついたままお客様の前に運ばれてしまったんです。お客様のお相手をしていた親方が鬼のような形相で調理場へ戻ってくるなり、何も言わずに私の顔を殴りつけました。私は自分のやった失敗の大きさに何も言えずに固まっているだけだったんです。そのとき、いつもは私に対して厳しい先輩が、親方に土下座をして「自分がしっかり見ていなくて、すみませんでした!」ってかばってくれたんですよ。その姿を見て泣きながら、自分もこういう先輩になりたいって思いました。それからは、そのときのことを思い出して絶対に同じ失敗をしないように気をつけるようになりましたね。
——厳しい修行をされてきたわけですけど、得られたものは大きかったんでしょうか?
和田さん:大きかったですね。親方は盛り付けも人任せにしないで自分でやっていたんです。そういう仕事に対しての妥協しない姿勢を見てきたことが、今の自分の仕事にもつながっています。
——さて、「Catering 割烹 わだの」を始めてからのお話をうかがいます。ご自分でお店をもたれて、特にこだわってきたことってありますか?
和田さん:巾着なす、神楽南蛮といった長岡ブランドの野菜を使って、自分が学んできた日本料理のかたちでお出しするようにしています。それというのも、そもそもは地元の食材のことをよく知っておきたいと思って、いろいろな農業体験やイベントに参加したからなんです。そのときにいろいろな生産者の方と出会って、野菜を育てる大変さや長岡野菜の魅力を知ることができました。それからは今まで以上に食材を大切に扱う気持ちで料理しています。
——地元野菜への愛を感じますね。厳しい修行を経験したおかげで身についていることも教えてください。
和田さん:「五味五色五法」という日本料理の基本は、しっかり意識して料理していますね。
——ん……勉強不足ですみませんけど「五味五色五法」って何のことですか?
和田さん:「五味」は甘さ、しょっぱさ、辛さ、苦さ、酸っぱさ、「五色」は赤、青、黄、黒、白、ちなみに緑は青に含まれます。「五法」は調理法のことで、切る、煮る、焼く、揚げる、蒸すことを指します。これを大切にして、中でもこのすべてを楽しめるように考えたのが「季節のひとさら」っていうメニューなんです。
——おお、それはぜひ食べてみたくなりました。ところで割烹の他にケータリングもやっているんですよね?
和田さん:ずっと調理場の中で仕事をしてきたので、今まではお客様と接することがなかったんです。だからお客様との距離が近いケータリングをやってみたいと思っていたんですよ。外食ができないお年寄りに料理を楽しんでほしいという思いもありました。最初はなかなか認知していただけなかったんですが、ようやく注文が伸び始めて……。でもその矢先に新型ウィルス感染症が拡大してしまって、ケータリングの需要が減ってしまったのは残念です。
——たしかに残念ですね。あと、最近移転されましたけど、それにはどんな理由があったんですか?
和田さん:長岡の食材を味わってもらうためにも、県外や市外の方が多い長岡駅前で店をやりたかったんですよ。今年になってようやく物件が見つかったので移転リニューアルをしました。まだ移転して1ヶ月しか経っていませんけど、手応えは感じ始めています。
——最後にこれからやっていきたいことを教えてください。
和田さん:長岡が誇れる食材の魅力を多くの人に知ってほしいと思っています。じつはYouTubeでも地元農家の紹介を配信しているんです。いつも料理を食べたお客様からお礼を言われるのは、店をやっている私たちばっかりなので、裏方の農家の方々にもスポットライトが当たるようにしたいと思っています。よかったらぜひ配信を見ていただきたいですね。あとはせっかく長岡駅前に移転したので、県外からたくさんお客様に来ていただけるようなお店にしていけたらと思っています。
日本料理の世界の厳しい修業で鍛えられた和田さんの作る料理は、学んだ基本をしっかりと守って、地元長岡の野菜を大切に使って作られています。長岡駅前への移転を機に、今後はさらに県外や市外のお客さんへ、長岡の美味しい食材の魅力を伝えていっていただきたいですね。
Catering 割烹 わだの
新潟県長岡市東坂之上町1-4-3 スカイハイツ 2F
0258-89-8251
18:00-23:00
日月曜休