古町通9番町にある和モダンな雰囲気のおしゃれなお店。昭和のはじめから古町で営業し、今では古町周辺で最も有名なお寿司屋さんのひとつ、「港すし」です。地元の食材や地酒にこだわり、「新潟の味」を提供し続けている老舗「港すし」の三代目社長・川上伸一さんに、お寿司や古町に対する思いを聞いてきました。
港すし
川上 伸一 Shinichi Kawakami
1959年新潟市生まれ。「港すし」代表。東京の大学卒業後、コーヒー専門店など様々なアルバイトを都内で経験する。1984年、父の病気を機に帰郷し、「港すし」で一から寿司職人の修行をし、三代目社長となる。趣味は読書で、毎日書店に通うのが日課。「NPO法人 堀割再生まちづくり新潟」の代表理事も務めている。
——今日はよろしくお願いします。とても美味しそうなお寿司が並んでいますが、「港すし」のお寿司に対するこだわりを教えて下さい。
川上さん:米も魚も新潟のものを使うようにしています。うちには県外から来るお客さんも多いんですよ。そんなお客さんたちにも、新潟らしさを感じてもらいたいと思っています。県外から来るお客さんによく言われるのは、「新潟の味はやさしい味」ということです。食べてほっとするような味ってことなんでしょうね。そんな味を提供できたらいいなと思っています。
——そんな味のお寿司を握るときに、気をつけていることってあるんでしょうか?
川上さん:握るときは時間をかけ過ぎないということですね。手の中でシャリをまとめるときに、もう半分出来ているようなものなので、あとは形を整えるだけでいいんです。あまり時間をかけ過ぎると、手の熱であったまっちゃうし、シャリもぎっちりしちゃいますからね。呼吸を大事にして握るということですかね。あと、握る姿もきれいに見せるってことかな。うちはカウンターを低くして、お寿司を握る姿をお客さんに見せているんですよ。握る姿も味のうちってことですね。
——たしかに、握る姿を見てるだけで美味しそうですよね。では、おすすめのネタを教えていただけますか?
川上さん:これからの寒くなる季節は、ブリが美味しくなってきますね。南蛮エビにもとろみがついてくるしね。あと、ヒラメは身が艶やかになって、味もふくよかになってきますよ。寒い季節は白身魚のうま味がわかりやすい季節なんですよね。
——それは冬に食べるお寿司が一番美味しいってことでしょうか?
川上さん:いいえ。魚はそれぞれ美味しい旬の時期がちがうし、同じ魚でも季節によって脂の乗り具合や味わいが変わってきますので、一年中楽しむことができるんです。
——お寿司を頼むときは板前さんにおまかせした方がいいんでしょうか?
川上さん:その日のおすすめを聞くのはいいんじゃないでしょうか。でも、おまかせっていうのは実は困ることが多いんです。常連さんだったらまだしも、初めて来たお客さんだと好みがわかりませんからね。相手の好みがわからないのに、おすすめを握るのは難しいんですよ。ですから、食べたいものを食べたいように食べていただくのが一番いいと思います。
——日本酒も地酒にこだわっているんでしょうか?
川上さん:定番の有名な地酒はもちろん、うちの店では「隠し酒」というメニューがあるんです。「村祐(むらゆう)」や「真野鶴(まのつる)」といった、知る人ぞ知る地酒を揃えています。中にはあまり手に入らないような希少なお酒もあるんですよ。
——「隠し酒」すごく気になりますね。お酒に合う一品料理も揃えているんでしょうか?
川上さん:新潟名物ののどぐろを使った「のどぐろ塩焼」をはじめ、季節ごとの焼き魚を用意しています。うなぎの白焼きに近い味わいを楽しめる「あなご焼き」は、タレでも美味しいけど柚子胡椒で食べてもらっても美味しいですね。ただ、やはりお寿司を味わってほしいので、一品料理だけでお腹いっぱいにならないよう、品数はあまり揃えていないんですよね(笑)。
——「港すし」さんは歴史のあるお店なんですよね?
川上さん:昭和8年に私の祖父の川上吉助が始めたお店です。その前は旅芸人をやっていたものの、手に職をつけた方がいいと勧められ、横浜にあった「港すし」で修行したそうです。当時はお店を持つこともできなかったので、西堀の堀端で屋台を出して営業していました。「とんかつ太郎」「鳥梅」「蓬莱軒」もみんな屋台でやっていた時代です。
——今の場所に店舗を構えたのはいつ頃なんですか?
川上さん:昭和11年に現在の場所に店を構えました。うちの店はけっこう何回も改築や建て替えを繰り返しているんですよ。昭和39年には3階建てのビルにしてお座敷を作りましたし、昭和57年には上越新幹線が大宮まで開通したのに合わせて、県外からのお客さん用に2階の特別席を作りました。
——現在の建物は和モダンな雰囲気が素敵ですよね。いつ頃できたんですか?
川上さん:平成14年に作りました。1階のカウンター席は前の店のまま使っています。2階には個室や団体席を設けました。お客さんにお寿司の味だけではなく、雰囲気も楽しんでもらえるような店舗になっています。
——古町でずっとやってきたお店として、古町への思いを聞かせてください。
川上さん:景気の良かった頃の古町って大人の遊び場でしたよね。「いいもの」を知っているお客さんも多くて、そういうお客さんたちにお店も育てられた気がします。バブルがはじけて不景気になってからは、古町から出て行った人たちも多いですよね。でも、古町に思い入れのある人たちは踏ん張っているんです。私も古町に活気を取り戻すため「NPO法人 堀割再生まちづくり新潟」という団体の理事として活動しています。西堀にあった堀を一部でも再生して、自分たちの住む古町の歴史をきちんと残していきたいし、人が集まる場所を作っていきたいと思ってます。
——すごく思い入れの強いプロジェクトですね。では、今後お店でやっていきたいことってありますか?
川上さん:今、本町の人情横丁に「港すし市場店」を出しています。それは若い職人たちが活躍できる場所を作りたかったからなんです。そんな感じで、本店とはちがったスタイルのお店をもう何軒か作っていけたら面白いかもしれないですよね。例えば、夜だけ営業する予約制のお店とか、ランチ専門のお店とかね。それで、どんどん若い職人が育っていけばいいと思っています。
新潟市の老舗のひとつとして、昭和のはじめから古町でお寿司を提供している「港すし」。地元の魚や米を使ったお寿司はもちろん、地酒にもこだわっています。和モダンな雰囲気も楽しめる「港すし」でやさしい新潟の味、そして古町の味を楽しんでみてはいかがでしょうか?