上質で温かみのある「三方舎」の絨毯は、家族の生活を記憶する。
ものづくり
2019.12.16
イランのギャッベに出会って感じた絨毯の魅力。
畳からフローリングへと大きく変わった日本住宅の生活様式。そんな中、日本では今まであまり注目されていなかった絨毯が、だんだん注目されるようになってきたそうです。そんな絨毯に魅せられ、上質なものづくりにこだわる「三方舎(さんぽうしゃ)」。代表の今井さんに絨毯やものづくりに対しての思いを聞いてきました。

株式会社 三方舎
今井 正人 Masato Imai
1969年新潟市秋葉区生まれ。「株式会社 三方舎(さんぽうしゃ)」代表。1996年に家業である「イマイの家具」を兄と共に継ぎ、1998年「ボー・デコール」をオープン。イランの絨毯ギャッベに出会い全国に広める。2011年に「三方舎」を創業し「GOSHIMA(ごしま)絨毯」ブランドをプロデュースしている。
イランの遊牧民が織る人間味のあるギャッベとの出会い。
——今日はよろしくお願いします。今井さんはいつ頃から絨毯と関わっているんですか?
今井さん:私の家はここ新潟市秋葉区で、じいちゃんの代から「イマイの家具」っていう家具店をやってたんです。当時は婚礼家具や子どもの学習机なんかをメインに扱っているお店でした。バブル経済崩壊後の平成元年に、商店街で小さな店をやっていてもダメだということで、多額の借金をして郊外へ移転したんです。でも、世の中の生活様式が変わって作り付け家具なんかも増えたりして、家具業界がどんどん厳しくなってきたんです。
——今井さんはその頃まだ「イマイの家具」にはいなかったんですか?
今井さん:はい。最初は他の家具店に勤めていた兄が呼び戻され、「イマイの家具」を引き継ぐことになったんです。その後、兄から私が呼ばれて平成8年から一緒に「イマイの家具」をやっていくことになりました。私は以前から店の手伝いをしていたので、お店の勝手も知ってたし、スタッフとも顔見知りだったんですよ。兄が家具、私がカーテンなどの布物を担当してました。その後、平成10年にカーテンショップとして「ボー・デコール」をオープンしたんです。
——カーテンショップをオープンしたのはどうしてなんですか?
今井さん:私はもともとカーテンや絨毯なんかの布物が好きだったんですよ。その頃「おもしろい絨毯がある」っていうことでギャッベを知りました。ギャッベというのはイランの遊牧民族が、羊毛を草木染めし手織りで作り出した絨毯なんです。一目見て虜になってしまいましたね。
——なぜギャッベの虜になったんですか?
今井さん:それまで私が扱ってきた絨毯って、きちんと作られている機械織りの製品だったんですよ。ギャッベは手織りだから左右非対称だったりして、手作り感や人間味を感じ取ることができたんですよね。透明感のある草木染めも美しいと思いました。ぜひ自分で売りたいと思ったんですが、周囲からは日本では売れないだろうと反対されましたね。
——それでも押し切ってギャッベを売ることにしたんですか?
今井さん:私にはギャッベが売れるという確信がありましたからね。どうしても現地に行って自分の目で見てから選びたいと思い、イランまで行ったんです。私にとって初めての海外旅行で、初めての飛行機でした(笑)。
——すごい意気込みだったんですね。ギャッベは売れたんでしょうか?
今井さん:イランから帰国して、全国の家具屋さんに声をかけて一緒にギャッベを売ってもらうことになりました。そしたら、現代の生活様式の主流になっているフローリングに合った絨毯ということもあって、全国的なギャッベブームになったんですよ。おかげさまで「ボー・デコール」の業績も立て直すことができたんです。

近江商人の哲学「三方良し」に共鳴した商売。
——「三方舎」はいつ頃から始めたんですか?
今井さん:借金も無くなって業績も安定してきたので「ボー・デコール」は兄にまかせて、自分がやってみたかったことに挑戦することにしたんです。それで平成23年に「三方舎」を立ち上げました。
——「三方舎」っていうのは珍しい名前ですよね?
今井さん:近江国(おうみのくに)、つまり現在の滋賀県の商人は「近江商人」と呼ばれ、道徳や規律を重んじ、理念を大切に商売をやっていたんです。その近江商人の哲学に「三方良し」という言葉がありました。売り手良し、買い手良し、世間良しの三方が良いという意味です。商人だけが得をするんじゃなくて、お客さんや社会にも貢献できる商売を心がけるという哲学なんです。「三方舎」もその哲学に共鳴し、関わる人全てが幸せになる商売を目指しています。
——「三方舎」で挑戦している、やりたかったことって何ですか?
今井さん:「GOSHIMA」という絨毯ブランドを展開しています。ひとことで言えば「世界に誇れる上質なものづくり」がコンセプトになっているブランドなんです。モロッコで現地パートナーを作り、オリジナルのコンセプトやデザインを元にして絨毯を手作りしています。モロッコは絨毯に関しては後進国なんです。でも、そんな絨毯後進国で作った絨毯を世界に通用するブランドに育て上げていくことに意義を感じてやっています。現在はモロッコ、ネパール、トルコとプロジェクトを組んでます。

「GOSHIMA」絨毯の魅力は時間をかけるオーダーメイド。
——「GOSHIMA」の魅力はどんなところにありますか?
今井さん:きめ細かでふかふかした肌触りと厚みが魅力です。ギャッベの上のランクを目指していて、そんな製品を絨毯後進国で作ってみたいと思ってます。そのために厳選した素材を使い、現地の手工芸の美しさを生かして作っています。あと、一番の魅力はオーダーメイドってことですね。
——お客さんに合わせた絨毯が作れるということでしょうか?
今井さん:それももちろんあります。でも、もっと深いところがあるんですよ。「GOSHIMA」絨毯は、オーダーいただいてからお渡しするまでに4ヶ月〜半年くらい製作時間がかかるんです。その製作時間を待つことで、絨毯を作っている作り手と同じ時間を共有していただき、手に入れた時の喜びを感じてほしいんですよね。オーダーメイドはお客さんの感性や思いを込めて作るものですから、選んで買うものより思い入れも強くなります。そうした思い入れのあるものを長く大切に使ってほしいんです。
——そんな思いで作っている「GOSHIMA」の絨毯にはいくつか種類があるんですか?
今井さん:はい。まず「Royal(ロイヤル)」というシリーズがあります。モロッコの伝統的な「ゼリージュ」っていう文様をあしらった上質な絨毯です。この文様の細かさや糸の細さから、この絨毯を織ることができる織り子さんは限られているんですよ。「Almond(アーモンド)」というシリーズはベースになっているデザインをカスタマイズすることで、自分だけのデザインを作ることができます。例えば、飛んいる鳥の数を家族の人数に変えたり、花びらの色を変えたりして、絨毯に意味を持たせることができるんです。「百花万華(ひゃっかばんか)」シリーズは日本の美を表現した絨毯です。余白の持つ美しさを意識したデザインになっていて、日本人の感性にマッチしやすいものになってます。花文様はシルクで表現しているので光の加減でいろんな表情を見ることができます。

絨毯を1枚敷くだけで家族の集う場所ができる。
——今井さんにとって、絨毯の魅力ってどんなところにありますか?
今井さん:絨毯っていうのは織物ですから、本来人間の手で紡ぎ上げていく製品ですよね。そんなところに人の温かみを感じさせてくれます。あと、絨毯って家族の居場所を作ってくれるんですよ。
——家族の居場所を作るって、どういうことですか?
今井さん:何もない部屋に絨毯を1枚敷くだけで、人が集まって安らげる場所を作り出すんです。そこに暖かな火が燃えている薪ストーブでもあれば最高ですね。言い換えると、絨毯って家の中で最も大切な場所に使うものなんじゃないでしょうか。家族の記録を残してくれるものでもあると思いますね。
——絨毯が家族の記録を…。
今井さん:記録というより記憶かな。絨毯って使い続けると、食べこぼしとかでシミができますよね。普通だったらただの汚れに見えるんですけど、天然素材を使った手織り絨毯ではそれが味わいになってくるんです。それは汚れではなく、家族が暮らしてきた記憶といってもいいんじゃないでしょうか。
——なるほど。絨毯に生活の歴史が刻まれるっていうことでしょうか。
今井さん:そうですね。あと、生まれ育った家を離れて生活している子どもが、帰省した時に実家の絨毯を踏むことで生活してきた記憶が蘇り、帰ってきたことを実感することもあるんです。絨毯って、それだけ長くいる場所に使うものなんだから、特にこだわってもらいたいんですよ。だからオーダーメイドで手間をかけて手に入れて、大切に使ってほしいんです。

生活を記憶する家具や家を作っていきたい。
——今後やってみたいことってありますか?
今井さん:絨毯が家族の生活を記憶するものという話をしましたよね。今後は他の家具も、そういうコンセプトで作っていきたいんです。生活の記憶を記していく家具という意味で「Shirushi(しるし)プロジェクト」と名付けました。いろいろな作り手と一緒に、豊かな生活を送るための家具を作っていきたいですね。あと、そんな道具を使った家づくりも計画しています。
——え?家まで作っちゃうんですか?
今井さん:「Shirushiの家」といって、家族の記憶を紡げる家具を使った家を提案したいんです。そういう思いを共有できる設計士、プロデューサー、工務店と一緒に進めているプロジェクトで、来年の8月頃にはモデルハウスを建てる予定です。

お客さんのことだけではなく、作り手のことや製品のことまで大切に考えたプロジェクトを進めている「三方舎」。その精神はまさに近江商人が大事にしてきた「三方良し」の理念にかなったもの。今井さんのお話を聞いて、ただの敷物と思っていた絨毯に対する見方が大きく変わりました。みなさんも家族の集まる生活の中心として、絨毯のことを見直してみてはいかがでしょうか?
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