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パリ在住経験のある写真家「水島 優」さんが発信するまちづくり。

新発田市の商店街にある築150年の町家を拠点に「ISEZI Social Design Project(イセジソーシャルデザインプロジェクト)」を立ち上げ、地域観光の発展やまちづくりに取り組んでいる「水島 優」さん。専門学校を卒業後、約20年間パリでフォトグラファーとして活躍された経歴の持ち主です。今回は水島さんにプロジェクトの概要や帰国のきっかけなど、いろいろとお話を聞いてきました。

 

ISEZI Social Design Project

水島 優 Masaru Mizushima

1983年新発田市生まれ。バンタンデザイン研究所卒業後、パリへ移住。フォトグラファーとして活動しながら20代半ばにベルサイユ市立美術学校へ入学し、絵画や彫刻を学ぶ。2021年に帰国。新発田を拠点に「ISEZI Social Design Project」として活動中。

 

パリのフォトグラファーが、古民家と蔵を活用したプロジェクトを発足。

——水島さんはパリで長い間カメラマンをされていたそうですね。どんなきっかけで移住されたんですか?

水島さん:学生時代は英語ができなかったですし、海外への興味もなかったので、日本の広告代理店に就職したいと考えていました。でも、たまたまパリのカメラマンがアシスタントを探しているという話が舞い込んできまして。フランスで仕事ができる機会は今しかないかもしれないと思い、パリへ行く道を選びました。

 

——パリでのご経験についても教えてください。

水島さん:日雇いのアシスタントから、徐々に自分の仕事が増えていった感じでしたね。ファッションフォトグラファーを目指していたので、その分野の仕事もたくさんしました。でも20代半ばに「ファッション関係の仕事はもういいかな」と思うようになったんですよね。僕が好きだったファッションフォトと比べると、どんどんカタログのようになってきたのを感じてしまって。一方で美術に興味が湧いてきたので、絵画や彫刻を基礎から学ぼうと「ベルサイユ市立美術大学」に入学しました。結局卒業せずに終えてしまいましたけど。

 

 

——フランスでキャリアを積んだ水島さんが帰国したきっかけは?

水島さん:今携わっている「ISEZI Social Design Project」に取り組むために、2021年に帰国しました。帰国する前年に、活動拠点となっている「築150年の町家と蔵」との出会いがあって、その場所を活用しておもしろい取り組みができないものかと、仲間と一緒に3名でプロジェクトをスタートしました。

 

——もともと日本に帰ってくるお考えはあったんですか?

水島さん:2020年に一時帰国したときは「いつかは帰ってきたいけど、日本には住めないな」と思っていました。日本の枠組みの中で働くことに抵抗があったんです。でもその枠組みを超えた「ちょっと違う仕事ができそうだ」という期待もありました。それが「ISEZI Social Design Project」です。

 

「フランス式サードプレイス」を参考に、日本で必要な仕組みを作る。

——その「ISEZI Social Design Project」というのは?

水島さん:「約150年前に建てられた呉服屋さんからみらいのかたちを創造するプロジェクト」です。モデルにしているのは、2015年にフランスで製作された「TOMORROW パーマネントライフを探して」というドキュメンタリー映画。環境破壊だとかさまざまな問題が起きている現代で、これからの生活や生き方を見つめ直す、そんなストーリーがフランスで大ヒットして、僕もすごく感動しました。フランスではこの映画がみんなの共通認識のようになっています。環境問題やオーガニックについて考えるのは当たり前だし、サステナブルなことが求められる。映画の公開後は、それが一般的になったんです。

 

——その映画をモデルにプロジェクトを推進しているんですね。

水島さん:もうひとつのキーワードは「サードプレイス」。日本ではサードプレイスというとカフェみたいな場所を想像する方が多いと思いますが、フランスでは地域内経済循環やシェアリングエコノミーみたいな、公共的な取り組みをすることがサードプレイスの条件のようになっています。公共的な意識のあるものに人は価値を見出すし、そういったものへの関心がとても強い。例えば、音楽のライブイベントはただ楽しむ場所ではなくてエコロジーについて学ぶ場所でもある、とかですね。

 

——具体的にはどんな活動をしているんでしょう?

水島さん:行政と協力してイベントを開催したり、民泊を運営したり、さまざまです。参加していただきやすいものとしては、「哲学カフェ」があります。開催のきっかけは、皆さんがいろいろな取り組みをされているんだけど、そのベースとなるコンセプトが欠けているように感じたから。良い取り組みでも、なぜそれをしているのかコンセプトが不明確で迷子になってしまっていると思ったからです。それで論理的に考える力を育むために、哲学を伝えるイベントをしています。

 

 

——哲学カフェ、面白そうですね。

水島さん:他には、多世代交流ができる「宿題カフェ」も開催しています。ここで子どもたちが学校の宿題をして、分からないことを周りの大人に聞く。学校や習い事、家庭以外でも人間関係を育める場所です。

 

——「フランス式サードプレイス」を実現しようとされているわけですね。

水島さん:「フランス式サードプレイス」と表現していますが、フランスのものを日本に持ってきたというイメージではないんですよね。フランス式を参考に、日本で必要な仕組み作りにトライしていると言えばいいかな。

 

「超チャレンジ」をしている水島さんのモチベーションと今後のビジョン。

——ところで水島さん、久しぶりに日本で暮らしてみてどう感じましたか?

水島さん:今は日本暮らしに慣れようとしているところです。本音をいうと、フランスと比べるといろいろなものが10年くらい遅れているんじゃないかって感じています。フランスでは当たり前になっていること、例えば、歴史的な建物を大切にして、それをもっと商業的に活用するとかができていないよなって思っちゃいます。

 

——そんなふうに思われる中で、どんなモチベーションで活動をしているんでしょう?

水島さん:「超チャレンジ」な日本の暮らしに僕が飛び込んでいる。むちゃくちゃなチャレンジをしていると思っています。生活はフランスにいる方が楽チンですからね。カメラマンとしての需要もあるし(笑)

 

——「超チャレンジ」、面白いですか?

水島さん:面白いし、学ぶことがたくさんあります。帰国したばかりの頃は怖くて使えなかった草刈機が、今では普通に使えるようになりましたし(笑)。チェーンソーの扱いも慣れたものです。

 

 

——取り組みの成果が出るのはずっと先だと思いますが、今は何を目標にしていますか?

水島さん:ゴールは特に定めていなくて、なんとなく自分の感覚を表現している感じですね。最近はコンポストを作っていて、それを「コミュニティコンポスト」にできたらいいなと思っているんです。みんなが捨てる野菜くずだとかを肥料にして、それで豊かにした土で野菜を作って食べる。新潟は農業大国だから、あまり必要とされていないかもしれないけれど、都市部には需要があるかもしれないですよね。そんなふうに自分たちで作ったものを公共のものにしたいという意識があります。ひとつひとつは単発の取り組みだけど、最終的には公共のものとなる。自分も周りもハッピーになれたらいいなと思います。

 

——これからやりたいと思っていることも教えてください。

水島さん:日本の地方には伝統的ないいものがたくさんあると思っています。それをブラッシュアップして何かできないかといつも考えていて。盆踊りだって、外から人が入ってくるように、昭和歌謡とかシティポップ縛りでやってみたらどうかな、とかアイディアはいっぱいありますよ。地域の人も、若者も、外国の人も知っている曲が流れる盆踊り、おもしろそうですよね。

 

——最後の質問です。またフランスに戻るお考えはありますか?

水島さん:必要とされればフランスでも他の国でも選択肢はあると思っています。「ISEZI Social Design Project」が僕ひとりのプロジェクトで、自分の自己実現のためだったらずっと同じ場所にいてもいいですけど、もっと広いビジョンで捉えているので、必要とされていないのであればそこにはいられないですもんね。僕は「新発田の人」ってレッテルを貼られることが多いけど、そういう意識はまったくないんです。新発田が魅力的だから、まちをおもしろくしたくて、今ここにいます。でも本当は日本の地域のあり方を変えたいんです。それぞれの地域が、まちの財産を生かして観光を活性化させる。地域の人は誇りを持てるし、外部からやってくる人はそこを楽しめる。そんな未来の力になりたいですね。

 

 

 

ISEZI Social Design Project

新発田市大栄町1-2-2

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