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心と体もリセットできる和食料理店「秋葉 酒菜 定四郎」。

新津駅近くにある和食料理店「秋葉 酒菜 定四郎(さだしろう)」。お店に入ってすぐ目に留まるのは、カウンターの目の前にある大きな調理台です。このお店、席によってはご主人の包丁さばきに焼き場の様子、冷蔵庫の中まですべて見えてしまうつくりになっています。今回は店主の栗林さんに店構えの秘密や料理人になってからのことなど、いろいろとお話を聞いてきました。

 

秋葉 酒菜 定四郎

栗林 哲郎 Testuro Kuribayashi

1973年秋葉区生まれ。東京の調理専門学校を卒業後、和食料理人として都内で5年ほど働く。新潟に戻り、20代後半から岩室温泉「富士屋」に1年間、系列宿の「著莪の里 ゆめや」に9年間勤める。2014年に「秋葉 酒菜 定四郎」をオープン。

 

嫌で嫌で仕方がなかった料理の世界に、おもしろさを感じる。

——まずは、栗林さんがお店を構えるまでのことを教えてください。

栗林さん:東京の専門学校を卒業して、都内で5年ほど働いてから新潟に帰ってきました。夢敗れて地元に戻ってきたようなものです。「自分はこの世界に向いていないのかな……」なんて思っていました。しばらく地元で、父親の仲間がやっている寿司屋などで働いたりしたんですが、どこの店でも長続きしませんでした。早い話、根性がなかったんですね。

 

——でも、これまでずっと和食の料理人としてやってこられたんですよね。

栗林さん:若い頃は料理人の仕事が嫌で嫌で仕方ありませんでした。でも、20代後半で岩室温泉の「富士屋」に勤めて、1年後くらいに系列宿の「ゆめや」で働きはじめたら、カチッとスイッチが入ったんです。忙しいし、厳しい店でしたけど見えてくることがたくさんあって。「これはやるしかない」「半端に辞めたくない」って思いがどんどん芽生えてきたんですよね。勉強になることが多くて、いつの間にか仕事におもしろさを感じるようになりました。

 

 

——転機が訪れたんですね。

栗林さん:職場の仲間や業者さんとの人間関係に恵まれたり、お客さまと仲良くなったり、だんだん思いもしないような環境になっていって、おもしろみがどんどん広がっていきました。「ゆめや」には9年間お世話になって、そこで過ごした時間は私にとっていちばん大きな財産になりました。

 

——「ゆめや」さんのどんなところに惹かれたんですか?

栗林さん:「ゆめや」の正直なところが好きでした。嘘やごまかしが一切なかったんです。海が荒れて予定通りの仕入れができないときは「こういう状況のため、今日のお料理はこうです」とお客さまにちゃんと伝えたり。

 

——どんな食材が入るかなんて、その日にならないと分からないですもんね。

栗林さん:別のあるお店で働いていたときは、食品偽装と言われてもおかしくない状況に出くわしたこともあったんです。「これはよくない。なんとかしましょう」と上司に申し出たんですけど、経営的な判断なのか「改善は難しい」と言われてしまいました。それがどうしても納得できなくて。「良いも悪いも自分で判断しよう」と思って、9年前に「定四郎」をはじめたんです。

 

お客さまとの距離が近い店構え。タイムリーなお料理とサービスを。

——もしかして、それが「定四郎」さんのこのスタイルにもつながっているのですか?

栗林さん:うちはカウンターのすぐ前に調理場がある店構えです。席によっては冷蔵庫の中、魚を焼く様子、調理過程が丸見えで仕事ぶりを隠すことができません。だから「嘘をつくことができない店」なんです。それが長所でもあり、短所でもあり。妻とふたりでやっているから、夫婦喧嘩しているのがあからさまにバレちゃうこともあるわけです(笑)

 

——なるほど(笑)

栗林さん:私、どこかで食事するなら調理場がよく見えるお店に行きたいんです。嘘やごまかしをするお店には絶対に行きたくないし、思い通りの仕入れができなかったら、それを正直に話して欲しいんです。そんなふうに思っているから、覚悟を決めてこの店構えでやっているつもりです。

 

 

——お料理についても教えてください。旬のもの、いいものを使うのはもちろんだと思いますが、他に「定四郎」さんらしいこだわりはありますか?

栗林さん:タイムリーなお料理、タイムリーなサービスってあると思うんですよね。例えば、たくあんひとつにしても若い人にはある程度厚く切って歯ごたえのあるものがいいでしょうし、ご年配であれば薄く切るのか、刻むのがいいと思うんです。焼き物だって脂のノリ具合に好みがあるでしょうし。そのへんはできる限り調整しています。それと「今日は結婚記念日だね」なんて会話が聞こえてきたら、お刺身を鶴の器に盛りつける、ただの言葉でしかないかもしれませんが、お祝いを伝える。そんなこともしています。

 

——栗林さんからもお客さんがよく見えるから、そういった対応ができるんですね。

栗林さん:この店構えだからタイムリーな仕事ができるんです。いつも目論見通りにいくわけではないんですけどね。質の高いサービスを提供できる「確率を高める」って感じでしょうか。それにこの距離なのに、私が何も反応しないのは不自然じゃないですか(笑)

 

——日本酒もいろいろ揃えていらっしゃるそうですね。

栗林さん:10席そこそこのお店にしては日本酒の品揃えは充実していると思います。私が飲みたいお酒をいろいろと仕入れていたらこうなっちゃった(笑)。3年ほど前から日本酒と料理のペアリングもしています。3年前は「ペアリング」という言葉自体があまり広がっていませんでしたが、最近は理解してくださるお客さまが増えてきましたね。飲む順番とか「この料理にはこのお酒」とか、おすすめの日本酒をお伝えしています。

 

快調となる料理を届ける。体も心もリセットできる店でありたい。

——ホームページなどで「美しいことは正しいこと」というメッセージを伝えられていますよね。その言葉にはどんな思いが?

栗林さん:お花や景色、お料理などいろいろな「美しい」があると思うんです。生活の中でも美しいことがあれば、あんまり美しくないこともありますよね。運転中に道を譲るかどうか、譲られたらニコッと会釈するかどうか、みたいな。些細なことかもしれないけど、美しいことの積み重ねが自分自身の幸せにつながるし、世の中が良い方向に進むのは間違いないと思っていて。そんな思いから「美しいことは正しいこと」という信念を持っています。

 

——もうひとつ、「料理を通じて心身共にリセットする」という言葉も掲げられていますよね。

栗林さん:「料理は翌日のお通じまで」と思っているので、量的な配慮やバランスをすごく意識しています。ランクの高い和牛にはお野菜も合わせる、みたいなことですね。食後に「胃が重たい」とか、「喉が乾いた」なんてことがないようにしたくて。食事にプラスして和食屋の雰囲気とか器やグラスも楽しんでもらって、お客さまには体と心をリセットしてもらいたいと思っています。

 

 

 

秋葉 酒菜 定四郎

新潟市秋葉区新津本町2-1-5

TEL:0250-47-7755

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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