新潟県阿賀野市の安田瓦は丈夫な瓦として全国に知られています。中でも鬼瓦専門で瓦を作っているのが「長場鬼瓦工場」。屋根材としてだけではなく魔除けとしての意味も持つ「鬼瓦」を三世代にわたって作り続けてきました。そんな「長場鬼瓦工場」では新たな魔除けとして、現在話題になっている「アマビエ様」の置物を作り始めて反響を呼んでいます。今回は三代目の長場龍也さんに鬼瓦やギャラリーについてお話を聞いてきました。
長場鬼瓦工場
長場 龍也 Tatsuya Nagaba
1988年阿賀野市生まれ。長場鬼瓦工場三代目。日本大学芸術学部で彫刻を学び、新潟に帰って長場鬼瓦工場を継ぐ。多肉植物が趣味で自宅の寝室で栽培している。
——今日はよろしくお願いします。こちらの工場はいつ頃から続いているんですか?
長場さん:昭和36年創業と聞いています。じいちゃんの代からなので私は三代目になります。じいちゃんは同じ地域の瓦工場で、瓦や鬼瓦を作る仕事をしていたんです。でも、ばあちゃんが出産の影響で体調を崩しがちになってから、普段から一緒にいられるようにってことで独立して「長場鬼瓦工場」を始めたんです。
——長場さんは鬼瓦を専門にやっている工場なんですか?
長場さん:そうです。瓦工場から依頼を受けて鬼瓦を作っています。乾燥させるところまでがうちの仕事で、乾燥させると粘土が白くなるので「白地屋(しらじや)」とも呼ばれてます。焼くのは瓦工場の窯で焼いてもらうんです。鬼瓦専門の工場は安田に3軒しか残っていません。
——長場さんは最初から工場を継ぐ意志があったんですか?
長場さん:はい。工場の業績は下向きだったので両親には反対されましたけど、自分が継がなければ工場は無くなってしまうわけだし、家業がなくなるのは嫌だったので反対を押し切って継ぐことにしたんです。物を作ることが子どもの頃から好きだったのと、瓦作りに応用できたらっていう思いもあったんで、日本大学芸術学部で彫刻を学んでから実家の工場で働き始めました。
——鬼瓦ってどんなものなのか教えてもらっていいですか?
長場さん:鬼瓦は日本家屋の棟(むね)と呼ばれる部分につける瓦の部材のひとつです。「雨仕舞(あめじまい)」といって雨が家屋に侵入するのを防ぐ役割があります。1400年前に朝鮮半島から伝わった魔除けの瓦がルーツだそうです。パルミラ神殿の入り口に掲げられたメデューサという怪物を魔除けとして飾っていた文化が、シルクロードを通って中国に伝わったものと言われています。もっとも日本に伝わったときは蓮の花や獣の顔だったようですけど。
——メデューサって髪の毛が蛇になっている怪物ですよね。目を見ると石にされる…。メデューサが日本に来て鬼になったんですか!
長場さん:海外の文化を自己流にアレンジしてしまうっていうのは日本人の得意技なんでしょうね。日本で怪物の代表格っていったら鬼ですからね。室町時代には鬼瓦のスタイルが完成したようです。最初は身分の高い家にしか瓦屋根を使っていませんでしたが、大火事が起こった時に国から瓦屋根にするようお布令が出て庶民にも普及していったということです。でも最近では鬼瓦も使われなくなって、見かける機会が減りましたね。
——鬼瓦以外にも棟瓦っていくつかありますよね?
長場さん:「経の巻(きょうのまき)」っていうものがあります。頭上にお経の巻物が3本乗っているもので、普通はお寺の屋根に使われるものですが、安田瓦では一般住宅にも使うんです。あと雨を運んでくれる雲の形をした棟瓦には火事除けの意味があります。
——置物や小物を展示販売しているギャラリーはいつから始めたんですか?
長場さん:4年前に工場の一角を改築してオープンしました。私が実家に帰ってきたタイミングで、工場に窯を入れることができたんです。窯の使い方は独学で覚えました。今でもより良い方法を探りながら焼いています。それが契機になり、大学で学んだ技術を生かして置物や小物を作り始めて、それを販売するためのギャラリーとして作ったんですよ。鬼瓦の製造は下請けなので待つ仕事なんです。でもそれだけじゃなくて、自分達から仕掛けられる仕事もしたかったんですね。ギャラリーで売っている商品は奥さんのアイデアが大きいですね。
——奥さんとはどちらで知り合ったんですか?
長場さん:大学で知り合いました。彼女は大学院まで行ってアミューズメントパークとかの造形物を作ったりする会社で働いていた経験もあるので、いろいろなことを相談したり、試作品の感想を聞いたりしています。今回話題になった「アマビエ様」も彼女のアイデアです。
——アマビエって新型ウイルス騒ぎで注目を浴びた妖怪ですよね?疫病を退散させる力があるという…。
長場さん:はい。どこかの作家さんがアマビエを作っているのをTwitterで見て、うちでも作ってみたらと勧めてくれたんです。そこで軽い気持ちで作ってTwitterに投稿してみたら反響があったんです。ある雑誌社が発行したアマビエ作品集に載せてもらったり、新聞、テレビといったメディアでも取り上げられました。おかげさまで、最近お問い合わせいただくほとんどは「アマビエ様」の件ですね。
——今後はどんなことをやっていきたいですか?
長場さん:最近ネットショップを立ち上げたんです。新型ウイルス感染症の影響でお店に来るお客様が減ったので、ネットでもお買い物できるシステムを作りました。今後は父の仕事を引き継いでいくことになると思うし、いろいろなことが転換期を迎えると思うんです。そんな中で効率よく仕事を回していく方法を考えていきたいと思っています。その上で安田瓦のよさを世の中に伝えていきたいですね。
家業を守りたいという思いで鬼瓦工場を継いだ長場さん。奥さんのサポートもあって、鬼瓦はもちろん、それ以外の置物や小物も製造販売してギャラリーで販売しています。今回新しく仲間にくわあった「アマビエ様」は疫病退散にご利益があるといわれています。魔除けとしてご自宅に置物を飾ってみてはいかがでしょうか?
長場鬼瓦工場
〒959-2221 新潟県阿賀野市保田6185-1
0250-68-2085
8:00-17:00
日曜休