10年ほど前、職場に自分の好きな席で働く「フリーアドレス」が導入されて、とても驚いた記憶があります。働き方が多様化している現在ではさらに選択肢が増え、職場以外でも仕事ができる環境が整ってきています。今回ご紹介するコワーキングスペース「しごと場 灯台」は、2019年に沼垂テラス商店街の新たな役割を担う場所としてスタートしました。担当の新澤さんに「灯台」がスタートした頃のことや沼垂の魅力など、いろいろとお話を聞いてきました。
灯台
新澤 明美 Akemi Shinzawa
1990年新発田市生まれ。新潟市の専門学校を卒業後、ホームセンターなどで働く。2013年に沼垂に転居し、2014年より「しごと場 灯台」を管理運営する「株式会社テラスオフィス」に入社。
——まずは「しごと場 灯台」について教えてください。
新澤さん:2019年にオープンした、キッチンスペースや個室もあるコワーキングスペースです。都心のコワーキングスペースって、フロア内にドリンクサーバーがあったり、カフェが入っていたりすることが多いですよね。でも「灯台」の場合は、商店街全体を「ひとつの仕事場」のように捉えてもらいたいと考えているんです。
——「商店街全体が仕事場」というのは?
新澤さん:ちょっと休憩がしたくなったら近くのカフェに行ったり、気分転換に本屋に立ち寄ってみたり。銭湯でリフレッシュすることも、大衆割烹で得意先と商談をすることも、ぜんぶ沼垂テラス商店街でしていただけるんです。そんなふうに「沼垂全体が仕事場になる」というのが「灯台」のコンセプトなんです。
——なんだか「灯台」が商店街の新たな役割を担っているみたい。
新澤さん:以前からここは「人が集まる場所」だったんですよ。市場だった頃は組合の人が会合を行う場所でしたし、その後は沼垂の有志団体が集会場として使っていました。そういう経緯があったので、「この場所を新しくしよう」となったときにも「人が集まる場所」というのが大前提としてあったんです。
——コワーキングスペースとなった今は、どんな方の利用が多いんですか?
新澤さん:社内ミーティングに使われたり、沼垂にあるゲストハウスを利用される方がここで仕事をされたりすることもあります。あとはハンドメイド作家さんも来られます。テーブルがけっこう大きいので、作業をするのにちょうどいいみたいですね。
——シックな内装がとても落ち着きますね。
新澤さん:この建物は私の前任の担当者がものすごくこだわって作ったんです。商店街内の長屋ではここが唯一、2階がある建物なんです。「ここだけ建物が新しくなったら浮いちゃうんじゃないか」という心配があったのでDIYもしたんですよ。沼垂テラス商店街は「古くて新しい沼垂」がコンセプトなので、もともとのレトロな感じをすごく大切にしているんですね。そこで、外壁に使われていたトタンの赤錆を酢に漬けて水溶液を作って、新品の板材1枚1枚に手作りの水溶液を塗る作業をしました。
——前任の担当者さん、すごいこだわりようですね。
新澤さん:オープン前の「冬市」というイベントでは、外壁塗りのワークショップを行って、来場者の皆さんに板の裏側にメッセージを書いてもらったんです。何十年か経って、またこの建物を改装するってなったとき、外壁を剥がしてメッセージが出てきたら面白いよね、って。そうした試みをしてできたのが、この建物なんです。
——オープンは2019年でしたよね。その後コロナ禍になって、さらに需要が増えたのでは?
新澤さん:新潟でもリモートワークを推奨している会社さんがあったので、昨年は利用者数が多かったですね。利用者さんの中には、コロナ禍でなかったらこの場所を知らずにいた方もいると思うので、そういう点ではプラスの面があったと思っています。
——「灯台」はコロナ禍と関係なくスタートしたわけですもんね。
新澤さん:カフェなどで一席空けて使うよりは快適に仕事や作業をしていただける場所だと思いますよ。それほど席数も多くないですし、テーブル同士の間隔が空いているので、ゆったり使っていただけるんです。それにここってめちゃくちゃ静かなんですよ。人の声も車の走行音もそんなに聞こえないから、すごく集中できるんです。
——これまでの利用者さんで、印象に残っている方はいますか?
新澤さん:貸切でも利用していただけるので、ワークショップなどを開催される方もいるんですね。以前、英語の紙芝居を使ったワークショップをされた方がいて、その方が、その後YouTubeチャンネルを開設して、コンスタントに「灯台」に撮影に来てくれるんです。「この前、海外ともつないでイベントをやったんだよ」と聞いて、「『灯台』が世界に発信されている」って興奮しちゃいました。
——沼垂から世界へ配信されたんですね。
新澤さん:それから、以前個室契約をされていた会社さんが、「スタッフが増えて手狭になったので」と商店街のサテライト店舗(沼垂テラス商店街から歩いてすぐのところにある、空き家を活用したオフィス)に移転されて、大きなオフィスを沼垂に構えられたんです。「灯台」を卒業されて、どんどん活躍されていく姿が頼もしいなぁ、って嬉しくなりました。
——そういう方って「灯台」も好きだし、そもそも沼垂に魅力を感じているんでしょうね。
新澤さん:きっと沼垂の雰囲気が好きな人が集まるんでしょうね。「今度来たときは、ランチはここへ行きたい」「この前は行きたいお店に行けなかったから、今日は予約しました」なんて声を聞くこともありますよ。
——沼垂にはたくさん素敵なお店がありますもんね。
新澤さん:最近、新潟市の魅力をPRする動画で、行政の方が「灯台」の様子を撮影しに来られたんです。行政が「新潟市の暮らしのワンシーン」として「灯台」を取り上げてくれたことが誇らしかったですね。「灯台」のある沼垂が新潟市を代表するスポットみたいで。
——ところで、新澤さんはどんなきっかけで沼垂に来たんですか?
新澤さん:最初はたまたま沼垂に引っ越して来たんです。沼垂を選んだ理由は、新潟駅からそんなに離れていないし、車でもアクセスしやすい、家賃が抑えられて静か、万代までも遠くない、という理由からでした。あと東区の工場の煙突を眺められることもポイントでしたね(笑)
——いろいろな利点があったんですね。
新澤さん:ただ私が引っ越して来た頃って、商店街には「Ruruck Kitchen」と「青人窯」とあと数件お店があるくらいでした。街灯は少ないし、シャッターが閉まっているお店もあって、ちょっと寂しい感じだったんですよ。「夜は商店街をひとりで通りたくない」って思っていました。
——今の沼垂の姿からは想像できないですね……。
新澤さん:私は2014年から「灯台」の運営と商店街の店舗を管理する「テラスオフィス」という会社で働いているんですけど、「あれよあれよ」という間に沼垂がどんどん変わっていって、2015年に「沼垂テラス商店街」が発足したんです。こんな素敵なまちになるなんてびっくりですよ。毎月1店舗ずつくらい新しいお店が増えていって、その度に沼垂の注目度が高まっていく感じで、すごくワクワクしましたね。
——新澤さんは、沼垂のどんなところが好きですか?
新澤さん:この地域の皆さんって、沼垂の外から来た人にも優しいんですよね。おじいちゃん、おばあちゃんが私を孫みたいに扱ってくれて、すぐに沼垂に馴染めました。商店街に遊びに来てくださる方にも、地元の人がすぐに話しかけちゃうんですよ。そういうところに沼垂の人情深さを感じるっていうか、すごく安心できるんですよね。
——最後に、これから「灯台」をどんな場所にしたいか教えてください。
新澤さん:コロナウイルスも落ち着いてきていると思うので、これからは県外の方にも来ていただきたいと思っています。新潟に滞在するときには、「灯台」でも時間を過ごして沼垂のまちも楽しんで欲しいですね。
しごと場 灯台
新潟市中央区沼垂東3-5-21
TEL 025-384-4010
営業時間 9:30〜18:30
定休日:日曜日