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五泉の山里で手打ち蕎麦が味わえる「手打蕎麦処 阿弥陀瀬」。

五泉市の「阿弥陀瀬(あみだせ)」という地域に、地名をそのまま店名にした蕎麦屋「阿弥陀瀬」があります。暖簾が出てなければお店とはわからないような外観ですが、中に入ってみると確かに和風モダンなお蕎麦屋さん。店内には民芸品や手芸作品が所狭しと展示されています。店主の石本さんにお店や蕎麦のこだわりを聞いてみました。

 

 

手打蕎麦処 阿弥陀瀬

石本 敏朗 Toshiro Ishimoto

1942年五泉市(旧村松町)生まれ。大学卒業後、県内の高校で教員として生物を教える。最後は地元の「村松高等学校」に17年間在籍。定年退職後は生家の隣に建つ古民家を改築して「手打蕎麦処 阿弥陀瀬」を開店する。趣味は写真、刺し子、木工、民芸品収集と幅広く、刺し子はオーダーメイドの注文を受けるほどの腕前。

 

人気蕎麦屋の主は、元高校教師だった。

——博物館みたいにたくさんの人形やお面が飾ってありますね。

石本さん:遠征であちこちに出かけたときに買い集めたもんなんです。私は定年退職するまで新潟県内の高校で生物の教員をやっていて、生物部や写真部の顧問を続けてきたんですよ。写真部の大会が全国のあちこちであったので、それに参加するためにいろんな場所に出かけてたんです。

 

 

——石本さんって高校の先生だったんですか。蕎麦屋を始めたのはどうしてなんですか?

石本さん:定年の3年前から趣味で蕎麦打ちをやってたんですよ。まわりの人たちに食べてもらったら結構評判が良かったので、退職後は蕎麦屋をやってみようと思ったんです。

 

——蕎麦打ちはどうやって覚えたんですか?

石本さん:ビデオを見ながら勉強したり、いろんな蕎麦屋を食べ歩きしたりして研究しましたね。本に書いてあるレシピで作ったりしてましたけど、蕎麦は粉の状態や湿度によって分量の比率が変わるんですよ。だから本に書いてあるレシピはあまり頼りにならないですね。結局は自分の指先の感覚だけが頼りなんです。

 

——じゃあ、まさかの独学!?

石本さん:そうなんですよ。だから最初のうちは、自分の打つ蕎麦に自信がなかったんですよね。食べた人が「美味しい」って言ってくれても、「……ほんとなんだか?」って信じられませんでしたね(笑)

 

お客さんに来てもらうためにとった秘策、それがギャラリー。

——この古民家はどういった建物なんですか?

石本さん:隣に私の実家があって、以前は両親が住んでいたんです。でも古い家だから冬はとっても寒いんですよ。それでここは私が50年前に建てた家なんです。両親に住んでもらおうと思っていたんですけど、でも結局、両親は長男の家で同居することになって、ここはずっと空き家になっていたので、せっかくだから増築して店舗にしたんです。最初は国道沿いや観光地に開店したいって考えたんだけど、お金もかかるしねぇ……(笑)

 

 

——たしかにちょっとわかりにくい場所にありますよね。

石本さん:そうそう(笑)。こんな場所で蕎麦屋をやるもんだから、どうしたら人が来てくれるか考えたんですよね。私は高校に勤めてたときに写真部の顧問をやってたから「写真家協会」とも付き合いがあったんです。その協会員の方が、趣味で絵画や手芸をやっている人たちの発表や販売の場が少ないって嘆いていたのを思い出して、お店の一部をギャラリーにして無料で貸し出すことにしたんです。津軽三味線とか琴とかの演奏会を開いたりもしましたね。

 

——それでお客さんは来てくれたんでしょうか?

石本さん:作品展を開くことで関係者が来てくれるんですよ。教室の作品展だったら教室の生徒さんたちがたくさん来てくれるんです。演奏会ははっきり言って赤字だったけど、来てくれたお客様たちが口コミで宣伝してくれたので、お店の知名度が上がってお客様も増えましたね。やってよかったと思ってます。

 

中高年の女性に合わせて、のど越しのよい蕎麦作り。

——蕎麦のこだわりについて教えてください。

石本さん:西会津産の蕎麦粉を使った一九蕎麦です。うちの店は作品展をやっている関係で中高年女性のお客様が多いんですよ。7割くらいかな。だからのど越しのいい麺にしています。本当は十割蕎麦が理想なんですけど、つなぎが悪くてモキモキした麺になっちゃうんです。だからのど越しのことを考えて一割だけつなぎとして小麦粉を使ってます。

 

——女性客に合わせた蕎麦なんですね。

石本さん:はい。麺つゆもみりんを多めにして甘めの味付けにしてあります。最初の頃は、男性は甘さを控えめにしたりしてお客様を見ながら麺つゆの味を変えてたんですけど、今ではお客様が増えてそれぞれの好みもわかりませんので、みなさん同じ味で出させていただいてます。

 

 

——今まで私が食べた蕎麦の中で、ここまで甘い麺つゆは初めてです。でもこの蕎麦との相性がとてもよくて美味しいです。

石本さん:ありがとうございます。そう言っていただけるとありがたいですね。以前は「北方文化博物館」の伊藤館長がお客様として来てくださってたんです。伊藤館長がよく言っていたのが「蕎麦が立っていなければダメだ」っていう言葉でした。この言葉の意味は、きちんと直角に蕎麦が切れてないとダメだとういことなんです。だから私もよく切れる包丁を使って直角に切るよう心掛けてます。煎り菜種油を100%使っている天ぷらは伊藤館長にも褒められました。

 

——なるほど。石本さんが蕎麦打ちをしていて面白いと思うのってどんなところですか?

石本さん:蕎麦っていうのはグルテンが少ないから、元々つながりにくいものなんですよ。でもできるだけ蕎麦を多く使いながら、どうやってつなげるかを考えるのが面白いんじゃないでしょうか。それから作業自体はとても単純なんだけど、単純なだけにごまかしが効かないんですよね。

 

お客さんの喜んでくれる顔を見るために、蕎麦を打つ。

——12月末から3月末までの冬期はお休みするんですね。

石本さん:最初は冬もやってたんですよ。でもここらは雪が深くてお客様も全然来ないからやめちゃったんです(笑)

 

——雪の他にお店をやってて大変だと思うことってありますか?

石本さん:うちはレベルの高い蕎麦粉を使っているんだけど、値上げをすることはできないから、店の経営としては厳しいんですよ(笑)。でもここまでわざわざ来てくれるお客さんがいるし、食べてくれたみんなが喜んでくれる顔を見れれば、やっててよかったって思いますね。

 

 

——苦労より喜びの方が大きいってことでしょうかね。

石本さん:そうですね。あと私はずっと教員一筋でやってきたので、すごく狭い世界で生きてきたんですよね。それがお店を始めてからはいろんな人と出会ったり、いろんな話を聞いたりできるようになったんです。そういう意味でも楽しくやらせてもらえてますね。

 

 

取材にお邪魔した15時過ぎでも、店内ではたくさんのお客さんが蕎麦を食べたり、ゆったりとお茶をしたりして過ごしていました。皆さん石本さんご夫婦と親しくお話したり、野菜の差し入れをしたりしていて、そんな様子を見て、蕎麦の味はもちろんのこと、人柄も慕われているんだなあと感じました。村松公園や慈光寺へ紅葉狩り際は、ぜひ「手打蕎麦処 阿弥陀瀬」でこだわりの蕎麦を味わってみてはいかがでしょうか。

 

 

手打蕎麦処 阿弥陀瀬

〒959-1717 新潟県五泉市阿弥陀瀬399

0250-58-7823

11:00-17:00

火曜水曜木曜休

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