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木の塊からパイプを手作りしている工房「Ken Pipes」。

どのようにして、木の塊から一本のパイプが作られていくのか。

4月1日から「改正健康増進法」が施行され、ますます減少しそうな喫煙人口。そんな中、煙草愛好家のためにパイプを作り続けている職人が新潟市秋葉区にいます。今回ご紹介する「Ken Pipes(ケンパイプス)」の櫻井さん。ひとつの木の塊からどのようにして1本のパイプが作られていくのか、特別に教えてもらうことに。煙草の楽しみ方や喫煙に対する考えも、櫻井さんにいろいろお聞きしました。

 

 

Ken Pipes

櫻井 謙一郎 Kenichiro Sakurai

1965年新潟市燕市(旧吉田町)生まれ。看板製作会社、デザインプロダクション、飲食店勤務後、1989年グラフィックデザイン企画製作事務所「アトリエKEN」を立ち上げる。2001年〜2008年までは長岡造形大学の非常勤講師も務める。2005年からハンドメイドパイプの製作工房「KenPipes」をスタート。和紙を使ったカリグラフィーやアート作品を創作し個展や作品展に多数出展してきたが、現在はパイプ製作一筋。

 

高価なパイプを自作してみたのがパイプ作りの始まり。

——櫻井さんがパイプ作りを始めたきっかけって何だったんですか?

櫻井さん:私はもともと紙巻き煙草を吸っていたシガレットスモーカーだったんです。ある日知人から葉巻煙草を勧められてハマっていったんですが、調子に乗って吸ってたら葉巻は高価なのであっという間にお金がなくなっちゃったんですよ。困っていたら、近所のおじさんにパイプを勧められて、今度はパイプ煙草の魅力を知りました。でもパイプも買うと高価なので、自分で手作りしてみたのがきっかけなんです。

 

——パイプの作り方なんてどうやって覚えたんですか?

櫻井さん:もちろんそれまでパイプなんて作ったことなかったから、インターネットで材料から作り方まで調べまくりましたね。ただ勉強して知識はついても技術を身につけるには経験を重ねるしかないので、とにかく何度も作っては失敗を重ねました。思ったような形にならなかったり、煙が通る煙道が曲がってずれちゃったり、数え切れないほど失敗しましたね。

 

切る、削る、磨く。じっくりと作り上げる手作りパイプ。

——パイプ作りが独学だったのは驚きですね。そもそもパイプってどうやって作るんですか?

櫻井さん:材料には「ブライヤー」っていうものを使います。これは、ギリシャやイタリアなどの地中海沿岸でしか採れない「ホワイト・ヒース」って呼ばれるツツジ科の潅木の根塊なんです。なぜパイプの原料に「ブライヤー」が使われるのかっていうと、固くて熱に強いからなんです。「グレイン」と呼ばれる木目の美しさも魅力ですね。その「ブライヤー」を原木業者で一昼夜煮沸して、パイプの大きさにカットしたものを仕入れて使ってるんです。

 

 

——木材を煮沸することには何か意味があるんですか?

櫻井さん:あく抜きをすることで、木の持つ匂いを取り除くんですよ。そうすることで煙草の香りを邪魔されず味わうことができるようになります。仕入れた木材に鉛筆で下書きして、バンドソーを使って大まかなパイプの形にカットします。その後、煙道と「チャンバー」っていう煙草を入れるカップ部分の穴を開け、オリーブオイルを使った「オイルキュアード」っていう手法を行います。

 

 

——専門用語がたくさん出てきましたけど、「オイルキュアード」って何ですか?

櫻井さん:それは企業秘密なんで詳しくはお教えできないんです。でも、これをやることで1〜2割ほど木が軽くなったり、タバコの香りを助長したりする効果が生まれるんです。ただ、手間がかかるので、この手法で作っているところはごく僅かですね。その後サンドペーパーを使ってパイプの形に整えていって、バフ掛けして磨きをかけてから「カルナバ」っていう植物から採れるワックスを使ってつや出しをするんです。その作業と同時並行してマウスピースも作ります。

 

——マウスピースの部分って出来合いのパーツじゃなくて自作してるんですか?

櫻井さん:はい。「エボナイト」っていう硬質ゴムを加工して作ってるんです。出来合いのパーツもあるんですが、自作したものに比べると使い勝手に差が出てきます。パイプ作りはとても手間のかかる作業なので、1ヶ月に6本くらいしかできないんですよ。

 

以前はデザイナーやカリグラフィー作家として活躍。

——櫻井さんは元々ものを作ることが好きだったんですか?

櫻井さん:そうですね。子どもの頃から絵を描くことが好きで、中高生のときはよく石膏デッサンをしたり、油絵を描いてたんです。高校卒業後も看板製作会社やデザインプロダクションでデザインの仕事をしていて、1989年に「アトリエKEN」というデザイン事務所を立ち上げて、グラフィックデザインの企画や製作を始めました。私はデザイン的な文字を書いたりするカリグラフィーが得意だったので、書き文字を生かしたロゴデザインとか、テレビ番組のテロップの仕事を多くやってましたね。その他に、手すき和紙を使ったアート作品の創作をして個展を開いたりしてたんです。

 

——デザイナーの他に作家としても活動されてたんですか?

櫻井さん:一番最初に個展をやったのは、古町にあった「自由空間」っていうフリースペースでした。その後も新潟県内はもちろん、東京、フランス、香港で作品展をさせてもらいましたね。でも、2005年に「Ken Pipes」としてパイプ作りを始めてからは、デザイナーや作家としての活動は少なくなっていきました。現在はほとんどパイプ作り一本でやってます。

 

煙草はリフレッシュやリラックスタイムのお供。

——櫻井さんオススメの煙草の楽しみ方ってありますか?

櫻井さん:仕事の集中力が切れたとき、ちょっとリフレッシュするために軽く一服するのがオススメですね。あと夜のリラックスタイムにウイスキーを飲みながら煙草を楽しむのもいいですよね。色々な種類の煙草がありますので、そのときの気分や飲みたいお酒に合わせるのもいいんじゃないでしょうか。

 

——ただ、4月1日から始まった「改正健康増進法」で、これまで以上に喫煙愛好家を取り巻く環境が厳しくなってきていますよね。それについてはどうお考えですか?

櫻井さん:あくまでも私個人の考え方をお話しします。煙草は、嗜好品としてまだ多くの愛好家がいます。そういった個人の楽しみが厳しく規制されていくことには、ちょっと賛成しかねるところがありますね。人に迷惑をかけずにマナーを守って楽しむ分には、煙草を吸う吸わないは個人の判断に委ねていいんじゃないかって思ってます。

 

——なるほど。では最後に、今後やっていきたいことってありますか?

櫻井さん:2年前に「新潟スモーキングクラブ」を立ち上げたんです。Facebookクラブ内でのメンバーが30人ほどいて、毎月開催する例会では6人くらいが集まってお酒を飲みながら煙草を楽しんでいます。今後はもっと参加する人を増やして、会を充実させていこうと思ってますので、興味のある方は気軽に参加してほしいですね。申し込みは電話やFacebookページの方で受け付けてます。パイプの販路も海外を中心にもっと広げていきたいと思ってます。

新潟スモーキングクラブfacebook

 

 

パイプ煙草の魅力に取り憑かれ、パイプ作りにハマっていった「Ken Pipes」の櫻井さん。手作りで生み出されたパイプには落ち着きと気品が感じられ、ゆったりと煙草を楽しむには最高のパートナーに思えます。愛煙家のみなさん、自分だけの特別なパイプをくゆらせながら、リラックスタイムを過ごしてみる、そんな習慣に憧れませんか? 喫煙の際は、くれぐれも喫煙マナーを守って楽しみましょう。

 

Ken Pipes

〒956-0011 新潟県新潟市秋葉区車場5-6-30

0250-47-7592

 

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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