三条市に「毛糸と雑貨 Blue(ブルー)」というお店があります。編み物好きなオーナーが、その魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいという思いで今年、雑貨と毛糸のお店から毛糸メインのお店へとマイナーチェンジしたんだそうです。色とりどりの毛糸に囲まれた店内で、オーナーの眞野さんからお話を聞いてきました。
毛糸と雑貨 Blue
眞野 聡子 Akiko Mano
1970年大阪府生まれ。企業で営業職を経験後、調理師専門学校で料理の勉強をはじめる。当時アルバイトしていた長野のペンションでご主人と出会い、結婚を機に1999年より三条市へ移住。2001年より子ども用品のネットショップをはじめ、2010年に雑貨店「Blue」をオープンする。
——「毛糸と雑貨 Blue」という店名になっていますけど、店内のほとんどを毛糸が占めていますよね。
眞野さん:ええ、今年からは本格的に毛糸の販売をメインに営業していくことにしたんです。
——それはどうしてなんでしょうか?
眞野さん:コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えたじゃないですか、その時期に以前やっていた編み物を再開してみたら、楽しさを思い出したんです。50歳を過ぎたことだし、これからは自分の好きなことを仕事にしていきたいと思って「編み物の店」としてやっていくことにしました。
——なるほど。眞野さんはいつ頃から編み物が好きだったんですか?
眞野さん:私の母が編み物教室を開いていたので、その影響で子どもの頃から編み物を趣味にしてきました。でも結婚してからは子育てや家事が忙しくて、編み物から遠ざかっていたんです。
——大阪出身の眞野さんが新潟に来られたのは、ご結婚がきっかけですか?
眞野さん:はい、専門学校時代にアルバイトをしていた長野のペンションで、お米を卸していた主人と出会ったんです。1999年に主人の実家がある三条市に来ましたけど、最初はなかなか馴染めずに苦労しました(笑)
——どのように苦労したんでしょう?
眞野さん:私が生まれ育った大阪では、YesかNoかをはっきり口にする人が多いんです。でも新潟の人は優しいので、はっきりとNoとは言わないんですよ。だから人との距離感やコミュニケーションの取り方に慣れるまでは苦労しましたけど、今ではすっかり慣れましたね(笑)
——それはよかったです(笑)。ところで、お店をはじめたのはどうしてなんでしょうか。
眞野さん:2001年に子どもが生まれたんですけど、ベビー服を買える場所がなくて困ったんですよ。海外製の下着が欲しかったんだけど、売っているお店が近くになくって。そういった不便な思いをきっかけに、個人輸入したベビー用品を販売するネットショップをはじめたんです。ホームページのテンプレートがない時代だったので、本を読んで勉強しながらHTMLのタグを打ち込んで、ショップサイトを自作しました(笑)
——それはすごい(笑)。ネットショップの反響はいかがでしたか?
眞野さん:24時間電話がかかってくるので大変でしたね。昼間は子育てをして、夜中に仕事をしていました。だんだん忙しくなってきたので、事務所兼作業場としてこの建物を建てたんですよ。
——この店舗はネットショップの事務所として建てられたんですね。そのネットショップは今も続けているんですか?
眞野さん:大企業が続々とWEBショップを立ち上げはじめたので、とても個人では太刀打ちができないと諦めて、ネットショップを閉めることにしました。でも、せっかく作ったこの建物がもったいないと思ったので、2010年から雑貨店をはじめたんです。
——最初の頃はどんな雑貨を扱っていたんですか?
眞野さん:量販店で売っているようなものではなく、愛着を持って長く使えるような雑貨にこだわりました。県内の作家さんによる作品展なんかも開いていたんですよ。でもコロナ禍がはじまって、人の集まる機会が減ってギフトを買い求める人もいなくなり、企画展を開くこともできなくなっていったんです。
——カラフルな毛糸が多いようですけど、これはどんな毛糸なんでしょうか?
眞野さん:京都在住のドイツ人・梅村マルティナさんが、ドイツの毛糸メーカーに発注して製造している「Opal(オパール)毛糸」の「KFS(ケー・エフ・エス)シリーズ」を取り扱っています。新潟県内で扱っているのはうちだけなので、市外はもちろん県外からも買いに来てくれるお客様がいらっしゃいます。
——どんな特徴のある毛糸なんですか?
眞野さん:編んでいくだけで素敵な模様が出来上がる、不思議な毛糸なんですよ。単色の毛糸だけで編んでいると飽きちゃう方も、どんどん模様が出来ていくから飽きずに編むことができるんです。ドイツならではの鮮やかな色も、日本の毛糸にはない魅力だと思います。
——へぇ〜、勝手にデザインが出来上がっていくんですね。
眞野さん:そうなんですよ。なかには現代絵画の巨匠・ゴッホの作品をテーマにした毛糸のシリーズもあって、編んでいくと作品をイメージした靴下が編めちゃうんです。モネのシリーズもあるんですけど、こちらは人気があって手に入りにくいんですよ。
——あ、本当だ。毛糸を見ただけでも、どの作品をイメージしているのか何となく分かりますね(笑)。ちなみに「KFS」シリーズというのは、どういったものなんですか?
眞野さん:「KFS」シリーズは東日本大震災をきっかけに生まれました。梅村マルティナさんが気仙沼の避難所にOpal毛糸を寄付したところ、心が落ち着いてよく眠れるようになったと被災者から好評で「もっと送ってもらいたい」という声が多く寄せられたため、気仙沼に「梅村マルティナ気仙沼 FSアトリエ駅前ショップ」という専門店をオープンしたんですよ。そのショップで特別オーダーしているのが「KFS」シリーズなんです。
——そういった経緯で作られたシリーズなんですね。眞野さんはどうしてその毛糸を取り扱うことにしたんでしょう?
眞野さん:「KFS」の「K」は気仙沼のことで「FS」というのは「フリーソックス」というドイツの習慣を意味しているんです。ドイツでは編んだ靴下を売って、得た利益を寄付する習慣があって、それを「フリーソックス」というんですよ。この毛糸を扱うことで気仙沼の雇用や税金として復興に役立ちたかったので、うちの店でも取り扱いたいと思いました。
——毛糸をメインにしてみて感じたことはありますか?
眞野さん:思っていたよりも、新潟には編み物を楽しんでいる人が少ないということを感じました。だから、編み物の魅力を多くの人に伝えていきたいと思ったんです。
——確かに、あんまり編み物をしている人を見かけませんね。
眞野さん:だから三条で地域おこし協力隊をやっている方とコラボして、編み物を楽しむためのニットカフェを開催しています。あとインスタライブで編み物講座を発信したりしているんです。「KFS」シリーズの取扱店でコラボしたスタンプラリーにも参加しています。
——いろいろな活動をしているんですね。こちらのお店では編み物教室をされていないんでしょうか。
眞野さん:「教室」ではなく「編み部」という部活動のようなものをやっています(笑)。お互いがどんな境遇なのかは関係なく、たわいのない会話をしながら編み物を楽しんでいるんですよ。あと毛糸を買ってくれたお客様には、お茶代として300円いただければ編み方をお教えしていますので、お気軽にお越しいただきたいです。
——眞野さんが思う編み物の魅力を教えてください。
眞野さん:編み物に集中している間は日常の煩わしいことを忘れて、心が落ち着くし無心になれるんです。手のなかだけで作品を完成させることができて、達成感を味わうこともできます。編み物を通して友達ができることも魅力だと思います。これからも編み物の楽しさを多くの人に伝えて、靴下が編める人を増やしていきたいと思っています(笑)
毛糸と雑貨 Blue
三条市荻島1245
0256-32-7180
13:00-17:00
水金土曜、第2第4木曜休