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福祉法人がはじめた、一流を目指す「DONBASS COFFEE ROASTERS」。

昨年7月、北区葛塚にオープンした「DONBASS COFFEE ROASTERS by SUZUKI COFFEE」。障がい福祉事業所「クローバー」などを運営する「社会福祉法人 とよさか福祉会」が、コーヒーロースター「鈴木コーヒー」とタッグを組んで立ち上げた、焙煎工場を備えたカフェです。個性豊かなスタッフがやりがいを持って日々働いています。今回はカフェのディレクターである小林さんと、店長を勤める佐藤さんにお話を聞いてきました。

 

 

社会福祉法人 とよさか福祉会

小林 誉尚 Yasunari Kobayashi

1974年新発田市生まれ。「社会福祉法人 とよさか福祉会」が運営する支援施設「クローバー 歩みの家」「クローバー ドンバスの家」の管理者・支援課長を務める。以前より交流のあった「鈴木コーヒー」に声をかけ、2023年7月に「DONBASS COFFEE ROASTERS」をオープン。

 

社会福祉法人 とよさか福祉会

佐藤 汐織 Shiori Sato

1989年新潟市生まれ。「社会福祉法人 とよさか福祉会」の職員として「クローバー ドンバスの家」に務める。小林さんの推薦を経て「DONBASS COFFEE ROASTERS」の店長に抜擢。

 

鈴木コーヒーの力を借りてスタートした、本格的なコーヒーのお店。

――まずは福祉法人が焙煎工場を備えたカフェをはじめることになった経緯を教えてください。

小林さん:この建物は以前この地域に根ざした小児病院で、その後法人が受け継いだんですけど、うまく活用できていなかったんです。そんなときに、私がコーヒーにハマって(笑)。そこで、以前から交流のあった「鈴木コーヒー」からオーダーを受けて、ここで焙煎ができるようになれば、障がいのあるメンバーにとって安定した仕事と収入を得られるんじゃないかとひらめいたんです。「鈴木コーヒー」の社長にその話をしたら、このお店の提案を持ってきてくれて、焙煎工場とカフェをはじめることになりました。本当に感謝しています。

 

――店名にも「by SUZUKI COFFEE」と入っているように、鈴木コーヒーさんと相談しながら進めていったお店なわけですね。

小林さん:そうですね。施設の職員は飲食業の経験がありませんでしたし、鈴木コーヒーさんの経験値を借りるっていうのが提携の大きな目的です。福祉ってよくあるのが、カフェをはじめたはいいけど「障がい者がやっているからしょうがないよね」みたいに、緩めていっちゃう。それをしないことを大前提として「みんなで一流を目指そうよ」っていうコンセプトでスタートしたんです。だから福祉施設とは分からない、おしゃれな店内になっていて、メンバーが描いたアートも飾っています。

 

――提供されているコーヒーについてもこだわりが多そうですね。

小林さん:オリジナルの「ドコブレンド」は自分たちで試行錯誤しながら作り上げたので自信がありますよ。もちろん「鈴木コーヒー」さんのノウハウや知識のバックアップがあってのことだと思っています。障がいのあるメンバーにハンドドリップは難しいと考えていたんですけど、一度身につけるとむしろ丁寧なドリップができると分かりました。

 

――焙煎機も立派ですね。

小林さん:豆は自家焙煎していて、障がいのあるメンバーでもできるDXの焙煎機を導入しています。エスプレッソマシンも難易度が高いのですが、きちんと練習して、質の高いラテを提供しているんです。将来的にはラテアートにも挑戦していくことを目標としています。

 

――店長の佐藤さんは、もともと施設の職員さんとして働かれていた方なんでしょうか?

小林さん:そうです。私は「歩みの家」と「ドンバスの家」という施設の管理者をやっているんですけど、店長の佐藤はそこで職員として働いていたメンバーです。「障がいのあるメンバーが輝く」ということは大前提としつつも、やはりそこを支えている職員のこともクローズアップしたいとずっと思っていて。それで「佐藤に輝いてほしいな」と思って抜擢しました。

 

佐藤さん:話を聞いたときは「面白い取り組みだな」と思いましたし、利用者さんにどういう変化が起こるのかなっていうのが楽しみでした。

 

徐々に現れていった、利用者さんたちの変化。

――お店のオープンに向けて準備をはじめてから、店頭に立つことになる利用者さんの反応はいかがでしたか?

佐藤さん:お店ができる前から「鈴木コーヒー」のスタッフさんが入ってくださって、ハンドドリップの練習とか、コーヒーについての勉強をしていたんです。でもそのときは反応がまったくなかったんですよ。みんなシーンって(笑)。利用者さんはまずコーヒーがどんなものかを知らないし、カフェに行ったことがある人も少ないので「大丈夫かな」って思っていましたね。

 

小林さん:実は「ドンバスの家」の利用者さんは自立度が高い方が多く、ちょっとした内職的な仕事だったら、ぱっと見ただけで理解できる人が多いんです。でもそんなに横のコミュニケーションを取る雰囲気がなかったんですよね。どちらかと言うと人間関係作りが苦手な感じって言うんでしょうか。そこにいきなり「コーヒー」っていうものが入ってきて、「鈴木コーヒー」のスタッフさんともどう関わったらいいか分からない。だから最初は壁がありました。

 

 

――そこからみなさんどんなふうに変わっていったんでしょう?

佐藤さん:働くための基礎を学ぶ学習会を行っていて、そういう会を重ねるごとに、チームとしてまとまっていきましたね。そこから実際にお店に立って練習をするようになったら、だんだん意識が出てきて、「カフェ」っていうものへのイメージがついてきたみたいでした。鈴木コーヒーの店舗にもみんなで行って練習させてもらって、そこでようやく実感が湧いたのか、一気にコミュニケーションが増えましたね。

 

小林さん:その頃、ある職員がワークショップをやって、カフェに立つための練習をはじめてから大変なこととか心配なこととかを、みんなに発言してもらう機会を作ったんです。そのときに初めて「他のみんなも心配だったんだ」って、お互いに共感があったんですよね。

 

 

――ひとりで抱えていた不安を共有できたことが大きかったんですね。

小林さん:「ひとりじゃないんだな」と思ったみたいで、そのあたりから利用者さんが他の利用者さんをフォローする動きが出てきたんです。話すことが苦手で、質問に返事をするのに時間がかかる方がいるんですけど、それを見た他の利用者さんが「ゆっくりでいいよ」「紙に書いて伝えてみたら」ってサポートする関係性にまで発展して。その方も話すのが苦手なのに、ですよ。それを聞いたときは本当に感動しました。

 

――素敵な変化ですね。

小林さん:自分のことで精一杯な状況だったのに、人に心がおよぶようになっていって、すごくいい関係性ができてきたなって思います。

 

――お店がオープンしてからも、日々利用者さんを見ていて変化は感じますか?

佐藤さん:感じますね。勝手に「この作業は難しいかな」と思っていても、実際にやってもらうとできてしまったり、「こっちの方が向いているかな」って勝手に思っていても、「実はこういうこともできたんだな」って分かったり。あとはお店を作っていく中で「こういうふうにした方がいいんじゃないか」とか、利用者さんの方から職員に提案してくれることもあって。みんなでお店を作っているなって感じます。

 

それぞれが自分の力を発揮できる環境を整える。

――これからもお店を続けていく中で、目指していくことはあるんでしょうか。

佐藤さん:障がいのあるメンバーさんでいうと、ここがゴールじゃない人はもちろんいて。「ここでずっと働きたい」っていうのもひとつだと思うんですけど、就職とか、さらにステップアップしていく人が出てくると嬉しいです。あとは「ここで働きたい」という人がどんどん増えていって、メンバーの工賃アップを実現できたらいいなと思っています。

 

――すみません、「工賃」というのは……?

小林さん:この施設は障がい福祉事業所として、「就労継続支援B型」というかたちで運営しているんです。B型は雇用契約を結ばずに、生産活動の対価としてメンバーに工賃というものを支払います。雇用契約を結ばないので、最低賃金の縛りもなく、県の平均工賃は1ヶ月働いて1万5千円ぐらいなんですよね。全国でも同様なんです。その中でここは、ひとりで暮らしていけるぐらいの工賃を払うことも目的のひとつとしています。

 

 

――難しい挑戦でもありそうですね。

小林さん:集客力とか経営ノウハウとかいろいろな課題があるので、まだ試行錯誤している最中なんです。でも絶対できると思っていて。言うのは勝手なので、日本一になろうと思っています(笑)

 

――それが実現したら、全国にも同じような取り組みが広がっていきそうですね。

小林さん:環境が整っていれば有名カフェにも引けを取らない技術やサービスのレベルまで絶対に上げられるから、きちんとしたものを提供してきちんとした対価をいただいて、それを利用者さんが手にすればいいんじゃないかなって思います。「ドンバス」と名付けたのも、「どんばす」とはこの地域で「オニバス」を指す方言で、個性豊かな水草のどんばすのように「環境さえ整えば、人それぞれの個性の花を咲かせられるんだ」ということを表現しました。

 

 

――最後に、お店をオープンしてから小林さん自身に生まれた変化や気付きがあれば教えてください。

小林さん:イベントに出店したときに利用者さんと一緒に働いたんですけど、彼らがいないとお店が回らないんですよ。これは障がいの有無に関係なく、一緒に働く仲間っていう感覚。お店やイベントの成功を一緒に目指す同志ですよね。支援する、支援されるっていう関係を当たり前のように思ってきたんですけど、ぜんぜん違うなって。「共存する」ってこういう感覚なのかなって初めて感じられましたね。

 

 

 

DONBASS COFFEE ROASTERS by SUZUKI COFFEE

新潟市北区葛塚3304-5

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