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人と関わることで生まれるゆらぎを楽しんで踊る「池ヶ谷 奏」。

フリーの舞踊家として、東京と新潟の2拠点で活動する池ヶ谷奏さん。国内・世界各地から選ばれた舞踊家たちから成る舞踊団「Noism」に10年間所属した経歴を持ち、現在は自身も舞台に立ちながら、コンテンポラリーダンスやバレエの指導を行っています。池ヶ谷さんのこれまでの活動のことや踊るなかで大切にしていることなど、いろいろなお話を聞いてきました。

 

 

舞踊家

池ヶ谷 奏 Kana Ikegaya

神奈川県生まれ。3歳よりクラシックバレエを、11歳よりコンテンポラリーダンスをはじめる。数々の国内コンクールにて上位入賞。お茶の水女子大学舞踊教育学コース卒業。2010年より「Noism2」に、2013年より「Noism1」に所属。2020年9月よりフリーランスの舞踊家として様々な振付家の作品に出演。自身の振付作品や他ジャンルとのコラボレーション作品を発表する他、東京・新潟にてバレエクラスやコンテンポラリーダンスクラスの講師を務める。

 

小さい頃から大好きで、夢中で続けてきた「踊ること」。

——池ヶ谷さんが踊りをはじめたのはいつだったんですか?

池ヶ谷さん:音楽を聴いて踊ることが小さい頃から好きで、3歳のときに母親がバレエ教室に通わせてくれました。見学に行った日から「なんで私は踊れないの」って、踊りたくて仕方ない感じだったらしいです(笑)。初めて発表会に出たときも、お化粧した自分の顔とか、照明がきらきらしている舞台とかに衝撃を受けたことを覚えています。それからはもう舞台の虜です。

 

——昔から踊ることが大好きだったんですね。コンテンポラリーダンスとはいつ出会ったんでしょう。

池ヶ谷さん:小学生のときに近所でコンテンポラリーダンスを観る機会があって、そのときに「すごく面白いダンスがあるな」と思いました。バレエは笑顔できらきらしている世界ですけど、コンテンポラリーは不思議な世界だし、床に手をついて踊るところとか、動きの幅の違いに驚きました。

 

 

——それからご自身もコンテンポラリーダンスをはじめることになるわけですね。

池ヶ谷さん:それからしばらくして、バレエの先生がコンテンポラリーの先生を呼んでくれて、教えてもらえることになったんです。それでバレエと並行してコンテンポラリーを習いはじめました。

 

——コンテンポラリーダンスって、バレエとも通じるところがあるんでしょうか。

池ヶ谷さん:そうですね。コンテンポラリーダンスにはいろんなメソッドがあるんです。基礎を持たないような自由な表現方法もあって、それも正解なんですけど、私はバレエが好きだし「なんでもいい」みたいなのが好きではなくて。型があって、その上でどんな表現ができるか追求する美しさが好きなんです。

 

©KCA2022 撮影:草本利枝

 

——大学も、舞踊を学べる学部に進学されたそうですね。

池ヶ谷さん:お茶の水女子大学の舞踊教育学コースに入りました。舞踊学とか歴史、解剖学、あとはもちろんダンスの実技授業があったのと、自分たちでダンスを創作する授業もありました。創作はそのときに学んで、自分たちで振り付けるっていう経験をたくさんさせてもらったことが今にもつながっていると思います。

 

——「Noism」に10年間所属されていたと聞きました。それをきっかけに新潟へ?

池ヶ谷さん:大学4年生の夏休みから「Noism2」で研修生をさせてもらっていて、そのときから新潟と東京の2拠点で生活していましたね。週1日の休みの日に大学に行ってゼミを受けて卒論を書いて。先生とか友達の顔を見て気分転換して「また6日間頑張ろう!」みたいな。貪欲に学ぼうとしていましたし、刺激が楽しかったんです。

 

——お休みがなくても平気なくらい夢中だったんですね。

池ヶ谷さん:それから研修生を3年やった後、2013年から「Noism1」でプロとして活動しはじめました。研修生の頃から練習は厳しかったので環境はそこまで変わりませんでしたけど、お給料が出るようになって「私はダンサーです」と言える立場になるし、責任の重さは変わりましたね。

 

 

——今はフリーのダンサーとして活動されていますよね。どいう思いで独立されたんでしょう?

池ヶ谷さん:2020年に独立したんですけど、「10年の節目」っていう気持ちもあったし、他のダンサーと踊ったり環境を変えたりして刺激を受けたかったっていうのもひとつ。あとは自分の実力が、カンパニー内だけではなくて、他の場所でどういうふうに生かされるか、どこまで通用するか知りたかったっていうのもあります。

 

——舞台に立つだけではなくて、コンテンポラリーダンスやクラシックバレエのクラスで指導もされているとか。

池ヶ谷さん:新潟だと巻の方で教えたり、寄居でオープンクラスをやったりしています。もともと自分の考えをシェアすることが好きなので、私のひとことでその人の動きがよくなっていくのを見るのが喜びです。

 

——教えるなかでの気づきもありますか?

池ヶ谷さん:「こういうふうに動くとこう見えるんだ」って自分へのフィードバックにもなるし、生徒さんから学ぶことも多いです。他の人とコラボしている感覚というか。教えるときは、自分が表現したり踊ったりするときとはぜんぜん違う脳みそを使うので、2拠点生活と似ていますね。ダンサーなのか指導する側なのか、違う脳みそを行ったり来たりするのが楽しいです。

 

ひとりで作るものよりも、互いに刺激し合って生まれるものを見たい。

——和太鼓奏者の方や他のダンサーの方とコラボしたり、ファッションショーで振り付けを担当したりと、活動の幅が広いですよね。

池ヶ谷さん:私は「絶対にこれ」というよりは「ゆらぎ」が好きなんです。例えばファッションショーでの振り付けとか、違うジャンルの人と一緒にやるときなら「そういう考えもあるね、じゃあ自分だったらこういうふうにできるよ」って、お互いに刺激し合ってかたちにする方が得意ですし好きですね。

 

——刺激を求めていろんな方とコラボされているところもあるんですね。

池ヶ谷さん:パズルのピースを自分で作ってはめるんじゃなくて、いろんな人がくれたピースを「こうしたらかたちになるね」ってはめていく方が好きなんです。それに違う人の刺激によって自分がどう変化するかを見たいし、それが自分の成長につながると思っています。

 

——じゃあ普段の生活でも、周りの人からアイデアや考えを吸収するように意識されているんでしょうか。

池ヶ谷さん:そうですね。人と話すのとか、人が表現したものを見るのも好きだし、アートの場所に行くのも旅行も好きです。旅先でもいろんな人とお話ししますし、あとあとになって「あのときこういう感情になったな」と思い出して、それが作品になることもありますね。

 

 

——柔軟に考えを変えられる池ヶ谷さんでも、踊る上で「ここはゆずれない」っていうこだわりはありますか?

池ヶ谷さん:音に関しては結構ストイックかもしれないです。人とコラボすると「その意見いいね」って私がゆらぐことが多いんですけど、音に関しては「こうじゃないと気持ち悪い」っていう感覚があって。だから音ハメをしたり、歌詞に合わせて踊ったり。「この楽器にはこの動きがいい」とか、そこにあえてこだわることで生まれる動きを使うこともあります。

 

©KCA2022 撮影:草本利枝

ダンスを見て、素直に感じて、自分にしか味わえない体験をして欲しい。

——これは気になっている人も多いと思うんですけど、ダンス作品の鑑賞の仕方に正解ってあるんでしょうか。

池ヶ谷さん:「作品の意図はこうなのかな」って正解を求めちゃう人が多いと思うんですけど、考えすぎないでほしくって。日常と違う動きをしているし「笑っちゃいけないのかなと思いつつも笑っちゃった」とか「人ってこんなふうに動けるんだね」とか、それくらい素直に見てほしいですね。

 

——自由に感じて、自由に感想を持っていいんですね。

池ヶ谷さん:あとは生のダンスを味わって欲しいです。流れている音楽が聴いたことがある曲でも「こういうふうに踊ると、こういうふうに聴こえ方が変わるんだ」という発見があるのもひとつ体験ですし。「衣装がふわっと舞ってすごく美しかった」って思うのも体験になりますし。「あのときの感覚に似ているな」って自分の記憶とリンクさせて見てもらうのもいいと思います。それはその人にしか味わえない感覚ですから。

 

 

 

池ヶ谷 奏

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