三条市にオープンした「チーズとワインのセレクトショップ Moitié-Moitié(モワチエ・モワチエ)」は、料理の先生をしていた店主の岡田さんが「両親と一緒に働きたい」と、家業の酒屋さんを事業継承してはじめたお店です。「C.P.A認定チーズプロフェッショナル」「CAFAJⓇ認定フロマジェ」などの資格を持つ岡田さんは、チーズの魅力を知り、その沼にどっぷりハマった方。チーズへの愛情が伝わるインタビューとなりました。
チーズとワインのセレクトショップ Moitié-Moitié
岡田 知子 Tomoko Okada
1971年三条市生まれ。東京で栄養士の専門学校を卒業後、料理研究家のアシスタントとして5年間働く。1997年に地元に戻り、1998年より自身が講師を務める料理教室を24年間運営。2022年7月に「チーズとワインのセレクトショップ Moitié-Moitié」をスタート。
——「モワチエ・モワチエ」さんは今年の7月にオープンされたそうですね。
岡田さん:もともとこのお店は両親が営んでいた酒屋でした。それまで私は24年間料理教室をやっていたんですよ。最初は自宅のスペースで、それから店舗の2階のサロンスペースで教室を運営していました。
——どうして今回チーズとワインのお店をはじめようと?
岡田さん:酒屋を守り継いできた3代目の父とソムリエの資格を持つ母が営んできた店を、私ができるかたちでつないでいきたいと思っていたんです。コロナ禍となり料理教室をお休みすることになって、以前からあたためていた自分のスキルで新しいことに挑戦するには絶好の機会だと思ったんです。
——その「あたためていたスキル」というのはお料理の腕ということですか?
岡田さん:料理の経験はもちろんなんですけど、チーズの知識を生かしたいと思ったんです。4年前、料理教室を開いて20年の節目の年に「何かスキルアップにつながることをしたい」と思ってチーズの資格取得のための勉強をはじめたんです。きっかけは母なんですよ。10年ほど前に母も私と同じチーズの資格試験にチャレンジしていて。残念ながら資格取得とはならなかったので「じゃあ、私が取ろうかな」って。
——チーズの資格ってどんなことを勉強するんですか?
岡田さん:チーズの生まれた歴史や背景や土地の風土、製造過程から、取り扱いの際の管理方法や販売知識まで幅広く知識を習得します。ヨーロッパ産のチーズの原語表記や乳成分の計算式があり、久しぶりに鉛筆で書きまくり勉強をしました(笑)。2次試験は代表的なチーズの状態を味覚表現しなければいけないので、テイスティング用に毎日チーズを食べまくりました。
——外国語や数学も必要とは、やっかいですね。
岡田さん:そうなんです(笑)。でも学んでいるうちにお料理の幅が広がって、料理教室では和食でも中華でもチーズを使ったお料理を必ず1品はレッスンメニューに加えるようになりました。
——24年もやっていらした料理教室を辞めるなんて、かなりのご決断だったのでは。
岡田さん:自分の中では「やり尽くした」という思いがあったんです。30代から40代前半に方々へ出かけて全力でインプットとアウトプット。そのおかげで充実した仕事をしてこられました。そして40代後半でチーズに出会い、その勉強を始めたらどっぷり沼にはまってしまって。チーズに情熱を注いで新しい挑戦をしてみたくなったんですね。
——なるほど。全力でやり遂げられたんですね。
岡田さん:きっと人生に無駄なことってないんですよね。チーズ屋としてはスタートしたばかりのひよっこですけど、料理をやってきたことは無駄じゃなかった。料理の勉強でヨーロッパに行って、地方の酪農家さんの話を聞いたり、チーズ工房に見学に行ってみたりしたことがチーズの製造を学ぶ際には生きました。「あ〜これとこれがつながるんだ」って、これまでの経験が今に結びついたことがたくさんありましたね。
——お店のことについても詳しく教えてください。まずはチーズについて。
岡田さん:「モワチエ・モワチエ」ではナチュラルチーズを扱っています。チーズって大きく分けると「ナチュラルチーズ」と「プロセスチーズ」に区別されるんです。日本のチーズの主な歴史は戦後アメリカの占領下、食の洋食化が進む中でプロセスチーズが主流でした。プロセスチーズはナチュラルチーズを砕いて溶かし、乳化剤などを入れて再度固めて作ります。加熱すると乳酸菌は死滅し酵素が失活するので、その時点で熟成による変化はストップします。いつ食べても同じ味が保てる利点があり、長持ちするし持ち運びやすい。すごく優れたチーズなんです。ちなみに日本のプロセスチーズの技術は世界でもトップクラスなんですよ。
——ふむふむ。今のお話から想像すると、もしかしてヨーロッパはナチュラルチーズが主流?
岡田さん:その通り! ヨーロッパーではナチュラルチーズがほとんどで、牛か羊かヤギか水牛か、動物のミルクに乳酸菌と酵素、塩を加えて固めて作るんです。基本的には添加物が入っていなくて、乳酸菌も酵素も天然由来のものがほとんどなので、原材料には記載されていません。ナチュラルチーズの多くがミルクと塩だけで作られています。
——プロセスチーズが保存も効く機能的なチーズだとすると、ナチュラルチーズはあまり保たないんじゃないですか?
岡田さん:保たないというか「熟成の変化を楽しむ」ものなんです。お漬物って考えると私たち日本人には分かりやすいかもしれませんね。浅漬けもあれば、古漬けもありますよね。土地によって野沢菜漬けがあったり、体菜漬けがあったり。それぞれ大きなメーカーが作っているものもあれば、家庭で漬けるものもある。スーパーでパック詰めされている保存が効く漬物もあるけど、すぐに酸っぱくなる漬物もあるじゃないですか。
——ほほぉ。とても分かりやすい。そんなナチュラルチーズを「モワチエ・モワチエ」さんでは扱っているんですね。
岡田さん:チーズ伝統国のフランス、イタリア、イギリス、スペインのチーズが多いですね。一部ですが国産のチーズ工房のものもありますよ。日本のナチュラルチーズ工房は現在350軒ほどあり、優秀な職人さん達が続々と世界の舞台に挑戦して国際コンクールでも入賞を果たしています。日本の牧草で育った牛や山羊のミルクを日本古来の酵母を使うなどして作るチーズは国内外からも注目されています。そんな日本のチーズを数十種類と試食をして、季節ごとに工房さんから仕入れています。
——続いてワインについても伺いたいです。
岡田さん:テロワールや熟成度合い、味わいからチーズと相性の良いものご案内しています。贈答用のちょっとリッチなワインから、毎日のお家ご飯に合わせられるようにペアリングも考えたワインまで幅広く取り揃えています。ナチュラルチーズと同じく有機農法や減農薬で栽培し、醸造において野生酵母を使用しているようなもの。できるだけ酸化防止剤を使用しない、いわゆる自然派ワインが多いです。
——岡田さんは、チーズのどんなところに魅力を感じますか?
岡田さん:チーズって一期一会なんですよ。いろいろな条件で作られたものが、いろいろな過程を経て私の手元に届きます。例えばフランスのジュラ山脈で作られる「コンテ」というチーズは、雪が解ける5月頃に牛を放牧させて、山の麓から徐々に標高の高い場所へと移動しながら生産されます。だから牛がどんな草を食べたかによってまったく違う味になるんです。小さいお花を食べて育った初夏の牛のミルクから作るチーズはフルーティな香りで黄色味が強いし、夏の間に刈った干し草を食べて育った初冬の牛のミルクで作られたチーズは優しいお味でナッツのような香りがするんです。さらに熟成期間によって味が変わる。つくづく奥深い世界ですよね。
——確かに奥深い。岡田さんが「沼」とおっしゃった意味が分かってきました。
岡田さん:本来仔牛が飲むミルクをいただいて作るチーズは、お母さん牛の命を絶たずしてできる食べ物です。命の連鎖を止めずに生産されることにも尊さを感じます。
——さて最後に、これからどんなお店づくりをしていきたいか教えてください。
岡田さん:料理教室をやっていた頃にご縁をいただいた生産者さんが育てた新潟の美味しい食材とチーズの組み合わせを提案できるのが、「モワチエ・モワチエ」の強みだと思っているんです。コンテと下田のさつまいもで作った焼き芋、ゴルゴンゾーラチーズとルレクチェ、シェーブル(ヤギのチーズ)とシャインマスカットとホワイトアスパラガスとタレッジョ。料理の世界で培ったことを生かして、そんなふうにチーズと新潟の食材を美味しく食べるポイントをアドバイスできたらいいなと思っています。それから、今はまだ手が回らずにいるのですが、チーズを使ったお料理レシピ、素敵なカットの仕方なんかをお伝えできるワークショップにもチャレンジしたいですね。
チーズとワインのセレクトショップ Moitié-Moitié
三条市本町1-3-20
TEL:0256-32-1116
<営業時間>火・水・木・日11:00〜18:00、金・土11:00-19:00
<定休日>月曜、第2日曜