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村上のソウルフード「あん生パン」を家族でつないできた「島田パン」。

村上市を代表するグルメといえば村上牛や鮭料理が思い浮かびますが、地元で長年愛され続けてきたソウルフードというと、「島田パン」が製造販売している「あん生パン」ではないでしょうか。あんこと生クリームの絶妙なバランスで人気のパンですが、実は生クリームの状態にこだわった涼しい期間だけの限定商品なんです。今シーズンの販売がいよいよスタートしたタイミングで、「あん生パン」とオーナーの菊池さんに会うため村上へ向かいました。

 

 

島田パン

菊池 成子 Seiko Kikuchi

1983年村上市生まれ。東京の大学を卒業し、新潟に戻って福祉関係の仕事に携わった後、2017年から夫と共に「島田パン」を受け継ぐ。最近は中学生の子どもと一緒にソフトテニスを楽しんでいる。

 

「島田パン」の看板商品「あん生パン」。

——「島田パン」はいつ頃から続いているんですか?

菊池さん:戦後間もなくの昭和22年に、それまで海産物を商っていた祖父が、どこで技術を身につけたのか和菓子店として店を開いて再出発したそうです。いつからか、あんパンをはじめとした、クリームパン、ジャムパンもつくって売るようになり、昭和39年には学校へ給食のパンを卸すようになったんです。

 

——その和菓子店をお父さんが継いだんですね。

菊池さん:そうなんですけど、親への反発もあったのか、父は和菓子ではなく洋菓子の道に進んだんですよ。だから祖父と父がやっているときは、パンの他に和菓子や洋菓子……なんでも売っている店でしたね。平成8年に父が他界してからは母が店を継いで、「あん生パン」をつなげるために1日2,500個もパンを製造してしゃにむに働いていました。その母も平成29年に亡くなったので、今度は夫と私が店を継いだんです。

 

 

——家族でつないできた「あん生パン」は、そもそもどんないきさつで生まれたんですか?

菊池さん:看板商品になるパンを模索していた父が、業者さんに相談したんです。当時の新潟市ではアンパンに生クリームを入れたものが流行っていると聞いて、ひと工夫した生地を使った「あん生パン」が誕生しました。父がこだわったのは、ひとつ食べた後にもうひとつ食べたくなるようなパンだったそうです。

 

——その「あん生パン」が、村上のソウルフードになったのはどうしてなんでしょう?

菊池さん:ありがたいことに、クチコミで広がっていったんです。今まで続けてこられたのは、材料も製法も昔のまま変えずにやってきたからだと思っています。

 

——「あん生パン」が夏場に食べられないのは寂しいですけど、何か事情があるんですか?

菊池さん:暖かくなると生クリームが溶けちゃうんですよ。だから、「あん生パン」は10月下旬から5月頭くらいまでの限定商品で、夏場はそれ以外の菓子パンを販売しています。「あん生パン」以外の商品だと「メロンパン」が人気で、小さいお子様には自家製バタークリーム入りの「キリンパン」が喜ばれています。

 

——以前は青りんごジャムが入った「イタリアパン」もありましたよね(笑)

菊池さん:残念ながら今はつくっていないんです。あれはパンの大きさに合う袋がなかなかなくて、やっと見つけた袋に「イタリアパン」という商品名がプリントされていたので、そのまま「イタリアパン」という商品名で覚えている方もいらっしゃいます(笑)

 

——そういうことだったんですか! どこがイタリアなのかわからなかったんですけど、ようやく長い間の謎が解けました(笑)。ところで、冬場は「あん生パン」しか販売していないんですか?

菊池さん:マロンクリームと生クリームの「マロン生」と、枝豆でつくったあんこと生クリームを使った「ずん生パン」も販売していますし、毎週木曜には食パンもつくっています。

 

「あん生パン」を守り続ける苦労。

——お店を受け継ぐ前の菊池さんは、どんなお仕事をされていたんですか?

菊池さん:東京の大学で福祉学を学んでから、新潟に戻って福祉関係の仕事に就いて、最後は障がい者就労支援施設で働いていました。ちなみに夫も福祉関係の仕事に携わっていたんです。

 

——福祉関係の仕事をしていた菊池さんご夫妻が、「島田パン」を受け継ごうと思ったのはどうしてなんでしょう?

菊池さん:早くして亡くなった両親の志を継ぐことで、ふたりが生きた証として「島田パン」と「あん生パン」を残したかったのかもしれませんね……。母は自分の代で終わりにするつもりだったようでしたけど、私たちがパン屋を受け継ぐんだったら協力してほしいとスタッフにお願いしていたようです。

 

——では、スタッフさんからパンづくりを学ばれたんですね。

菊池さん:そうなんです。ただ、昔ながらのやり方でつくっているので、覚えるのが大変でしたね。温度や湿度を管理するんですが、機械管理ではないのですべて感覚で覚えるしかないんですよ(笑)。でも覚えなければ生活していけないので、とりあえずやってみて失敗しながら覚えました。頼りになるスタッフの協力にも助けられましたね。

 

 

——受け継ぐ上で不安もあったでしょうね。

菊池さん:今までと変わらないパンを提供できるのか不安でした。母が父の後を受け継いだときにも「変わった」と言われていましたからね。その母から受け継ぐ際に「今までのパンとは変わったと言われると思うけど、気にしないで頑張りなさい」と言われて、覚悟はしていました。

 

——やっぱり「変わった」と言われました?

菊池さん:言われました(笑)。でも傷ついたり腹が立ったりするわけではなくて、「まあ、そうだよね」と受け止め、その言葉をヒントにしながら、どこを改良したらいいのか前向きに取り組むことができましたね。むしろ「変わった」と言ってくれるお客様は、お店のことを考えてくれていると思うので感謝しているんです。

 

——今では「変わった」と言われなくなったんでしょうか?

菊池さん:おかげさまで「美味しくなった」「以前の味に近づいてきた」と言われるようになったので、スタッフと一緒に喜んでいます。そうした声が聞かれるようになったのも、一緒に取り組んでくれたスタッフのおかげだと思って感謝しているんです。

 

子ども達が「ただいま」と言いながら寄ってくれる店。

——歴史のわりに新しい店舗ですよね。

菊池さん:築50年の建物で老朽化していたので、食べものを扱う商売をする上で良くないと思って8年前に改築しました。

 

 

——そうだったんですね。どんなお店にしようと心掛けていますか?

菊池さん:小さな子どもからお年寄りまで誰もが入りやすいような、温かい雰囲気の店を目指しています。びっしりとパンが並んでいるわけではないので、1個でも気軽に買いやすいんじゃないでしょうか(笑)

 

——「ベーカリー」というよりは「地元の商店」みたいな雰囲気ですね。

菊池さん:子ども達が学校帰りに「ただいま」と言いながら寄ってくれて、大人になってから懐かしく思い出してもらえるような店でありたいですね。地域の方々から必要とされて、支えていただきながら続けていけたら嬉しいです。

 

 

 

島田パン

村上市岩船下浜町1-3

0254-56-7550

11:00-18:00

10月下旬〜5月2日 水日曜休/5月中旬〜10月中旬 月水金日曜休 ※臨時休業あり

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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