雑誌、新聞、写真など、さまざまな素材の切り抜きを組み合わせることで生まれるコラージュアート。フランス語では「糊付け(のりつけ)」を意味するように、バラバラの素材を糊で張り付けて作る、現代絵画技法のひとつです。海外で培った独特の感性やスケートカルチャーをミックスしたフィーリングで、制作に取り組むアーティスト「KATSUNORI IRISAWA」こと、入澤克憲さんにインタビューしてきました。独特の世界観のヒミツはいかに。
入澤 克憲 Katsunori Irisawa
1991年新潟生まれ。長岡造形大学視覚デザイン学科写真映像コースを卒業。オーストラリアをはじめ海外を渡り歩き研ぎ澄まされた感性は、KATSUNORI IRISAWAのアナログな世界を作り出している。
――絵を描いたり、アートを観たり、美術には昔から興味があったんですか?
入澤さん:そうですね。物心ついた頃から好きでした。それとスケボーをしていたので、その影響もあると思います。
――スケボーはアートとかけ離れている印象です。どうして影響が?
入澤さん:当時、好きだった(今でも)スケーターブランド「VOLCOM(ボルコム)」は、アート性が高くて、それこそ広告なんかはコラージュっぽい感じでした。高校の頃に、自由研究みたいなノリで「何かを好きなモノを作りましょう」といった授業があったんです。その時に「VOLCOM」のマネをして、雑誌とかを切り貼りしたのが初めてのコラージュでしたね。
――なるほど。確かに昔の「VOLCOM」のアートワークはコラージュっぽい作品が多くありましたね。その授業の後からは、本格的にコラージュを?
入澤さん:ガッツリやりはじめたのは大学生の時ですね。パークに行くほどスケボー三昧な生活をしていたら、調子に乗り過ぎて大怪我をしたんです。足の靭帯を切ってしまって。病院生活がヒマで、母にいろいろな雑誌を持ってきてもらって切り貼りしはじめたら止まらなくなりました(笑)。大学では映像を専攻していて、MVを制作している会社にインターンに行ったんですが、自由に作れないクリエイターのしがらみに耐えられずに、就職しないで自由に作品作りができるアーティストとしての道を選びました。
――就職はされなかったんですね。アーティストとしての活動、まずはどのようなことを?
入澤さん:といっても生活しないといけないので、フリーターをしながらでした。作品を作るにあたってたくさんのインスピレーションが欲しくて、とにかく働いてお金をためては国内外問わず放浪しては切り貼りしていました。
――海外はどこに?
入澤さん:初めはフィリピンに。めちゃくちゃチープな旅だったので、あまり出歩けなくて(笑)。その後はタイ、インドネシア…オーストラリアには約1年滞在していました。オーストラリアが最もアートに対しての刺激をくれて、今の土台を作ってくれたかもしれないですね。
――オーストラリアに住んでいたんですね。僕もです(笑)。10年以上も前に、ゴールドコーストで暮らしていました。
入澤さん:え?同じくゴールドコーストが拠点でした。奇遇ですね(笑)。オーストラリアでは、最東端の街・バイロンベイによく行っていました。スケボーしたり、サーフィンしたり、ちょっと独特な空間に浸って。そこで得た刺激や感性をすぐ作品に落としたいと思い、公園で切り貼りして。すると、いろいろな外国人が声をかけてくれたんですよ。「Good Art !!」「Awesome !!」とか言われたら、作っているだけじゃなくて発信もしないとなんだって、気付かされてんです。
――入澤さんにとって、コラージュとは?
入澤さん:絵、写真…なんでもよくて、何かと何かを組み合わせて1つの作品にすることです。そして、その作品に自分の感じてきたインスピレーションを落とし込む、これがマイスタイルですね。
――海外やスケボーから得た独自のインスピレーションですね。ちなみに切り貼りする素材って、どうやってセレクトしているんですか?色合いとか、とてもアナログな印象を受けたんですが。
入澤さん:DJがレコードをディグるかのように、僕は古本屋に行って雑誌をディグります。ファッション雑誌も探しますが、宇宙や大自然の図鑑も。現実離れした色やビジュアルにビビっときますね。特にアナログで古いやつ。年代を重ねて色が変化して、ちょっと日に焼けていたり、当時の格好をしている人が写っていたりすると完璧です。
―なるほど、このアナログな世界観は、元になる雑誌の歴史や背景が醸し出しているんですね。作品作りをする時、決まったルーティンはありますか?
入澤さん:ルーティンというか、人生のノイズが多いときは海、山など自然に触れるようにしています。浄化?してもらい、さらにインスピレーションをもらいます。コラージュする時は、降りてきた感性をアウトプットしているので、ノイズが多いと作れないんですよね。
――スピリチュアルな話になってきましたね(笑)。それじゃ、普段は海、山が近い場所を拠点に?
入澤さん:今は逗子で暮らしています。2019年に「BlueMoon Zushi(ブルームーンズシ)」という海の家でお世話になって、気に入っちゃったんです(笑)。カメラマン、ヨガの先生など、夏の期間だけ働いたり、生活をしている人が多くて。その人たちの波動やセンスを吸収しまくっています。刺激的な毎日です。
――アート製作は、タイトルやコンセプトを決めてから行いますか?
入澤さん:正直、無からですね。無意識の状態から切り出しておいたパーツを組み合わせて、直観や感性で自分のコラージュは出来上がります。なので、こんな作品を作って欲しいと言われても、まったく作れないんですよね。
――無意識からスタートって凄いですね。人物の顔がわかるパーツが少ないように思えますが、どうしてですか?
入澤さん:表情が見えるモノは使わないようにしています。顔が見えると何かをイメージしてしまうので、なるべく作品から何かを考えてもらえるようにしています。あと女性を使うようにも。身体のラインがキレイなので、人体の曲線美に無機物や自然を組み合わせて…フィーリングで完成します(笑)
――ほとんど感覚から生み出しているんですね。
入澤さん:視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚からなる五感をしっかりと感じながら生きることを大切にしていて。たくさんのアートで視覚を養い、シチュエーションにバチっとハマる音楽で聴覚を刺激して、海や山で自然の匂いを感じることで嗅覚が休まり、身体を考えたオーガニックな食事で味覚を肥やし、日々の生活でたくさんのモノに振れることで触覚からも刺激をもらう。たまにヨガや瞑想なんかをして、心もフラットにすると、作品のイメージが降りてくるんですよ。どんだけスピリチュアルなんだって話ですよね(笑)。常に感覚を刺激して、追及することで、生きながらに得たものをコラージュ作品としてアウトプットし続けていけるんだと思います。
現在はちょっとだけストップしているという、アパレルなどの商品展開。試作品として見せてくれたスケートデッキは、自身のインスピレーションを落とし込んだアートワークの上にクリアのデッキテープを張りることでオリジナルのデッキとなっていまいした(作品と言っても自分でライディングする用)。コラージュをはじめた原点であるスケボー、そして「VOLCOM」の存在。「VOLCOM」はスケート、サーフ、ミュージック、アートと、多くのカルチャーに精通したブランドです。インタビュー後に一服しながら話していたら、「VOLCOMからオファーがきたらヤバいっすね!」と、たくさん刺激をくれたブランドに対しての夢をキラキラした眼差しで語ってくれました。近い将来、スケートショップで見覚えのあるアナログな世界観に出会えるかもしれませんね。
KATSUNORI IRISAWA