精巧なイラストケーキで記念日にサプライズ「パティスリーマルヤ」の手仕事。

1日に10個以上描くことも。どんなイラストもこなす職人技。

県北の清流・荒川沿いにある村上市金屋。昔懐かしい商店街の一角に「イラストケーキ」で有名な菓子店があります。同地に150年以上前から店を構える老舗「パティスリーマルヤ」です。主に子どものバースデー用として数年前から始めたこのイラストケーキのサービスは、その緻密な手仕事による高い再現度で一躍、同店の看板メニューのひとつに。今や多い時は1日に10個以上もオーダーが入るなど、衰え知らずの人気を誇っています。イラストケーキを手掛けるまでに至った経緯や上手に描くコツ、描く際の苦労、やりがいなどについて店主のパティシエ・遠山浩司さんに、実際にイラストを描いてもらいながら話を聞くことができました。

 

パティスリーマルヤ

遠山 浩司 Koji Toyama

1976年生まれ。日本菓子専門学校を卒業後、首都圏の一流ホテルや和菓子店などでの修行を経て、27歳で実家の老舗菓子店に帰郷。6代目として、父の代から洋菓子へ本格的にシフトしたお店を切り盛りする。イベントなどで奇抜な手作り衣装でステージに立ち、熱唱する姿も地元では有名。2人の子ども(一男一女)はともにスノーボードで全国レベルの実力。

 

直接手描きがこだわり。人気キャラは作者のクセまで再現?

――本日はよろしくお願いします。イラストは直接描き込むんですね…。

遠山さん:そうですよ。下書きを写してなぞったり、専用の機械でチョコをインクジェットのように飛ばして印刷する手法もあるみたいですけど、自分は直接手描き一本、がこだわりですね。まぁこだわりというか、これが一番手っ取り早くて簡単だからですけど(笑)。

 

 

――とはいえ、画力がないとムリですよね。

遠山さん:それはもう、数をこなして鍛え上げていますね。注文の多い人気キャラほど、どんどん上手くなっていきます。人気の長い「プ○キュア」なんて、ずっと描いているので歴代デザイナーのクセまで身についちゃってますよ(笑)。

 

――かなりの数をこなされてきたんでしょうね。

遠山さん:おかげで、アニメにも随分と詳しくなりました(笑)。元々それほど観るタイプではなかったんですけど、市場調査もかねてチェックするうちに…。人気のものはそれだけ注文も多いので。いまこれがキてる、とか、逆にこれはもう下火だな、とか、これは根強いファンに支えられているなぁ、とか、注文の状況でキャラクターの栄枯盛衰が分かるのも面白いですね(笑)。ただ最近は本当に好きなキャラが多様化していて、本当に分からないキャラの注文を受けて検索してから描くことも少なくありません。とはいえ、なんだかんだ言って結局、一番強いのはア○パンマンですけどね(笑)。

 

似顔絵、ペット、愛車…どんなオーダーもイラスト化OK。

――これまでどんなものを描いてきたんですか?

遠山さん:少年漫画、特撮ヒーロー、ゲームキャラ、アメコミ、海外アニメ…ホントに様々です。これ、著作権的に言っても大丈夫なんですかね(苦笑)。画像さえあれば、基本的に何でも描けますよ。似顔絵やペット、愛車とかでもOKです。以前、ウェディングの注文で新郎新婦の顔写真だけもらって、それにドレスとタキシードを着せた姿を描いたこともありました。

 

――どんなシーンで使われるのでしょうか。

遠山さん:基本的には、誕生日などの記念日にサプライズとして利用される方が多いです。親御さんが、子どもの好きなキャラクターを描いてほしい、という注文が大半ですね。ケーキを引き取りに来た方のワクワクした笑顔は、何度見てもいいものです(しみじみ)。

 

 

――これまでに珍しいオーダーなんかはありましたか?

遠山さん:これもウェディングですが、絵でなくてお神輿をケーキで作ったことはあります。型も自作して、チョコを流し込んで固めて。…そういえば、この春はあの「令和おじさん」の注文もありましたねぇ…いったいどういうシチュエーションでご利用いただいたのやら(笑)。

 

イラストが得意になったのは、幼少期の苦い経験がきっかけ?

――イラストケーキを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

遠山さん:お店としては、自分が帰郷して店に入って間もない頃、友人が子どものバースデー用に何か心に残るケーキを作ってくれないかと依頼してきたのに応えたのが最初ですね。それからちょくちょく注文が入るようになり、今やお店で作るバースデーケーキはイラストとノーマルが9:1くらいの割合です(苦笑)。

 

――イラストはもともと得意だったのですか?

遠山さん:子どもの頃から好きでした。…というか実は、ファミコンを買ってもらえず、友人の家でファミコンをして帰宅した夜、それを思い出しながらチラシの裏にゲームのキャラを描いて頭の中で遊んでいた、という暗い過去が自分のイラストのルーツでしてね(苦笑)。そのうち小学校で絵の上手い友人と見せ合いっこをするようになって、負けたくないからどんどんこだわるようになっていって、終いには図書館まで人体解剖図を借りに行って筋肉や骨のリアルさを追求するまでになってました(笑)。もともと凝り性なのかもしれません。中学に上がるとモテたくてスポーツに走ったので絵とはしばらく縁遠くなっちゃいましたけど、まさか小学生の頃のあの経験が今まさに自分の商売の稼ぎ頭のひとつになっているとは、何だか不思議ですね。ファミコンを買ってくれなかった親は、はたしてそこまでお見通しだったのか(苦笑)。

 

 

――…(笑)。その後は?

遠山さん:高校を卒業した後、家業の跡継ぎとして東京の専門学校に進学しました。うちのお店は今でこそ「パティスリー」として洋菓子を中心にやっていますが、元々は慶応元(1865)年創業の和菓子店なんです。洋菓子にシフトしたのは父の代から。それで自分も、和洋どちらも学べる学校に進んだのですが、2年目でどちらかのコースを選ぶことになって。どちらかというと洋菓子の方が得意だったので、せっかく学費をかけて学ぶのであればあえて不得意な方を学ぼうと、和菓子のコースに進んだんです。すると卒業後の就職先が和菓子店しかなくて(笑)。社会見学のつもりで皇室御用達の高級和菓子店に入りました。数年間働きましたがやっぱり洋菓子をやらなければと思い直して都心のホテルに転職して、その後郊外のケーキ店などを経て27歳の時に帰郷しました。

 

――修業の過程でイラストケーキを学ぶ機会はなかったのでしょうか。

遠山さん:ありませんでしたねぇ(笑)。なのでほぼ独学、実践で身につけましたね。ただ一度、同業の知人の新店オープンを手伝った時、バタークリームでディ○ニーキャラクターを描いたことはありました。今考えれば下手クソでしたね(笑)。バタークリームって、すんごく描きにくいんですよ。

 

自分の作ったケーキで、一人でも多くの人を驚かせたい。

――それが今や、クオリティの高さで大人気に。

遠山さん:おかげさまで、遠くは横浜や名古屋からも注文が来ます。クール便で送るのですが、絵の材料は冷えれば固まるので、意外と大丈夫みたい。イラストのクオリティを上げてこられたのは先ほど言ったように数をこなしてきたのが一番大きいですが、その試行錯誤の中で自分の一番描きやすい道具や姿勢を見つけてきたのも大きいです。自分は基本的にチョコペンで輪郭を描き、ナパージュ(ツヤのあるゼリー)で色づけをしています。たとえ描き間違えても、冷やして固めれば簡単に取れるので、やり直しもききます。

 

――今おっしゃった姿勢とは?

遠山さん:少し前のめりになって左ひじを机に付けて固定し、ペンを持った右手をその左手に添えて動かすのが基本姿勢ですね。これが一番上手くペンを動かせるし、腰の負担も少ないんですよ。この姿勢で毎晩のように夜なべして描いています(苦笑)。

 

 

――モチベーションの源は何ですか?

遠山さん:やっぱりお客さんの笑顔ですよ(真顔)。ずっと続けてきて、ごまかしテクはいくつも覚えてきたので、手を抜こうと思えば抜けちゃうんですけど、いくら忙しくても「このくらいでいいだろう」よりも「もっと驚かせたい」の方が勝っちゃいますね。たまに体の方が悲鳴を上げる時もありますが…(苦笑)。

 

――今後の展望を教えて下さい。

遠山さん:体が続く限り、具体的には腰と握力が続く限り、続けていきますよ。70、80のジジィになってもその時のアニメを観て描いているのかと思うと少し気が遠くなりますが(苦笑)。手先を使う仕事なのでボケないとも思いますし。自分の作ったケーキで、一人でも多くの方を笑顔にできれば本望です。

 

――本日はありがとうございました。

 

 

誕生日のケーキは、いくつになっても心躍るもの。家族や大切な人が自分のためにケーキを用意してくれるだけで嬉しいのに、そこに自分の顔や好きなものが描かれていれば、その時の喜びは何倍にもなるでしょう。県内でも数少ない手描きのイラストケーキ職人として、その笑顔を想像しながら遠山さんは今日もペンを握っています。またマルヤさんではイラストケーキのみならず、「王様のプリン」やマカロン、ロールケーキなどにも定評があり、県内各地のデパートやイベントで出張販売もしています。荒川を訪れた際や近くのイベントでブースを見かけた際には、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

 

 

パティスリーマルヤ

〒959-3124 新潟県村上市金屋2250

TEL 0254-62-2117

営業時間 8:00-19:00 元日のみ休

遠山浩司


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