越前浜にある植物染めの工房「植物染め 浜五」。
ものづくり
2020.01.29
草木を使った植物染めってどんなもの?
自分で摘んで来た草木を染料に使って自然の色を布に移し取る「植物染め」。使う染料になるのは、ヨモギ、ツバキ、サルスベリ、桜、梅など、誰もが馴染みのある植物の葉や枝なんです。越前浜にある「植物染め 浜五」という工房で、そんな植物染めをおこなっている作家・星名さんに植物染めの魅力についてお話を聞いてきました。


植物染め 浜五
星名 康弘 Yasuhiro Hoshina
1972年十日町市生まれ。新潟大学大学院 博士前期課程 自然科学研究科修了。2004年に越前浜で植物染め工房「橙鼠(だいだいねずみ)」を開業。2007年に「浜五」し越前浜海水浴場にある小川屋の2階に工房を移す。2018年に越前浜内にある現在の場所に工房を移転。道具のメンテナンスをするのが好きで、手間をかけて使うことができる生活用品を揃えて使うのが好き。
建築コンサルタントが植物染め工房を始めたわけ。
——星名さんはもともと染物の職人だったんですか?
星名さん:いいえ。私は新潟大学で建築の勉強をしてたんです。そのまま大学院の自然科学研究科に進んで、自然環境をうまく取り入れた生活の研究とかをしていました。
——じゃあ建設関係のお仕事をされていたと。
星名さん:はい。学生時代からアルバイトをしていた建設コンサルタントの会社に就職して、文化財とか歴史的建造物の補修現場で働いてました。でも、公共事業とかのスケールの大きな仕事が多かったので、個人レベルの相談に乗ったりする仕事もやってみたかったんです。それで7年半くらい働いた頃に独立して、歴史的建造物の調査や修理の他に、安塚町で雪を使った新エネルギーのコンサルタントをやりながら、古民家の補修とかをやってました。
——なぜ植物染めを始めることになったんですか?
星名さん:最初に植物染めを体験したのは、建設コンサルタント在職中に安塚町のイベントの企画を担当していたときです。学生さんに古民家で雪国の暮らしを体験してもらって、感想をレポートしてもらうというイベントに私自身も参加したんです。そこでたまたま見つけたキハダという植物。これが染料になることを知っていたので、試しに手ぬぐいを染めてみようと思ったんですよ。それで焚き火に鍋をかけて煮てみたら染まったんです。ちゃんと染まるんだって思って感動しましたね。
——それが染物初体験だったんですね。それをどうして仕事にするようになったんですか?
星名さん:古民家をリフォームしたときなんかに、庭木を剪定したりするんですよ。その枝葉を使って染めた暖簾を古民家に使ったりして、建築の仕事をしながら植物染めの仕事もはじめたんです。だんだんと植物染めの方が自分の生き方に合っているように思えてきて、染めの仕事に絞っていって、平成16年に仲間を集めて「橙鼠」という工房を開きました。イベント出店やワークショップを中心に活動していたので、どちらかというと仕事というよりはサークル活動のような雰囲気がありましたね。
——あれ?最初は違う名前だったんですね。「浜五」っていう名前になるのはいつからなんですか?
星名さん:だんだんと植物染めの方が自分の生き方に合っているように思えてきて、染めの仕事に絞っていって、一人で植物染めをすることになって、「橙鼠」のイメージを払拭しようと思ったんです。最初は「浜の五左衛門」っていう工房名にしようと思ったんですよ。実家の屋号が「五左衛門」だったので、越前浜の「五左衛門」ということでつけたんです。ところが、越前浜に似た屋号の家が実在することが分かったりして、ちょっと使えないかなってことになったんです。でも時間もなかったので、そのまま省略して「浜五」っていう名前に落ち着いたんですよ。

暖簾、ストール、ランチョンマット。オリジナルの「敷布シリーズ」。
——「植物染め 浜五」ではどんな製品を染めてるんですか?
星名さん:オーダーいただくことが多いのは暖簾ですね。昔の住宅に比べて最近の住宅は各部の寸法が自由になってきていて、売っている既製品の暖簾だとサイズが合わないことが多いんです。その他に、ストール、コースター、ランチョンマット、前掛けなんかも染めています。自分が着ていた服の色を染め直したいっていうお客さんもいますね。
——オーダー以外のオリジナル作品というのは作っているんでしょうか?
星名さん:作品としては「敷布シリーズ」というものを作っています。畳一枚分の大きさのフリークロスで、あえて用途を限定していない布なんです。一枚敷くだけで座る場所ができたり、ソファーや椅子に掛けて化粧布に使ったり、好きなように使えるアイテムなんですよ。

自然の植物を使って染物をする苦労。
——一般的な染物でも覚えるのは大変そうなのに、植物染めってかなり大変なんじゃないですか?
星名さん:そうですね。植物染めの本を買って勉強してみましたが、本の通りにはいかないので、自分で試しながら覚えていくしかなかったんですよ。染料図鑑も買ってはみたものの、材料の植物の写真が少なくて実際に探そうと思ってもどんな植物かわからないんですよね。だから、今でも暇さえあれば植物図鑑を眺めて植物の姿と名前を覚えようとしています。困ったときは新潟県立植物園のみなさんに教わりに行くこともあります。
——なるほど。植物にも詳しくないとダメなんですね。
星名さん:草むらで染めの材料に使えそうな植物を見つけても、摘むための許可を得るための所有者探しが大変なんですよ。連絡先がわざわざ表示されているわけじゃないですからね。ですから、植物を摘むことができる土地を持っている知り合いを増やしたり、摘んできた植物の種を植えて染料畑を作ったりして、染料が確保できるように努力しています。
——そのように苦労して確保した材料をどんな風に使って植物染めをするんですか?
星名さん:摘んできた植物を鍋で煮て漉すと染液ができるんです。同じようにして作る紅茶なんかも染液になるんですよ。染める材料になる布はお湯に通して下ごしらえしておきます。その後、布を染液に入れて、ムラなく染まるように中で動かします。それから定着と発色をさせる媒染剤に浸けると、化学変化が起こって色が変わるんです。あとは求めている色になるまで、染料と媒染剤の間を行ったり来たりして繰り返すんです。

——思った通りの色っていうのは、簡単に出せるものなんでしょうか?
星名さん:植物によって煮る温度や染める順番が変わってくるので、難しいんですよ。特に濃い緑は染めにくいんです。一度で緑に染めることはできないので、藍色に染めた後で黄色に染めて、混色の要領で緑色を作るんです。淡い色は使っているうちに色落ちしやすいので、念入りにじっくり染めるように気を使っています。
——星名さんが植物染めをするときにこだわっていることを教えてください。
星名さん:できるだけ自分で摘んだ植物を使って染めたいと思っています。植物の育った環境に対峙することで、表現するときのヒントにしたいと思ってるんです。あと鼠色は、以前の工房名「橙鼠」でも使っていたほど、テーマカラーとしてこだわっている色なんです。日本の色の中では「鼠」がついた名前が一番多いんですよ。それほど色々な鼠色があるんですね。どんな色と組み合わせても邪魔しませんし、やればやるほど奥が深い色なんです。

子育てに似ている植物染め。だから思いがけない発見も多い。
——最後に植物染めの魅力を教えてください。
星名さん:植物から色を引き出す作業というのは、タイミングや媒染液を変えると違った色になっちゃうんです。それは子育てにも似てると思います。思い通りにはならないけど、逆に思いがけない発見もあったりします。毎回違うのでマンネリ化することがなく、常に緊張感がありますね。だから、我が子のように大事に向き合うようにしています。

普通の染物に比べて多くの手間がかかる植物染め。でも、その手間を星名さんは面倒ではなく楽しみと捉えています。植物染めをしていることでいろんな人とのつながりができ、自分の生活が豊かになったと語ってくれた星名さん。その豊かさが優しい色として染物にも表れているのではないでしょうか。
植物染め 浜五
〒953-0012 新潟県新潟市西蒲区越前浜5411
0256-70-2733
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