新幹線や列車を使った旅の醍醐味といえば、駅弁。車窓から景色を眺めながら、楽しくおしゃべりをしながらの食事は、普段以上に美味しく感じるものです。そんな駅弁を、その昔、新潟でどこよりも早く販売を開始したのが「神尾商事」。今回は5代目を務める神尾社長に、駅弁の歴史についてお話を聞いてきました。
神尾商事株式会社 神尾弁当部
神尾 雅人 Masato Kamio
1962年新潟市(旧新津市)生まれ。体育大学を卒業後、実家である神尾商事株式会社の手伝いをスタート。現在は5代目として、駅弁の企画開発などに取り組む。自社製品「えんがわ押し寿司」が好き。趣味はゴルフ。
――「神尾商事」では、いつ頃から駅弁の販売をされているんですか?
神尾さん:もともと「神尾商事」は、「神尾商店」として明治30年に創業しました。当時は沼垂駅での雑貨や生活用品などの販売を主体としていたのですが、明治40年に旧国鉄から「新津駅が大きくなるので、駅弁を販売するように」という内容の命令書が届いて、駅弁の販売に着手したんです。ちなみに駅弁を販売するために土地をもらったこともあって、「神尾商事」の住所は、駅と同じなんですよ。
――明治40年……。すごい昔ですね。もしかして、新潟で一番早いんじゃ?
神尾さん:正解! 明治40年に新潟でいち早く駅弁の販売をスタートしました。ただ、今みたいに豊富な種類の具材が詰まっている駅弁じゃなくて、白飯と梅干に、ちょこっとだけ漬物が添えられた、いわゆる日の丸弁当ってやつでしたね。
――昔懐かしいお弁当ですね。ちなみに、そのときどうして新津駅は大きくなったんですか? 新潟の中心ではない気が……。
神尾さん:鉄道学園(現新津鉄道資料館)や国鉄社員の寮もあって、新津はずっと鉄道の街として栄えていたし、東京や福島とつながる起点の駅になっていたんですよ。だから新津駅にはたくさんの人があふれていました。ホームでは「べんとー、べんとー」って、駅弁を売り歩いていたもんです。私は中学生のときから手伝いでやっていましたよ(笑)
――中学生が駅弁売りですか。やっぱり、当時から家業を継ぐ意思はあったんですか?
神尾さん:それが、まったく継ぐ気はなかったんですよ。子どもの頃はずっとサッカーをしていて、体育教師になりたかったから体育大学に進学しました。教員免許も取ったけど、卒業したときは教員の定員が埋まっていたからなれなくて。それで、勉強をしながら家業を手伝うことにしたんです。
――手伝いは、具体的にどんなことをしていたんですか?
神尾さん:当時は百貨店で「駅弁大会」という実演販売が盛んに行われていて、全国の百貨店を渡り歩く日々でした。あとは、その大会に行く社員の計画を立てたり、販売する駅弁を考えたり、手伝いというよりは、かなりしっかりと働いていましたね。
――継ごうと決意したのは、何かキッカケがあったんですか?
神尾さん:今から15年前に先代の父が亡くなりました。遺言状に「神尾商事を継げ」と書かれていたんですよね。ちょうど新潟が政令指定都市になって、新津駅前もいろんな開発があったのもあって、ここで父の遺志を継いでいこうと決心しました。
――「神尾商事」を継いでからは、今までと違った新しい取り組みをされましたか?
神尾さん:まずは時代を考えて、売れる駅弁の開発に取り組みました。「これ売れるの?」なんて意見もあったけど、父が残してくれた駅弁も残しつつ、今では約30種類の駅弁を販売しています。ちなみに年1回は新商品も発売しているんですよ。
――へ〜、30種類もあるんですね。「神尾商事」の駅弁は、どこの駅で買うことができるんですか?
神尾さん:東京駅の中にある駅弁専門店「駅弁屋 祭」で買うことができます。あとは大宮や宮城、新潟駅などの駅弁コーナーにも並んでいますね。
――それでは「神尾商事」の駅弁を紹介してください。どんな駅弁がありますか?
神尾さん:そうですね……、駅弁らしい駅弁だと、磐越西線のSLの復活を記念して発売した「SLばんえつ物語弁当」なんかがあります。磐越西線の新津から会津若松間の豊かな自然を眺めながら味わってもらえるように、四季折々の山と海の幸を詰め込みました。
――たくさんの具材が詰まっていて美味しそう! 神尾社長の力作は、どの駅弁ですか?
神尾さん:それなら「えんがわ押し寿司」です。これは開発に苦労したんですよ。なるべく厚くて食べ応えのあるえんがわを探し回ったし、どうやって生臭さを解決するかとか、3年も試行錯誤を繰り返した力作です。ちなみに私が作ったこの駅弁と、父が作った駅弁の合作もあります。それがこの「紅白押し寿司さけえんがわ」です。
――合作ということは、鮭の部分はお父さんが?
神尾さん:そうなんです。父が残してくれた「神尾商事」の看板商品「さけずし」を、縁起の良い紅白で合わせた駅弁で、それぞれの想いが詰まっているんです。多くの人たちに愛されて代々続いている駅弁と、自分が頑張って作りあげた駅弁。このふたつが合わさった「紅白押し寿司さけえんがわ」は、ぜひ食べてもらいたい一品です。
――思い入れのある商品なんですね。それでは最後に質問です。神尾社長にとって、駅弁とはどんな存在ですか?
神尾さん:駅弁は、旅を楽しく演出してくれるものだと考えています。だからこそ、旅先で食べてもらうのが一番です。新幹線が開通したことによって、新潟から東京までは2時間ちょっと。すぐ到着してしまうかもしれないけれど、お土産としても、旅の演出に一役買ってくれたら嬉しいです。
神尾商事株式会社 神尾弁当部
新潟県新潟市秋葉区本町1-1-1
0250-22-5511