JR新潟駅前の東大通り。交通量も人通りも多いこの道沿いに、小さなコーヒースタンドが登場しました。その名は「HOME coffee stand(ホームコーヒースタンド)」。コーヒーのテイクアウトを中心に、フードも楽しめて、スタンドでの飲食もできるんです。いったいどんなコーヒーがラインナップされているのでしょうか。今回はオーナーの長井さんに、コーヒーへのこだわりを聞いてきました。
HOME coffee stand
長井 雅生 Masaki Nagai
1998年新潟市北区生まれ。東京の大学を中退し、コーヒースタンドで修行をする。ワーキングホリデーを利用してアイルランドに渡ろうとしていた矢先、新型ウィルス感染症拡大による自粛を受け、帰省中だった新潟でコーヒーショップの手伝いをしながら過ごす。2021年2月「HOME coffee stand」を新潟市万代エリアにオープン。
——まず最初に、長井さんとコーヒーとの出会いについて教えてください。
長井さん:実は僕、昔はコーヒーが苦手で飲めなかったんです。初めて飲むことができたコーヒーっていうのも、ペットボトルの微糖コーヒーでした。でも、高校生のとき読んだあるブログに「コーヒーが飲めないのは、本当に美味しいコーヒーを飲んでいないからだ」って書かれていて、そこで紹介されていたのが「スペシャルティコーヒー」だったんです。
——勉強不足で申し訳ないんですけど……「スペシャルティコーヒー」ってなんですか?
長井さん:いろいろな定義があるんですけど、ひとことで言うと「品質の高いコーヒー」ってことでしょうか。適正な対価を支払ってしっかり管理された高品質なコーヒー豆を使っているんですけど、そうやって供給された豆は産地の特性を生かすために、あまり焼かずに豆本来の持ち味を味わう楽しみ方が増えています。
——ほうほう。それで「スペシャルティコーヒー」と出会った、と。
長井さん:ブログにはとても美味しそうに書かれていたので、ちょっと飲んでみたいと思ったんですよ。ところが、新潟には「スペシャルティコーヒー」を飲める店がほとんどなかったので、なおさら飲んでみたいという興味が湧いてきたんです。それで東京の大学へ行くついでにコーヒーも勉強しようと思ったんです。
——コーヒーの勉強はどんなふうに?
長井さん:まずは大学に通いながらイタリアンバールでアルバイトをしました。そこで初めてエスプレッソマシンに触ったんです。その頃は理屈も何もわかっていなかったので「美味しくな〜れ!」みたいな気持ちでコーヒーを淹れていましたね(笑)
——まるでメイドカフェのようですね(笑)。その後もコーヒーの勉強を続けたんですか?
長井さん:大学を中退して、ワーキングホリデーで海外に行ってみたいと思ったんです。何か海外でも仕事につながるスキルを身につけたくて、そこでコーヒーを美味しく淹れることができるようになろうと考えて、本格的にコーヒーの勉強をはじめました。
——本格的な勉強はどちらで?
長井さん:実技もしっかり磨きたいと思ったので、まず働けるコーヒーショップを探しました。それで、やっと見つけたコーヒースタンドで師匠というべきボスと出会ったんです。そのボスは元和菓子職人だった人で、とても厳しいこだわりを持っていました。自分との淹れ方の違いを見せつけられて、かなり衝撃を受けましたね。
——そんなに違いがあったんですね。そこでの修行は厳しかったんですか?
長井さん:厳しかったですね。僕の淹れたコーヒーを何度もボスに味見してもらったんですけど、最初は飲んですらもらえなくて、口に含んですぐに吐き出されるなんてこともしょっちゅうでした。
——そ、それは厳しいですね……。美味しく淹れるコツっていうのは教えてもらえたんですか?
長井さん:ボスのコーヒーを淹れるには、頭だけじゃなくて身体でも覚えなければならないんです。その中でもムラなく一定の湯量でコーヒーを淹れるというのが必要で。そのため仕事が終わって家に帰ってからも、スポンジにマジックでお湯を落とす位置を描いて、それに沿ってお湯を落としていくトレーニングとかを重ねました。半年かけてようやくボスからOKをもらって、コーヒーを淹れさせてもらえるようになったんです。
——そこでの修行はどのくらいやったんですか?
長井さん:最初は半年っていう約束でしたけど、結局、1年修行させてもらいました。本当はもっと長くいたかったんですけどね……。その後は念願だったワーキングホリデーを使ってアイルランドに行ってみたいと思ったんです。でもその前に一度実家に里帰りしたら、出発の1週間前に新型ウィルス感染症が拡大して、一斉に飛行機が飛ばなくなってしまいました……。
——あらら……タイミングが悪かったんですね。それでどうしたんですか?
長井さん:ずっとコーヒーを淹れずにいると、どうしても淹れたくなってくるんですよ(笑)。長い間淹れないことで勘が鈍るのも怖かったので、新潟のコーヒーショップにお願いして働かせてもらいました。
——そこからどんないきさつで「HOME coffee stand」のオープンへ?
長井さん:これから先の見通しが立たない状況で、自分の身の振り方を考えました。今までの僕は環境を変えることで刺激を受けて、自分を成長させてきたんです。東京に戻ってカフェにつとめるも考えたんですが、今回は新潟という土地で、環境を変えずに成長できるか挑戦してみようと思ったんです。それで「HOME coffee stand」をオープンすることになりました。
——オープンはいつでしたっけ?
長井さん:今年の2月です。不動産屋さんに相談したのが12月だったので、たった3ヶ月でオープンすることになったんですよね(笑)
——めちゃめちゃ早くないですか(笑)。どうしてこの場所でオープンしようと思ったんでしょうか? 駐車場がない場所でカウンターだけの店っていうスタイルは、東京ならともかく新潟ではかなり珍しいですよね。
長井さん:新潟にはあまりないスタイルだから、逆に挑戦してみようっていう思いはありましたね。「スペシャルティコーヒー」も新潟ではあまり一般的じゃないので、もっと多くの人に知ってほしいんです。そのためにも人通りが多い市街地でやりたいと思ったんですよね。
——なるほど。「HOME coffee stand」について詳しく教えてください。
長井さん:コーヒーやフードメニューのテイクアウトをメインにしています。もちろんスタンドで味わっていただくこともできます。フードメニューはクロワッサンサンドや焼菓子など、コーヒーに合わせて楽しんでいただけそうなものをご用意しています。
——コーヒーのこだわりも教えてください。
長井さん:世界基準のコーヒーを、当たり前に味わっていただけるような店を目指しています。そのレベルのコーヒーを日常的に楽しんでほしいんですよ。意識しているのはボスに教わったムラをなくす淹れ方です。あとコーヒー豆の個性を出すっていうよりは、酸味や苦味が強く出過ぎないようにして、スッキリ味わえるコーヒー。そうするために、豆やお湯の量から時間までをすべて数字で管理しているんです。
——かなりの厳格な作業ですね。お客さんはどんな方が多いんですか?
長井さん:周辺のオフィスに勤めている方々が多いですね。オープン当初は17時でクローズしていたんですけど、オフィス勤めの方から仕事帰りに買って帰りたいという声があったので、19時まで営業時間を延長したんです。そしたら今度は出勤前に寄りたいからオープン時間をもっと早くしてほしいという声をいただいて……。お応えしたいんですけど、今はひとりでやっているのでこれ以上営業時間を延ばすのは難しいんですよ(笑)。でも、できるだけお客様の声には応えていきたいと思っています。
——オープンして半年近く経ちますが、今後はどんなふうに営業していきたいですか?
長井さん:あって当たり前と思われるような、この街に馴染んだお店になりたいですね。「HOME coffee stand」のテイクアウトカップを持って街を歩く人が増えてくれると嬉しいです。コーヒーっていうのは嗜好品だから、味の好みは人それぞれですよね。僕も自分の好みで「スペシャルティコーヒー」を押しつけるのは嫌なんです。でも、いろんなコーヒーを知らなければ好みかどうかもわからないし、楽しむことはできないんじゃないかって思います。だから知らない人には、とりあえず「スペシャルティコーヒー」を知って、飲んでほしいんです。そしてできれば好きになってもらえるよう、もっと勉強して精進していきたいですね。
HOME coffee stand
新潟県新潟市中央区万代1-1-32 プリオール万代103
8:00-19:00(土曜は13:00-17:00)
日曜不定休