Things

レーズン酵母種のベーグルや豊富な焼き菓子が楽しめる「ホリウチおやつ」。

三条市鶴田にある「ホリウチおやつ」は、国道403号線沿いの長屋の中にある一店舗。ベーグル、焼き菓子、ケーキ、ご飯など、食事にも間食にもちょうどいい、喫茶と販売のお店です。今日はオーナーの堀内さんに、オープンまでの経緯や料理のアイデアなど、じっくりとたくさんのお話を聞いてきました。

 

ホリウチおやつ

堀内 梨沙 Risa Horiuchi

1981年三条市生まれ。20代の頃、もともと好きだった料理を仕事にするため自宅にベーグル工房を作る。自宅と出店でベーグル販売を3年間続け、2018年4月に「ホリウチおやつ」をオープン。

 

料理ではない進路を選び、3.11を機に自分には料理しかないと気づいた。

――堀内さんは最初からお料理の仕事をしていたんですか?

堀内さん:20代は会社に勤めて……試行錯誤の時代でしたね。働きながらパソコンとかいろいろ勉強したりしてみるんですけど、何も得ることはできず。「自分には他に何かできることがあるんじゃないか」って考えてました。それで勉強すればするほど、自分には料理以外何もないと気づいていくというか。ちょっと今考えると恥ずかしいんですけど(笑)

 

――料理を仕事にすることに決めたきっかけは?

堀内さん:やっぱりあの3.11の震災が大きかったですかね。私、誕生日が3月12日で、あの日がちょうど20代最後の日だったんですよ。たまたま自分は新潟にいたんですけど、実際にあの中にいたらどう思ってたんだろうとか考えて。そんなことがきっかけで、これからのこととか、いろいろ考えるようになりました。

 

――どんなことを考えていたんでしょうか。

堀内さん:見えない何かに自分たちは生かされているんじゃないか、って思うようになって。そこから菌に興味をもって。それで、自分で酵母を起こしてベーグルを作るってとこに急展開するんです。

 

――おお、急展開。料理ではなくベーグルの方に舵を切ったんですね。

堀内さん:そうですね。もともとベーグルが好きだったので。結局、いつどうなるか分からないって思ったんです。やりたいことを正直にやった方がよいのではないかと。周りにカフェをやってる友人も多かったので、その影響もありましたね。

 

 

――ベーグルが好きだから、自分のやりたいベーグルのお店を、と。

堀内さん:あとは当時、三条でベーグルを食べられるお店がなかったので。誰かやってくれたらいいのにってずっと思ってたんですけど。まぁ結局、思ってるだけじゃ誰もやってくれないので。そういうのが全部つながって、「自分でやりますか」みたいな感じになったんですよ。そのころ三条市がちょうど「創業塾」を初めて、それにも参加したり。

 

三条市の「創業塾」で得た、自信と勢い。

――「創業塾」に参加された経緯を教えてください。

堀内さん:知り合いから、「三条市が起業したい人を集めて勉強する場を設けているみたいだよ」って教えてもらって。三条は空き店舗が増えてきていて、「創業塾」は、商店街を活性化させるために空き店舗を利用してもらえるように三条市が企画した事業なんです。私が参加したのがちょうど第1回目でした。

 

――お、一期生。

堀内さん:私は「3年後に創業したいです」って参加したんですけど、他の皆さんは「今年やりたい」「来年やりたい」って人ばかりで。どうしよう、場違いだなって思いましたね(笑)。最終的には事業計画書を書かせられるんですよ。そしたら「出来がよいから発表しなさい」って。私、発表する3人の中のひとりに選ばれたんです。しかも一番最後のトリになって。え、どうしたんだろう……と思いながら(笑)。でもそこでひとりの先生に「堀内さんは皆さんの中で一番ゴールが遠いけど、一番よく考えている」って言ってもらえたんです。

 

――「遠回りが一番の近道」的な感じですかね。

堀内さん:先生の言葉は私の人生を変えましたよ(笑)。よく考えているって言われたのはすごく嬉しかった。お店巡りをしていて出会った私のリスペクトしているお店の方にも、いろいろなモノの見方を教わったりしながら計画書を作ったので、そういうのも役に立っていたかもしれないですね。

 

尊敬できる器屋さんとの出会い

――お店巡りはよくされるんですか?

堀内さん:まぁ昔から好きだったので。それこそ雑誌とか見ながらいろいろ巡ったり。今はもうないんですけど、私が器を好きになるきっかけになったお店が三条にあって、器の世界を教えてくださった方がいたんです。2年くらいしかそのお店はやっていなかったんですけど、すごい好きなお店で。料理作ったときに、今あるお皿じゃなんか違って、ほしいお皿を探していたときに、たまたまできたお店だったんです。それでそこに通うようになって。学ぶことがあったんですね。そういうことが事業計画書の評価にも反映されたかなと。

 

――お店のイメージは、事業計画書を作る前に早い段階で決まってたんですね。

堀内さん:そうですね。でもその事業計画書の評価を受けて、気持ちが変わったんですよ。まぁいきなりカフェでなくてもベーグル作って始めたりすることはできるんじゃないかと思って。それですぐに自宅の中に工房を作ってしまうんですよね。「3年後」って言ってた人が、結構な急展開で(笑)

 

――フライング(笑)。準備は大変だったんじゃないですか?

堀内さん:いろいろ見てたのでなんとなく導線とかイメージできてたんですけど。保健所とのやりとりが大変でしたね。何回も何回も図面のやり直しがありました。

 

――最初はベーグルのみだったんですか?

堀内さん:ベーグルのみでした。でも自宅の工房がなかなか分かりにくい場所にあって。住宅街の中で一方通行とかもすごく多くて。パンは生ものなので売れないとその日で廃棄しなければいけないじゃないですか。しばらくして、あ、これはまずいなって気づくんです。それで「日持ちするものもないとな……」って思って焼き菓子とか考え始めるっていう。立地ってすごい大事だなって思ったけど、自宅で始めた以上はここでどうにかするしかないので。でも結局それだけではやっていけず、アルバイトもしてました。

 

自宅工房から長屋に「ホリウチおやつ」をオープンする“つながり”

――その工房はどのくらいの期間続けたんですか?

堀内さん:3年以上はやったと思います。イベント関係の出店のご縁もあったりして、出店ではすごい頑張りましたし。それが頼りでしたね。

 

――その頃からどんどんお客さんは増えていったんですか?

堀内さん:工房に来てくれる常連さんがいたり、出店の常連さんができたり。3年間はそんな感じでした。出店に来てくださってもすぐ売り切れてしまったり。でもひとりでやってるから作る量は限界があるし。結構大変でした。

 

――じゃあとても忙しかったんですね。

堀内さん:4年目になるくらいに、だんだんもう頭打ちだなって気づくんですよね。どんなに出店して頑張っても、そんなに売上も変わらないし。この場所(自宅の工房)にいる限り、これ以上、もう売上が上がることはないって気づいたりして。そろそろどうしようか考えたほうがいいんじゃないかって思ってました。好きなことやるのはいいけど、将来のこと考えると、ここでやめた方がいいのかなって。そんなときに、たまたまこの長屋の人たちとつながりができて、声をかけてくださったんですよ。

 

――ベストなタイミングですね。

堀内さん:ほんとに運がよかったんだと思います。

 

――ここに移転されたのはいつですか?

堀内さん:2018年の4月に来たんですよ。

 

――長屋の方たちとはどういうつながりだったんですか?

堀内さん:私がいつも作ってるご飯とかをtwitterに投稿していて。それを見て「喫茶みたいなこともしたらいいんじゃないか」って思ってくれたらしいんですよ。

 

――twitterを見てくれてた方がこちらの長屋の方だったと。

堀内さん:もともとつながりはあったんですけど、そこからtwitterをフォローしあってみたいな。なにかを求めてつながりを作ってたわけじゃないんですけど。たまたまつながった人が、自分の人生をいつ助けてくれるか分からないっていうことをすごく感じました。

 

あの頃があったから、今があると思えたこと。

――移転してきて何か変化はありましたか?

堀内さん:喫茶も始めたことですかね。いろいろな媒体に取り上げていただいて、当初はすごく人が来てくれて。そのときに皆さん言ってくれたのが「前から行きたかったけど、お店には行けなくて、出店でも売り切れで買えなくて」ってことだったんです。3ヵ月くらい毎日そんな会話が続きましたね(笑)。そういうことたくさん言っていただいたときに、あの売れなかった時代にもちゃんと意味があったんだなって。時間がたって肯定されることもあるんだなと思いました。あの頃は大変だったけど、だから今があるんだなと。最初からここでやっていても、こうはなってなかったかもしれないし。初めてあの頃にありがたいと思いましたね。

 

――オープン当初はどんな感じでしたか?

堀内さん:喫茶を始めても、お客さんは前の販売のイメージが強いみたいで、買いに来て下さる方の方が多くて。すぐ売り切れて早い時間に店を閉めるみたいなことが多かったです。結局、工房で作って持ってくると、ここで作り足すことができないんですよ。忙しくなるのはすごくありがたかったんですけど。ちょっと嫌になったりもあって。それも贅沢だなとは思うんですけど。作っても作っても足りなくて、謝るっていう日が続いたので。なんでだろうって。昔からすれば夢のようなことなのに、いざ現実になると、あまり嬉しくないっていう。暇だったときが羨ましいとかちょっと思ったりもしました。

 

――最初は気持ち的にもすごく大変だったんですね。

堀内さん:大変でしたね。量が増やせないのに、たくさん人が来てくださって、謝って。やってもやっても謝ってるので、なんか何やってるのか分からなくなってきて。初めてケーキの泡立てをしながら、涙がこぼれてきましたね、夜の工房で(笑)。でも人に相談する暇もなかったので、一人二役の自分会議してました(笑)。そしたら次の日の朝はもう泣いたことなんて忘れて、ケーキ作り続けてましたね。やっぱり好きなことだからできるんだなってちょっと思ったり。

 

このへんにはなくて、自分が食べたいものを作っちゃう。

――おやつとか料理のアイディアはどこからくるんですか?

堀内さん:このへんにこういうものがないなとか、自分が食べたいものとか。それで生みだす感じです。

 

――じゃあこのクッキーみたいなのもそういう感じで生まれたんですか?

堀内さん:オートミールベースのクッキーなんですけど。それこそ私が7年前に工房始めたくらいのタイミングで、グラノーラがすごい流行ったんですよ。個人のお店でもグラノーラ作ってる人すごいいっぱいいたんですけど、作ると高いんですよグラノーラって。個人が作った小さくて高いグラノーラを誰が買うんだろうって思ったので、売れるかたちを考えた感じで。なんか旅するときにちょっと1個持っていけたらいいなみたいなイメージもあって。じゃ形はこうしてちょっと厚焼きで腹持ちよい感じにして。

 

 

――具だくさんのご飯もすごく気になってました。

堀内さん:具はだんだん増えていったような気がしますね(笑)。最初の頃の写真を見るともうちょっとシンプルな感じだったんですけど。結局、このご飯もお粥で出しているとこが三条にはないし、自分が求めていることというか、私、お昼にお腹いっぱいになるのあんまり得意じゃないんですよ。夕ご飯を作るの考えるときに、お昼でお腹いっぱいになってると台所に立つの苦痛なので。それがすごい嫌いで。そういう人が他にもいるんじゃないかなと思って。

 

長く続けた先に見えてきたものを見て、夢が叶ったと気づく。

――もっと増やして売ったりは考えないんですか?

堀内さん:もっと攻めるべきなのかなって思うときもありますけど、ちょっとビビりなところもあったり(笑)。「続ける」というのが自分の中で一番ポイントを置いてることだし、臨時休業とかもあんましたくないので、なんかできる範囲をずっと続けるっていう方を選んでしまいますね。

 

――今後の目標としても継続していくってことになってきますか?

堀内さん:私、具体的に目標を掲げるとなんかダメになるタイプなんですよね。なんとなく自分の中でぼんやりあって、それに向かってはいるんですけど具体的に言葉にしないというか。たぶん言葉にしちゃうと苦しくなるので。「あ、こういうのを願ってたんだなって」通り過ぎてから叶ったことに気づくっていうか。ひとことで言うならほんとに「続けること」になるんでしょうけど。その続けるかたちがどうなるかっていうのは、きっと続けていくうちに見えてくるんでしょうね。どうなるんでしょうねって感じです、自分でも(笑)

 

 

ホリウチおやつ

〒955-0051 新潟県三条市鶴田3-7-18

水~日曜日 11:30~17:30 L.O.17:00 (ランチ提供は12:00~)

定休日 月曜日、火曜日、第1・3水曜日

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
  • 部屋と人
  • She
  • 僕らの工場
  • 僕らのソウルフード
  • Things×セキスイハイム 住宅のプロが教える、ゼロからはじめる家づくり。


TOP