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誰かにとっての特別な作品を。メタルアート作家の「MONOR」。

金属パーツや透明物をネジ止めしながら作品をつくる「メタルアート」。新発田市在住のMONOR(モノー)さんは、魚をはじめ、鳥や昆虫など、様々な生物をメタルアートで表現しています。今回はMONORさんの作業部屋にお邪魔して、作品をつくりはじめたきっかけなど、いろいろお話を聞いてきました。

 

MONOR

新発田市在住。スーパーで働きながら、趣味でイラストやロゴを制作する。娘からのひとことでメタルアートをはじめ、パーツをネジ止めしながら組み合わせる技法で、魚やクラゲなど、様々な生物を表現する。怪談動画が作業のお供で、「怖くなることもあるがやめられない」のだそう。

 

娘のひと言から、メタルアートの道へ。

——2023年から「MONOR」として活動をはじめられたんですね。それ以前はどんなことをされていたのでしょう。

MONORさん:大きなスーパーで働いていました。学生のころ造園を学んでいたので、最初は園芸用品を担当していたんです。その後、雑貨部門の副店長として商品や人、お金の管理をしていました。当時は働きながら、趣味でドクロをモチーフにした絵を描いていたんです。ロゴのデザインやジャケットの制作依頼もいただいていましたね。

 

——メタルアートをはじめる前から創作活動をされていたんですね。依頼が来るほどであれば、その活動を続けていくこともできたのでは?

MONORさん:実は、依頼はすべてお金をもらわずにやっていました。当時、まだインターネット上でのお金のやり取りは多くなかったですし、スキルアップのために無料で受けていたんです。ゆくゆくはアート活動に本腰を入れて活動したかったんですけど、家庭を持って、子育てをしていく中で、両立が難しくてなかなか踏み切れずにいました。

 

 

——ふむふむ。

MONORさん:2年前に、子育てもひと段落してきたので、再び絵を描きはじめてみたんです。そしたら、自分の納得のいくものが描けなくて、描いては捨てを繰り返しました。それで「絵じゃないものをやってみよう」って考えたとき、スーパーで働いていたころ、商品を陳列する什器を組み立てるのが得意だったことを思い出して。金属のパーツを組み立てて、何かつくってみることにしたんです。

 

——平面から立体に表現を変えたんですね。たしか、MONORさんの最初の作品は魚でしたよね。

MONORさん:今見たら「これは魚?」ってくらいのものでしたが(笑)。何をつくろうか考えていたときに、娘から「魚をつくってみて」と言われたのでやってみたのがきっかけですね。頭の中でイメージがハマって、「いいかも」って思ったんです。で、実際つくってみたら面白くて。

 

——どんなところに魅力を感じたのでしょう。

MONORさん:いちばんは、好きなようにつくれることですね。見て分かる通り、僕のつくる魚は機械的なので、形やカラーリングを自由にできるんです。本物の魚を参考にしてはいますが、忠実に再現しなくてもいいと思っています。

 

 

——リアルじゃなくても、魚というのがひと目でわかります。ネジが魚の骨にも見えてきました。

MONORさん:ネジってすごいんですよ。ひとつひとつ、こんなに造形が細かいのに比較的安価で手に入りますし。ネジを使うだけで、魚が生きているように見えるんです。それが楽しくて、いろんなパーツを探して試しています。ちなみに使っているパーツの3割は企業さんからいただいた廃材を使っているんですよ。

 

——作業部屋の中にはホームセンターでも見かけなさそうな部品もありますね。

MONORさん:金属パーツの知識が多少ある僕でも、使い方がわからないものがあるんです(笑)。譲っていただいた部品で作品をつくって企業にお渡しする、いわゆる「アップサイクル」という活動もしています。

作品はすべて、一点もの。誰かの心を動かす作品づくり。

──この魚、どうやってつくられているのか、気になります。

MONORさん:「ステイ」という、木の板をつなぎ合わせる工具を折り曲げて、魚の頭をつくりはじめます。そこからだいたい10個から15個くらいのパーツを組み合わせて、魚のかたちをつくっているんです。組み立て方は、独学で覚えていったので、最初はとても苦労しましたね。

 

 

——ゼロからスタートして、ここまでつくり上げるのは、とても苦労したでしょうね……。

MONORさん:何度も試行錯誤を繰り返しましたね。最初は「1年続けていたら、疲れていくだろうな」って思っていたんです。でも、活動をはじめて2年半が経った今でも、作業机の前に座ると「よし、やるぞ」ってやる気が出て、作品づくりに打ち込めるんです。

 

——そんな作品をよくみてみると、ひとつひとつパーツの位置や使っているネジや歯車の種類が違いますね。

MONORさん:作品をつくるとき、設計図は描かずにはじめているんです。一点ものであることにこだわっていて、委託販売をしているそれぞれの場所で、違う作品を楽しんでもらえます。このこだわりは、活動名にも関わっているんですよ。

 

 

——活動名に込められた思い、ぜひ聞かせてください。

MONORさん:「MONOR」は「唯一の」という意味の「MONO」と「黒い」という意味の「NOIR」という言葉を合わせた造語なんです。例えば、真っ白なところに、ひとつだけある黒い点のように、唯一のものをつくり続けていきたいっていう思いを込めました。

 

——唯一の存在であることに、強い思いを持っているんですね。ロゴにも何か思いが込められているのでしょうか。

MONORさん:これは絵を描いていたときにつくったロゴで、漢字の「壱」を元にしています。歯車についている刃を欠けさせているんですけど、これは完璧ではない自分を表していて。でもそんな自分でも、この歯車が回ることで「誰かと噛み合って動かすことができるような存在になれ」という思いを込めています。

 

——並々ならぬ思いを感じます。

MONORさん:「MONOR」として活動をはじめるとき、新しくロゴをつくろうと思ったんですけど、どうしてもこのロゴを超えられなくて。10年以上前につくったんですけど、ロゴを見ると「情けないことはするなよ」って発破をかけられているような気がして。今でも大事なシンボルになっていますね。

 

好きが詰まった作品を、これからもつくり続けたい。

——MONORさんの代表作品である、『FIX-RAY』についても教えてください。

MONORさん:『FIX-RAY』は「空間で固定するレントゲン写真」とコンセプトにした作品です。金属パーツでつくった魚をレジンに沈めて固めた、標本のような作品です。透明標本が好きで、僕のつくった魚でもそれに近いものができるんじゃないかと思ってつくりはじめたんですよ。

 

——この作品の、お気に入りポイントは?

MONORさん:金属は錆びることは無いんですが、周りを固めているレジンは、時間経つと色が黄ばんでくるんです。その変化が、化石になる過程のようで。時間ごとの変化もぜひ楽しんでほしいですね。

 

 

——MONORさんの作品は「自然科学館」や「ホテル日航新潟」などで販売されているんですよね。

MONORさん:値段はそれなりですが、持ち運べて、手に取りやすい作品を販売しています。以前、小学生の子が、どうしても僕の作品が欲しくて、夏休みの間、家でお手伝いして貯めたお金で作品を買ってくれたことがあって。そのとき、「誰かの特別になれてよかった」って思ったんです。今まで頑張ってきたことが報われたと感じました。

 

——名前に込められた思いのように、誰かにとっての唯一になれたんですね。

MONORさん:それも、僕の活動を見つけてくれた方がいるからこそだと思っています。ありがたいことに、イベントに呼んでいただくことも多くなってきましたし、これからもいろんな人に作品を見てもらえるように頑張ろうと思います。思う存分、やりたいことをやって、「MONOR」の世界観をとことん魅せていきますよ。

 

 

9月23日まで「ホテル雅叙園東京」にて開催されている『和のあかり×百段階段 2025』に、MONORさんの作品が展示されています。今回の展示のためにつくった、迫力のあるかっこいい作品たちです。ぜひ、足を運んでみてくださいね。

 

 

MONOR

新潟市東区卸新町3-16-31 ナチュレ片山2F

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