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海水を使ってミネラル豊富な塩づくりをしている、県最北端の「ミネラル工房」。

国道7号線を日本海沿いに北上すると、山形県との県境付近に「白いダイヤ」という看板を掲げた建物が見えてきます。それが海水から天然塩をつくっている「ミネラル工房」です。今回は、湯気の立ちこめる、塩づくり真っ最中の工房に代表の富樫さんを訪ね、健康への思いや天然塩へのこだわりを聞いてきました。

 

 

ミネラル工房

富樫 秀一 Syuichi Togazhi

1975年村上市(旧山北町)生まれ。専門学校卒業後、東京の不動産会社で住宅設計の仕事に携わるも体調を崩して退職し、1999年に村上市に戻って父親がはじめた「ミネラル工房」を受け継ぐ。バイクと筆ペンアートが趣味。

生命を守るために必要なのは「いい水といい塩」。

——ここはかなり山形県寄りの地域だと思いますけど、県境までどれくらいの距離なんでしょう?

富樫さん:300mくらい先にある中浜(なかはま)漁港が県境だから、うちが国道7号線沿いにある店舗では新潟県最北端なんです(笑)

 

——なんと!300m先からは山形県なんですね(笑)。「ミネラル工房」はいつからはじめたんですか?

富樫さん:1997年に塩の専売制が廃止されてからまもなく準備をはじめて、それまで大工だった父が2002年に開業しました。

 

——どうして大工さんから製塩業にシフトしたんでしょうね?

富樫さん:将来、大工仕事が減っていくのを懸念していたということもありますけど、私の身体を心配してくれたのが発端だったんです。

 

——富樫さんの身体というと……。そのあたりの事情をお聞きしても大丈夫でしょうか。

富樫さん:私は専門学校を卒業してから、東京の不動産会社で建売住宅の設計に携わっていたんです。勉強になることが多かったんですけど、あまりの激務に体調を壊してしまい、おまけにメンタルまでも病んでしまいました。そこで退職して村上市の実家に戻ったんです。

 

 

——それは大変でしたね……。でも、それが製塩業につながったのはどうしてなんですか?

富樫さん:私の身体を心配した父が、「生命を守るために必要なのは、いい水といい塩だ」と言ったんです。そこで「身体にいい塩をつくろう」と2002年に父が「ミネラル工房」を立ち上げて、海水からつくる「白いダイヤ」という天然塩の販売をはじめました。

 

——「白いダイヤ」って、綺麗な名前ですよね。

富樫さん:最初はなんだか軽薄に感じて抵抗があったんですが、「生命に必要な、ダイヤ並みに価値あるもの」という父の思いが込められている素晴らしい商品名だと思えるようになりました。

 

——富樫さんは「ミネラル工房」の立ち上げから、お父さんと一緒にやってきたんですよね。

富樫さん:父は最初から工房を任せるつもりで、私の名義にしてくれていたんです。私は身体もメンタルもボロボロだったので、友人に「いつ死んでもいい」とこぼしていたんですが、その友人から「死ぬ気があるんだったら、死ぬほど頑張ってみろ」と叱られたて、自分と同じように苦しむ人を塩の力で救う手伝いをしたいたいと思うようになりました。

 

海水だけでつくる、天然塩「白いダイヤ」。

——「白いダイヤ」って、そんなに健康にいいんですか?

富樫さん:余計なものを一切使っていない海水だけでつくる塩なので、身体が必要とする自然な栄養バランスになっているんです。特にミネラルを引き出すために独自の工夫をしているんですけど、そこは企業秘密ということで(笑)

 

——海水にはそんなに栄養があるんですね。

富樫さん:山と海はつながっているんですよ。山の土に含まれる養分が雪どけ水と一緒に海へ流れ出して、ミネラルをたっぷり含んだ海水になるんです。自然界って生命が循環していて、死んだ生物は微生物に分解されて土や水に還り、その養分が他の生物を育てるわけですよね。人間もそうした循環のなかにいるんです。

 

——そういった意味では、山と海の距離が近いこの場所が、栄養のある塩づくりにぴったりなんですね。それにしても、海水を汲み上げるのは重労働なんじゃないですか?

富樫さん:波が高くて流されそうになったこともあります。それだけじゃなくて、波が荒いと海水が濁ってしまうので、こまめに天気予報をチェックしながら波の穏やかなタイミングを狙って海水を汲んでいるんです。ただ真冬は波の荒い日が長く続くので、3日くらい荒れ続けたら海水も濁りがなくなります(笑)

 

 

——自然相手のご苦労があるんですね。他にも塩づくりをする上で、大変なことはありますか?

富樫さん:うちは平窯を使って海水を煮詰めているので、工房に熱がこもって真夏の作業はかなり過酷なんです。何度か脱水による全身けいれんを経験しましたが、塩を舐めることでピンチを乗り越えることができました(笑)

 

——周りには塩がたくさんありますからね(笑)。そういった苦労の末にできる天然塩には、どんな特徴があるんでしょうか?

富樫さん:とにかく塩の結晶がさらさらと柔らかいんです。ぜひお刺身につけて食べてみてください。魚本来の味を引き立ててくれると思います。秋の味覚の焼きサンマやサツマイモに使うのもおすすめです。

 

お客様ひとりひとりに、塩の大切さを伝えたい。

——これだけこだわった天然塩なのに、「ミネラル工房」や「白いダイヤ」をメディアで見る機会が少ない気がします。

富樫さん:実は、あんまり取材を受けないようにしているんですよ。こんなところまで足を運んでくださるお客様を大切にしたいし、ひとりひとりに塩の大切さをしっかりと伝えたいので、できるだけ直接お話させてもらっているんです。でも、あんまりお客様が増えてしまうとそれもできなくなっちゃうから、あんまり宣伝になるようなことは控えているんですよね。

 

——塩づくりだけではなく、接客も大切にしているんですね。

富樫さん:以前は他店よりもお客様が少なくて、悔しいと思うこともあったんです。でも、そのうちお店に来てくれたお客様をひとりでも幸せにできたら、それでいいと思えるようになりました。冬期はお客様が減っちゃうけど、お客様ひとりひとりとゆっくり向き合えると思うようになったんです。

 

 

——素晴らしいおもてなし精神ですね。

富樫さん:以前、村上市の酒屋さんへ遊びに行ったとき、お客様をおもてなしする姿勢を見て感銘を受けたんです。店主はお客様ひとりひとりに、筆ペンで描いた絵や文章をプレゼントしていました。それを見て私もやってみたいと思ったので、その日から筆ペンを使った絵や文章を描くようになったんです。

 

——それが、あちこちに描かれているカニのキャラクターですね。

富樫さん:「幸せかに?」っていう意味を込めた「はぴカニ」っていうキャラクターなんです。かたくなってしまう難しい話でも、キャラクターを通すとわかりやすく伝えることができるんですよ。

 

——親しみが湧くし読みやすくなりますよね。今日はありがとうございました。これからも美味しくて身体に優しい塩をつくり続けてください。

富樫さん:ありがとうございます。これからもうちの塩を必要としてくれるお客様のために、身体が動く限りぶれずに塩づくりを続けていきたいですね。いつか身体が動かなくなったら、筆ペン画を楽しもうと思っています(笑)

 

 

 

ミネラル工房

村上市中浜1076-2

0254-77-2993

9:00-17:00

火曜休

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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