佐渡を舞台に、人のつながりを考える。
映画『コスモ・コルプス』

その他

2026.04.06

text by Ayaka Honma

新潟を拠点に映像制作に取り組んでいる長谷川億名(はせがわ よくな)さん。昨年、佐渡を舞台にした『コスモ・コルプス』という作品を発表しました。来月からは東京で上映が行われるこの作品は、人が分断された未来の世界で、人と人とのつながりについて深く考えさせてくれます。長谷川さんが映像を撮りはじめたきっかけや、『コスモ・コルプス』のことなど、いろいろお話を聞いてきました。

Interview

長谷川 億名

Yokna Hasegawa

1985年那須塩原市出身、新潟県在住。20代のころから映画を撮りはじめ、2014年には『イリュミナシオン』、翌15年には長編作品の『デュアル・シティ』を発表する。2021年から佐渡市で『コスモ・コルプス』の制作をはじめ、来月からは東京の劇場で上映される予定。9月生まれの天秤座。

映画監督という仕事を知り、
長谷川さんが映画を作るまで。

――今日はよろしくお願いします。早速ですが、長谷川さんのこれまでのことを教えてください。

長谷川さん:10代の頃から映画を撮りたいと思うようになりました。ただ、映像のことを勉強したこともなくて、最初は作品を完成させるところまでたどり着けないことも多かったです。そんな挫折を何度か繰り返すうちに、東日本大震災を経験しました。映画を未完成で終わらせるのではなく、ちゃんと完成させようって思ったのは、この経験が大きかったと思います。その後、1作品目の『イリュミナシオン』を制作しました。

 

――それから2作目となる『デュアル・シティ』や、新作の『コスモ・コルプス』へとつながっていきます。

長谷川さん: 『デュアル・シティ』の制作から、『コスモ・コルプス』の完成までの10年くらいで、いろんなことを経験しました。映画プロデューサーに会うためにベルリン国際映画祭のワークショップに応募したり、語学の勉強をするためにベトナムに行ったり、ニューヨークに行ってドラマトゥルクをやってみたり……。振り返ると、いろんな経験をしましたね。

 

――そもそも、長谷川さんが映像作品を撮りたいと思ったきっかけは?

長谷川さん:両親が共働きだったこともあって、小さい頃から映画をよく見ていたんです。映画がゆりかごみたいな存在でした。でもそのときはまだ映画を作りたいって思わなかったし、映画監督っていう仕事があることも知らなかったんです。

 

――映画監督という仕事を知ることになったのは?

長谷川さん:中学校の同級生に小林くんっていう子がいたんですけど、その子が「映画監督になりたい」って言ったんです。そのときに、はじめて映画監督という仕事を知りました。家にちょうどビデオカメラがあって、それも一度撮影したのを、また巻き戻して二重に撮影できるような面白いカメラだったので、遊び半分で映像を撮りはじめたのが最初ですね。

 

――当時見ていた作品の中には、影響を受けたものもあったのだとか。

長谷川さん:当時、深夜帯に放送していたウォン・カーウァイ監督の作品とか、ミュージシャンとしても知られているビョークが出演した作品はすごく好きでしたね。当時は実験的な映像作品がすごく多かった気がします。私の今の作品も影響を受けているかもしれません。

 

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美しいだけじゃない。
自分が大切だと思うものを、映像に。

――東京で『コスモ・コルプス』と同時に上映される、『イリュミナシオン』のことも聞かせてください。

長谷川さん:この作品を作るまでは、自分が美しいと思うものを撮って作品にしたい、っていう気持ちが強かったんです。でも、震災が起きたとき、これから先がどうなるかが見えなくなって。そのときに、ただ美しいものだけじゃなくて、私が「絶対に大事だ」と思うことも伝えたいと思ったんです。

 

――東日本大震災が大きなターニングポイントだったんですね。

長谷川さん:震災が起きた後、東北に行く機会があって、そこで見た海辺の景色が綺麗だったんです。でも、生死やさまざまな失われたものの記憶がそこにあるから、綺麗なだけじゃないということも分かっていて、言葉ではうまく言い表せないような感覚を感じたんです。このときに感じた気持ちが、その後の作品につながっていると思います。

 

――2014年に発表されたこの作品の舞台は、2019年という少し先の未来のお話でした。

長谷川さん:今もそうですが、当時も災害や争いが世界のいろんなところで起こっていたんです。だからこそ、少し先の未来を作品で描いて、未来のことを知りたいなって思ったんです。でも、これは、「こうあったらいいな」じゃなくて「こうじゃなければいいな」っていう未来のことを描いていて。

 

――あえて望ましくない未来を描いたんですね。

長谷川さん:その未来をあえて予言することで、予言を外すことができるんじゃないかって考えたんです。『イリュミナシオン』と『デュアル・シティ』では、南北に分断した日本を舞台にしていて、『デュアル・シティ』では紛争が起こっている北部のことを描きました。作品のなかで紛争や分断を描けば、そうなる未来が消化されて、実現はしないだろうって思いながら制作しましたね。

 

――どちらの作品も、起こるかもしれない未来をシミュレーションしているようにも捉えられます。

長谷川さん:確かに、このふたつの作品は思考実験的な要素が入っているかもしれないです。新作の『コスモ・コルプス』は南北の分裂ではなく、地球に残る選択をした人と、地球から離れた人というふたつに分かれた後を描いたお話になります。

 

映画『コスモ・コルプス』メインビジュアル

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孤独の中で、感じるつながり。
最新作『コスモ・コルプス』のこと。

――新作の『コスモ・コルプス』は佐渡で撮影されました。

長谷川さん:ニューヨークに行ったとき、佐渡出身の方に「佐渡に遊びにおいで」って言われたのがきっかけで、佐渡に行ってみたんです。そのとき感じたのが、佐渡って私の中にある「ふるさと」をそのまま表したような、私の憧れていた「ザ・ふるさと」のような場所だったんです。佐渡に来ると、地元に帰ってきたみたいに安心するし、いつもよりよく眠れますし、はじめて行ったときから安心感がありました。

 

――劇中では、佐渡の自然が美しく表現されています。

長谷川さん:地球に残る選択をした人たちは、厳しい現実を目の当たりにすることになるのですが、それに対して、自然をすごく美しく撮ってギャップを生みたかったんです。厳しい現実の中で自然の美しさが人々の救いになるような存在にしたくて。佐渡の景色は見て欲しいポイントのひとつかなと思っています。

 

――『コスモ・コルプス』は「未来編」「未来縄文編」「現代編」の3部構成になっているんですね。

長谷川さん:最初は「未来編」だけの短編を作ろうと思ったんです。未来編を撮り終わった後、佐渡を車で移動していたときに、猫をひいてしまって。車を停めて様子を見に行ったら、猫は無事で、元気に飛び跳ねていたんですね。この不思議な経験を元に「現代編」を作りました。「現代編」の中には、そのときに撮った猫の映像も使われています。

 

――「未来編」「未来縄文編」と、「現代編」は舞台がそれぞれ違います。この3部作にはどんなつながりがあるのでしょうか。

長谷川さん:制作が終わってから気づいたんですけど、3部すべてに「見捨てる」と「見捨てられる」っていうふたつの構造があるんです。現代編は、猫をひいてしまった後、猫に生きていてほしいと私が強く思っていたから、猫は生きて待ってくれていたんじゃないかと思っていて。私は未だに、その猫が温かくて優しい、幽霊だったと思っているのですけど。見捨てなかったからこそ起きた経験として、この作品に落とし込みました。

 

――「未来縄文編」では、見捨てられた人にスポットライトが当たっています。

長谷川さん:見捨てられたふたりの人間のお話なんですが、実はこのふたりのスタンスはそれぞれ違うんです。ひとりは見捨てた人を恨んで、もうひとりは見捨てた人たちの元へ行こうとする人、という感じで。作品全体を通しては、つながりも意識しました。

 

――つながり、ですか。

長谷川さん:これを作っていたのはちょうどコロナの感染が広まっていたときでした。外に出ることも、人に会うことも思うようにできなくて、みんな孤独を感じていたと思うんです。でも、孤独だからこそ、生まれるつながりもあるんじゃないかって。一見、孤独って悲しいもののように見えるけど、実はそうでもないのかもしれない、っていうことを作品を通して伝えられたらいいなと思っています。

 

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ひとつひとつのシーンに、感情を。
いろんな角度から作品を観てほしい。

――今回の作品の撮影全体を通して、長谷川さんが大切にしていたことは、どんなことなのでしょう。

長谷川さん:撮影しているときと、編集しているときは、意識していることが結構変わってくるんですけど、映像に色気を出す、ということは共通して意識していますね。画面から感じる湿度のようなものにも似ているし、作品を観ていてぐっと入り込めるようなエモーショナルな感じにも似ていると思います。

 

――どのシーンを切り取っても絵画作品みたいで、ひとつひとつのカットをじっくり眺めて考察したくなります。

長谷川さん:そう思ってもらえるとすごく嬉しいです。映画作品って、制作者が撮影して編集しているから、ある意味で、答えが出ているものじゃないですか。でも私は、作品を観た人が考察して、別の捉え方をしてほしいんです。私が意図していなかったものも気づくことができるかもしれないですし。

 

――いよいよ東京で上映がはじまります。どんな反応が生まれるか、楽しみですね。

長谷川さん:私が撮るだけじゃ映画ってできなくて、映像を観ていろいろ考えて、作品のことを話してもらってはじめて映画になると思うんです。『コスモ・コルプス』はその人によって観る角度がいろいろある作品になったと思います。佐渡の自然の美しさを楽しんでもいいし、人とのつながりを考えたり、「未来がこうだったらどうしよう」って考えたりしてもらえたら、嬉しいですね。

 

『コスモ・コルプス』のオリジナルグッズ。Tシャツに描かれた、佐渡のワンポイントがとても素敵です。
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