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食と農業でつながるコミュニティ「農民カフェ 味方店」。

白砂糖や動物性食品を使わないビーガンメニューが楽しめる「農民カフェ 味方店」。店内に入ると「おかえりなさい」と出迎えられてびっくり。お客さんはみんな「農民ファミリー」だから、家族のように「おかえりなさい」「いってらっしゃい」と声をかけているんだそう。今回は店主の田中さんに、いろいろとお話を聞いてきました。

 

農民カフェ 味方店

田中 裕介 Yusuke Tanaka

1965年新潟市生まれ。営業職を経て、2021年に「農民カフェ 味方店」をオープン。

 

関川村の営みに影響を受けて、カフェオープンを目指す。

——田中さんがビーガン食に関心を持たれたのはどうして?

田中さん:義理のお母さんが2011年に癌で亡くなってしまったんです。そのときに食事療法をしようというので、ビーガンを知ったのがきっかけです。関川村に「はっぴいふぁーむ」という自然農を取り入れた農業チームの皆さんがいて、そこでビーガンの学びを得ました。残念ながらお義母さんの回復には間に合いませんでしたけど、その後も家族の食卓にはビーガン料理が並ぶようになって。食事が玄米、菜食に変わったら、僕の身体にいい変化がたくさん起きました。アトピーや喘息がよくなり、肥満も解消されたんです。

 

——食べるもので身体が変わるとよく聞きますが、その通りだったんですね。

田中さん:当時、僕はサラリーマンで、毎日仕事に追われていましてね。「食」の大切さなんて何も考えずに過ごしていました。でも「食」の力を知って、それから自分の意識がどんどん関川村にフォーカスされていったんです。関川村にはサラリーマン生活とは真逆の学びがあったんですよ。

 

 

——どんな学びがあったのでしょう?

田中さん:その頃の僕には農業だけで生きていく術なんてまったくなかったんですけど、でもそういう営みが関川村にはあったんです。「循環」と言えばいいかな。食べるものを自分たちで育てて、いろいろな人たちとのつながりから営みを得ていく。それに衝撃を受けて、いずれ自分も関川村の皆さんのような道に進みたいと思うようになりました。

 

——それが「農民カフェ」につながっていくんですね。

田中さん:ビーガンと出会って、関川村の皆さんと出会って、「自分の思いを取り入れたカフェをやりたい」と思ったんです。ここに至るまでは僕の思いが強くって。奥さんはそこまでじゃなかったかな(笑)。でも「月に1回の営業くらいなら」と了承してくれて、最初は中央区の本町に間借りしてカフェをはじめたんです。

 

人生のミッションを「未来につながる食と農業」に定める。

——その後、2021年に南区でお店を持たれたんですね。こちらは「味方店」ですが、他にもあるんですか?

田中さん:「農民カフェ」にはルーツがあって、最初に「下北沢店」をはじめたのが和気優(わき ゆう)さんというミュージシャンです。彼は「臼杵家」というゲストハウスを運営しながら農業をしています。耕作放棄地を和気さんが借り上げて、自然農法で古代米を作っていてね。農閑期にそのお米と新作CDを持って日本全国にやってくるんです。11月には「味方店」でもライブが開催されますよ。和気さんは、ずっと前から僕の憧れのロックスターなんです。

 

——田中さんと同じように、和気さんの活動に共感した方が「農民カフェ」を全国ではじめたということですね。

田中さん:僕は、和気さんと関川村の「はっぴいふぁーむ」をつなげたくて。2014年には和気さんのライブをコーディネートして、関川村でも開催したんですよ。

 

 

——和気さんと出会った頃は、田中さん、まだお勤めされていたんですよね?

田中さん:気持ち的には「僕も食と農業の道に進みたい」「和気さんのような営みを新潟で体現したい」という思いがあったんだけど、まだカフェスペースも農地も確保できる目処がなくて、しばらくは勤めながら活動をしていました。いざ退職を決めたのは2017年です。

 

——長くお勤めされた職場を去るほど、強い思いがあったんですね。

田中さん:自分の仕事が何につながっているのか。それってすごく大切なことだと思うんです。僕にとって生きている実感が持てるのは、食と農業でした。食と農業は生きていく上での礎だし、それが未来につながる道になるんじゃないかと思ったんです。それで自分の人生のミッションを食と農業に定めようと決めました。

 

 

——カフェメニューについても教えてください。

田中さん:メニューはすべて動物性食品を使っていない料理です。毎週変わる「おうちごはん」にスリランカベースのカレー、デザートをいくつか用意しています。今日は頼りにしている農家さんから届いた無農薬の桃で作った「桃のソルベ」がありますよ。

 

——お野菜は田中さんの畑で採れたものですか?

田中さん:できる限りうちの畑で作った野菜です。すべてを自家栽培でまかなうのは無理なので、足りない分はつながりのある農家さんの野菜を使っています。調味料は特にこだわっていて、決まったところから購入しています。白砂糖は使いませんし、塩は自然塩、サラダ油ではなくこめ油を選んでいます。

 

 

——私が入店したときもそうでしたが、お客さんに「いらっしゃいませ」の代わりに「おかえりなさい」と声をかけるのはどうしてですか? 

田中さん:ここに来てくださる皆さんは「農民ファミリー」だと思っているんです。新規の方だって、これからファミリーになってくれるかもしれません。なので「おかえりなさい」「いってらっしゃい」と挨拶しています。

 

——週末を中心にカフェを営業されていますよね。それ以外の日は農業をされている?

田中さん:農業もしますし、学びの場を用意したり、「あたなの中の種を育てる会」という起業ミーティングを開催したりもしています。ここに集まってくれる「農民ファミリー」の皆さんは、それぞれ自然に沿った生き方をしていて、いろいろなスキルを持っています。皆さんの中で循環できるマーケットを作ろうと取り組んでいます。好きなことで自分たちの仕事を作ろうとしているわけです。

 

 

——念願の「食と農業」を「農民カフェ」として実現した今、どんな気持ちでしょう?

田中さん:楽しいことしかないですね。実際は笑ってばかりいられないときもあるんだけど、それも面白いと思っています。仕事と思っていないんですね。一生懸命遊んでいる。真剣な遊びに熱中しているという感じです。

 

——まだまだやりたいことがあるのではないですか?

田中さん:ここでのつながりで新しく農業チームができました。最近は農業に携わる人が高齢化していることもあって、農業を諦める人がいます。ということは農地が余っているとも捉えられます。そういった土地を有効活用させてもらいながら、僕たちのチームが中心となって若い方が農業に参入するお手伝いをしたいと思っています。

 

——若い方が農業に携わってくれるとすごく頼もしいですよね。

田中さん:それともうひとつ考えがあって。去年、沖縄に旅行して「旅に次のヒントがある」ような気がしているんです。沖縄には理想の使い方ができるスペースがたくさんありました。冬は仲間たちと沖縄で生活して、春に新潟に戻って来る生活もいいですよね。きっといろいろな場所に「幸せのウイルス」が漂っているんでしょうね。コロナウイルスの次にやって来た「幸せのウイルス」を、どんどん広めたいと思います。

 

 

 

農民カフェ 味方店

新潟市南区味方1135-2

営業日:毎週金曜〜日曜、第3日曜の前の週のみ木曜~土曜

営業時間:AM11時〜PM4時

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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