新発田市の町はずれに「鍋定」というお店があります。「なべさだ」と読むのかと思ったら、「なべてい」。この場所で40年以上親しまれてきたという「鍋定」にお邪魔して、店主の渡辺さんからいろいろなお話を聞いてきました。
鍋定
渡辺 幸雄 Sachio Watanabe
1977年新発田市生まれ。埼玉の調理師専門学校を卒業後、県外のリゾートホテルで日本料理の修業をし、2002年より新潟に戻って「鍋定」で働く。バイクに乗るのが好きで以前は750ccや800ccのマシンに乗っていたが、最近では400ccのスクーターを愛用している。
——まず、いちばん気になっていたことからお聞きします。「鍋定」っていう名前にはどんな由来があるんでしょうか?
渡辺さん:鍋料理と定食の店として開業したので「鍋定」なんです。今では住宅街ですけど、父親が昭和57年に開業した頃は田んぼばっかりだったそうです。街中でもない場所で40年以上も営業してこられたのは、地元の方々のおかげだと感謝しています。
——今でも鍋料理や定食がメインなんでしょうか?
渡辺さん:鍋料理は白菜が美味しい冬の間だけ提供しています。定食は常時提供していますけど、最近ではお酒を飲みに来るお客様が多くなったので、定食を注文するお客様は少なくなりましたね。
——渡辺さんは最初から家業の「鍋定」を継ぐつもりでいたんでしょうか?
渡辺さん:絵を描くことが好きだったので、本当はグラフィックデザインの仕事をしたかったんですよ。でも中学校の先生から進路指導のときに「グラフィックデザインも建築も似たようなもんだから」と建築科を勧められて、なぜか高校では建築を学んだんです(笑)
——どうしたら、そんなことになるんですか(笑)
渡辺さん:わかりません(笑)。3年間建築の勉強をしたけど自分には合わないと思ったので、あきらめて「鍋定」を継ぐ覚悟を決めました。埼玉の調理師専門学校で勉強した後、県外の会員制リゾートホテルで日本料理の修業をして。駐車場がフェラーリで埋め尽くされるような高級ホテルだったんですよ。
——そんな高級ホテルでの修業はいかがでしたか?
渡辺さん:最初のひと月で同期の半分が辞めるほど厳しい職場でした。厳しい環境で残った者同士の間に絆が生まれて、お互いに励ましあえたおかげで修業に耐えられたんだと思います。まさに戦友ですね(笑)
——戦友ですか……本当に大変だったんですね。
渡辺さん:とにかく働いている時間が長くて寝る暇もないんですよ。特に夏場のオンシーズンは大変でした。夜中まで仕事をした後、山のなかまで料理に添える葉っぱを採りに行くんですよ。4時過ぎに帰ってくるんですけど、6時からまた仕事がはじまるんです。みんなすぐに辞めていくから何年経っても後輩ができなかったけど、おかげで先輩には可愛がってもらえたし、今思うと楽しかったですね(笑)
——新潟に帰って「鍋定」で働きはじめたのはいつ頃ですか?
渡辺さん:24歳のときに母親が体調を崩して入院することになったので、帰ってきて父親の手伝いをすることになったんです。まだ修業も途中で料理に自信もなかったので、もう少しリゾートホテルで働いていたかったんですけど、父親から教わりながら何とか店をやってきました。
——こちらのお店ではどんなお料理が人気なんでしょうか?
渡辺さん:以前から人気がある名物料理は「かに味噌焼」と「ホタテ味噌焼」ですね。「かに味噌焼」は、かにの身にお酒で伸ばしたかに味噌を乗せて焼いたもので、おつまみにはぴったりの料理です。「ホタテ味噌焼」はネギ、エノキ、帆立を調合した味噌と一緒に焼き上げたものなんです。
——どちらも美味しいですね。特に「ホタテ味噌焼」ははじめて食べた味です。
渡辺さん:ありがとうございます。常連のお客様は「鍋定」の味が食べたくて来てくれているわけだから、その味が変わらないように作り続けていかなければならないと思っています。うちの料理は鍋も含めて出汁に使う鰹節の量が多くてうま味が濃いんです。
——なるほど。
渡辺さん:当たり前のことを守りながら料理をしていれば、ちゃんとしたものができると思っています。ただ、父親が作り上げてきた味を守るだけじゃなくて、それを超えなければならないとは思っているんですけどね。
——渡辺さんがメニューに加えた料理もあるんですか?
渡辺さん:いくつかありますよ。評判がいいのは「ピザ」や「クジラの味噌漬」ですね。
——それも美味しそうですね。お客さんにはどんな人が多いんでしょうか?
渡辺さん:9割は常連さんですね。ひとりで料理を作っているのでお客様をお待たせすることも多いんですけど、常連のお客様は催促するどころか、忙しさで僕の機嫌が悪くなっていくのを面白がっていますからね(笑)。これからも地元の皆さまに愛され続けるように、頑張っていきたいです。
——常連のお客さんとの強い絆を感じますね。
渡辺さん:本当にありがたいですね。でも最近はインターネットのおかげで、はじめて来てくれる若いお客様も増えたんです。先日も月岡温泉へ遊びにきた女性のふたり組が「インターネットで見つけてきました」と言って立ち寄ってくれました。「来て良かった」と喜んで帰ってくれたので嬉しかったです(笑)
鍋定
新発田市住吉町3-3-18
025 4-22-1488
17:30-22:00
月曜第3火曜休