建築と本と喫茶が交わる場所、新潟市の「異人池建築図書館喫茶店」。
カルチャー
2022.09.12
今年2月に新潟市中央区、どっぺり坂のそばにオープンした「異人池建築図書館喫茶店」。住宅や店舗、商業施設などの設計を行っている「東海林健建築設計事務所」が事務所の隣ではじめた、喫茶店であり、図書館であり、建築の面白さに触れられるパブリックスペースなんだとか。今回は副館長を務める今井さんに「異人池建築図書館喫茶店」をはじめたきっかけや、今後の展望についていろいろとお話を聞いてきました。


異人池建築図書館喫茶店
今井 悠貴 Yuki Imai
1994年新潟市生まれ。5年前に「株式会社 東海林健建築設計事務所」に入社。「異人池建築図書館喫茶店」の立ち上げ時に設計監理を担当し、現在は副館長を務める。
建築をもっと身近に感じてもらえるようにはじめた図書館。
――今井さんは設計事務所の社員さんであり、こちらの施設の副館長でもあるそうですね。
今井さん:ここをオープンするときに設計監理を担当していて、そのままの流れで副館長をやっています。本棚の棚を1箱貸し出して、私設図書館として自由に本を置いてもらうっていう「一箱本棚オーナー制度」があって、そのオーナーさんとのやり取りや管理、本の貸し出し、図書館全体の整備とかをやっています。
――「建築図書館喫茶店」って不思議な名前ですけど、どういう経緯で作られたどんな場所なんでしょうか?
今井さん:もともと事務所で建築の本をたくさん所蔵していて、「自分たちだけで持っておくのはもったいないから」って、2020年くらいから、毎週日曜日に事務所を図書館として開放して地域の人たちに見てもらっていたんです。もっと建築を身近に感じてもらえるように、そういう活動をしていました。

――それから今のかたちになったのはどうしてですか?
今井さん:事務所でやっていたときは、近所の子どもたちがひとりふたり来るとか、それくらいだったんですけど、「もっとオープンにしよう」ってことで図書館を事務所の隣に移動して、集客とかも考えて喫茶店を併設して来てもらいやすいようにしました。置いている本も、建築の本と一箱本棚オーナーさんが持ってきた建築以外のいろいろなジャンルの本が混ざっています。
――建築以外のものをきっかけに、建築に触れてもらおうと考えたわけですね。
今井さん:本棚の奥のスペースが分室になっていて、普段僕たちはそこで仕事をしているんですけど、建築の模型を作ったり図面を見たりとかは、こっちに出てきて一般の方たちに混ざって作業しているんです。一般の方が建築の本を読んだり、建築を見に行ったりすることって、あんまりないと思うんですよ。だからこういうふうに、すぐ手の届く場所に建築の本があるのもそうですし、「今何やってるんだろう」と思って建築に触れてもらえる場所になったらいいなって思います。
――今井さんも、先ほどまですぐそこで作業されていましたよね。設計事務所のお仕事って、実際に見てみたくてもなかなか見られないし、興味深いです。
今井さん:そうですね。設計事務所って閉じた場所だと思うので、一般に見られることがないかなって思います。こっちも見られていると気が引き締まる気がします(笑)。一般の方も模型を作ることができる環境があるといいなと思って、人間を切り抜いたりイスを作ったりできる、簡単なキットも用意しています。

――建築にまつわるイベントとかもやられているんですか?
今井さん:2月のプレオープンイベントで、「親子で作る模型ワークショップ」をやりました。子どもは建築家役、お母さんがクライアント役をして、僕たちがやっているような設計のプロセスを踏みながら、要望を聞き取って、設計図を書いて、それを模型にするっていう。結構反響があって、終わってからも「またやらないのか」って言ってもらえたので、やらなきゃなって考えているところです。
――ワークショップをきっかけに「建築家になりたい!」って思うお子さんもいたんじゃないですか?
今井さん:そうですね。もともと建築に興味があったっていう子がいて、終わったときには「建築家にもっと興味が湧きました」って言っていましたね。

小さな私設図書館をはじめられる「一箱本棚オーナー制度」。
――それにしてもいろいろなジャンルの本が並んでいますね。改めて、「一箱本棚オーナー制度」について教えていただけますか?
今井さん:月額2,000円で図書館の本棚を一箱貸し出して、オーナーになった方にその人の置きたい本、置きたいものを置いてもらっています。棚に本の感想を書いたりできるノートを置いていて、本を借りた人と交換日記みたいな感じでやり取りしている人もいますよ。
――へ~!本屋さんでは見ないような本もあって面白いですね。オーナーさんは、どういうきっかけで本棚を借りていらっしゃるんでしょうか。
今井さん:「本が家に溢れていて置き場所がないから、セカンドプレイスにしたい」って置かれている方もいますね。あと、事業利用されている会社さんが何件かいらっしゃいます。月額5,000円で利用していただいていて、個人の方とは違って、企業のことを知ってもらうためにいろいろ置かれています。単純に自分の好きな本を共有したいっていう方もいますよ。

――好きな本を共有したい気持ち、すごく分かります。私も1箱借りてみたい……。
今井さん:それが、50箱用意していたんですけど今は全部埋まってしまっていて、空き待ちが数人いるっていう状況なんです。
――それは残念です……。今井さんも本棚を借りていらっしゃるんですか?
今井さん:僕副館長やってますけど、本をぜんぜん読まなくて(笑)。事務所のスタッフはふたり本棚を借りていて、建築の本とか食べ物にまつわる小説とか置いています。僕も読まなきゃなとは思うんですけど……。
――そうなんですね(笑)。でもこの環境だと、「読もうかな」って気持ちにはなりそうですよね。
今井さん:ほんとに、そうなんですよ。ほとんどの本にぱらぱらと目を通してはいます。今後おすすめとか聞かれたときに困らないようにしたいです(笑)

――喫茶店が併設されていますけど、本を読みながら食事をしても大丈夫なんでしょうか?
今井さん:大丈夫です。それが目的というか。本だけだと来にくいと思うんですよね。僕も図書館だけだったら多分来ないんですよ(笑)。集客できるような機能があると、食事しながら「じゃあこの本を手に取ってみようかな」とかできるかなと思います。
――なるほど。喫茶を利用する方はどういう方が多いですか?
今井さん:学生さんとか若い方が多いですけど、仕事終わりの方とか、近所のおじいちゃんおばあちゃんも。「カフェ」っていうよりも「喫茶店」なので、年配の方も使いやすいネーミングかなって思います。あとは、小学生が学校終わりに来ることもあります。一応図書館なので、喫茶メニューを頼まなくても本を読んだり勉強したりできるんですよ。

同じ空間で、それぞれがしたいことを思い思いに楽しむ。
――「異人池建築図書館喫茶店」をオープンしてから、今井さんの中で変わったことはありますか?
今井さん:ここがオープンする前は、設計事務所っていう閉じられた空間で、スタッフ以外とは誰とも話をしないっていう場所で仕事をしていました。分室に移ってからは、図書館に来た人が僕に話しかけてくれたりするので、すごくいい環境になったなって思います。
――ふむふむ。
今井さん:僕たちが模型とか図面をやっている隣で、お客さんが模型の作成キットを触っているっていう風景は面白いなって思いますし、たぶん作りたかったのってそういう風景なのかなって。建築を作っている人、コーヒーを飲んでいる人、本を読んでいる人。いろんなことをやっている人たちが混ざっている空間が作りたかったので、それが実現できているのは嬉しいですね。
――今井さんがこの場所を使って、今後やってみたいことはありますか?
今井さん:一箱本棚オーナーさんに一部のスペースを貸し切ってもらって、イベントやワークショップをやるとか、そういうのも積極的にやっていきたいです。さっそく来月決まっているものがあるんですよ。ここを僕たちが使って大々的にイベントをやるっていうのはあんまり考えていないんですけど、それでも模型ワークショップとか、もっと建築に触れられるようなイベントはやっていきたいですね。

異人池建築図書館喫茶店
新潟県新潟市中央区西大畑町591-1 異人池ハウス2F
営業時間 10:00-21:00
定休日 火曜
※駐車場なし。車は近くのコインパーキングを利用。
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