旧七谷郵便局から発信するモノづくり「MACHITOKI」。
ものづくり
2019.09.01
生活に必要なモノ。不必要なモノ。モノづくりの考え方。
指定有形文化財として大切に残されてきた加茂市の「旧七谷郵便局」。このレトロな洋館のこの建物は、緑の中にひっそりとたたずみ、まるでジブリの世界に現れてきそうです(きっと登場するなら『となりのトトロ』だと思う)。そんな趣のある建物の内側で、モノづくりに励む「MACHITOKI(マチトキ)」の渡辺さん。こんな素敵な場所でどのようなモノづくりをしているのか、どうしてちょっと辺鄙なこの場所を選んだのか、ゆったりとした時間の流れる旧郵便局の2階で話を聞いてきました。

MACHITOKI
渡辺幸治 Koji Watanabe
1979年新潟生まれ。進学を機に、東京へ拠点を移す。2010年より横浜にて「MACHITOKI」としてDESIGN&WEBSHOPをスタート。2012年からは新潟県加茂市にある指定有形文化財「旧七谷郵便局」に活動の場を移し、現在に至る。一児のパパとして、休日は愛娘にデレデレだとか。
特技や好きなコトは仕事にしたくない。そんな学生時代。
――渡辺さんは、昔から絵を描いたり、何かを作ったりするのが好きだったんですか?
渡辺さん:昔から美術は好きでしたね。でも、高校時代はサッカー部でした(笑)。
――スポーツも芸術も。両刀使いだったんですね。どっちにするか将来を悩んだパターンですか?
渡辺さん:いえ、得意だったり好きなコトを仕事にして生きていくのは、きっと辛いんじゃないかと思っていたので、そもそもモノづくりを仕事にしようなんて考えていなかったんです。なので、大学では化学を専攻していましたし(笑)
――化学を専攻とは、またかけ離れましたね。
渡辺さん:モノづくりとは離れた生活だったかもしれないですね。就職も今とは関係がなく、観光系の会社でしたし。ワーキングホリデーでカナダのトロントなどで生活をして、真剣に移民になろうと考えたこともありましたね。

横浜で出会ったモノづくり。1周回った考え方と、運命の出会い。
――モノづくりとは関係のない生活や仕事をされていましたが、どうして今のモノづくりの道へ?
渡辺さん:実家は、「渡英商店」という明治20年創業の白玉屋です。ある時から、白玉屋のWebショップを担当しはじめて。ただ、ネット部門なので、インターネットが繋がっていればどこでも仕事ができる、ってこともあり新潟には戻らずに都内にいたんです。その時に、横浜でモノづくりをしている人に会って「自分はモノづくりが好きなのに、どうしてしていないんだ?」って疑問に思ったんですよ。
――学生の時に「得意だったり好きなコトを仕事にして生きていくのは辛い」と思っていたのに。
渡辺さん:そうなんですよね。きっと、1周回って考え方が変わってしまったんだと思います。例えば好きな車を持っているとドライブに行きたくなるし、ドライブに行くとコーヒー飲みながらゆっくりとカフェで過ごしたくなるじゃないですか。この行動の中に好きなモノがあると、それだけでなんだか楽しくなりませんか?そんな風に考えるようになって、行動を生んだり、楽しくしてくれるモノづくりがしたいって思ったんです。

――着眼点に変化が生まれたんですね。新潟へ戻ってこられた理由は。
渡辺さん:ずっと事務所を持ちたいなって思っていましたす。ただ、洋館がよくて全国を探していたんですよ。
――洋館ですか。事務所らしくない物件探しですね。
渡辺さん:そうなんですよね。しかも、古い洋館を探していたんです。ただ、なかなか「コレだ!」と思う物件が見つからなくって。出身である新潟でも探そうかなって思い…そしたら一目惚れしたんです。この「旧七谷郵便局」に。
――ジブリの世界に出てきそうな建物ですよね。一目惚れする理由がわかります。
渡辺さん:この独特な雰囲気や世界観もそうなんですけど、ちょっとした運命があったんです。
――郵便局に運命ですか?
渡辺さん:横浜で出会った人は、ポーランド陶器を扱っていたんです。その出会いがキッカケで、Webショップを立ち上げてポーランド陶器の小売販売をしていました。そのサイトのビジュアルとして描いていた洋館のイラストが、この郵便局にそっくりで。絶対にこの場所がいいと思い、心に決めました。

息を吹き返した郵便局。事務所として、ショールームとして、カフェとして。
――それは運命かもしれませんね。「旧七谷郵便局」のことも教えてもらえますか?
渡辺さん:この「旧七谷郵便局」は1935年に建設されて、加茂市の名大工として知られる佐藤定一さんが施工した擬洋風の木造二階建てです。七谷地区に国道290号線が開通したのを理由に新築移転して、1981年に使用廃止となり、2001年には加茂市の指定有形文化財となりました。
――80年以上も昔の建物ですか。指定有形文化財って利用することができるんですね。
渡辺さん:加茂市の文化財なので、最初はどうせ無理なんだろうなって諦めていましたが、ダメ元で「旧七谷郵便局」を所有する鶴巻家の方にお願いしてみたんです。そうしたら、条件面やタイミングが合い、承諾を得られ2012年12月から「MACHITOKI」の事務所として使うことができました。(※「旧七谷郵便局は鶴巻家所有)
――この場所では、他にどのようなことを?
渡辺さん:一時的にお休みをしていますが、実家の白玉を使った「白玉あんみつ」をメインとしたカフェをしていたり、制作したアイテムを並べたショールームとして活用したりと、カフェ、ショールーム、事務所、すべての「MACHITOKI」が集まった場所です。現在は、カフェのお休みを機に事務所としての活用のみになっていますが。

モノづくりとしての「MACHITOKI」とは?
――それでは「MACHITOKI」のモノづくりについて、いろいろとお話を聞いていきたいと思います。渡辺さんがデザインされたアイテムをご紹介してもらえますか?
渡辺さん:大学で化学を専攻していたのもあって「DEGREE」という理化学硝子の瓶を制作しました。色付けを一切していなく、表面加工のない透明な硝子の直線と角のみで構成(側面からの形)したので、温かみよりも無機質な硝子の魅力を感じてもらえると思います。ちなみに硝子は、自社でホウケイ酸ガラスを溶解している国内でも数少ないメーカーの「小泉硝子製作所」にお願いしました。共同プロダクトです。


――デザインするにあたって、どのようなことを考えましたか?
渡辺さん:ものごとって、ほとんどが相反するものが隣り合っていると思います。どしゃぶりの雨の後に、虹が出たり。あっちに傾いたり、こっちに傾いたり、安定しなかったり。「ちょうどいい角度で隣り合ってくれたらいいのにな」というのは、日常の中での気持ちであり、自然現象でも暮らしでもあると思っています。そんな不安定に隣り合う相反するものを透明で頑丈な理化学硝子で表現しました。
――なかなか難しいコンセプトですね(笑)。でも、先ほどお話があったように、何かを入れるための瓶にちょっとしたストーリーが込められていたり、考えられたデザインだと、生活が楽しくなりますね。
渡辺さん:モノを作る考え方として、生活を便利にするモノも必要だけど、笑顔になったり生活を豊かにしてくれるモノも必要だと思っています。生活の観点からは不必要かもしれませんが、あったらハッピーじゃないですか。
――どのアイテムもその観点は同じだと思いますが、どうしてさまざまな種類のモノを作っているのですか?
渡辺さん:すぐにブレる性格なんです(笑)。でもマイナスなブレではなくて、プラスのブレで。
――ん?どういうことですか?
渡辺さん:簡単にいえば変化です。思いついたり、何かに刺激されて作りたい対象が変わっていくんです。閃いたらすぐにでも作りたくなるんですよね。

これからはじまる「MACHITOKI」の旅。
――最近のモノづくりについて教えてください。
渡辺さん:「TRIP SCOTT」という靴下を発売しました。道具として使うことを考えて、しっかりとした機能と高いポテンシャルを持つ靴下です。一般的な靴下は2層構造ですが、「TRIP SCOTT」は特殊な3層構造なので丈夫で心地のよいフィット感、それに肌にも優しくなっています。


――とてもシンプルなデザインですね。
渡辺さん:すごく特徴のあるデザインはそれだけで評価されやすいと思います。でも、限りなく普通なデザインにほんの少しだけエッセンスが加わっているデザインの方がすごく難しいと思うし、個人的に好きなんですよね。だからこの靴下も、とにかくシンプルにデザインしました。そして見えないし、履いてみないとわからない部分にはとにかくこだわって、エッセンスを足したんです。
――最後に、これからのモノづくりについて教えてください。
渡辺さん:今紹介した靴下「TRIP SCOTT」は、旅をテーマにしています。モノづくりの基本軸はブレずに、何を作るかはどんどんブレながら、いろいろな旅にまつわるモノを作っていきたいと思っています。あとは、現在、お休みをしているカフェを再開するべく進めていければと思います。実家の白玉も多くの方に知ってもらい、味わってもらいたいので、楽しみに待っていてください。
「MACHITOKI」から生まれたITEMS。


MACHITOKI
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