僕らの工場。#46 「下村工業」の
「企画営業」は縁の下の力持ち。
僕らの工場。
2025.11.22
三条市にあるキッチンツールのメーカー「下村工業」。こちらでは、毎日の料理が楽になる便利なグッズが日々つくられています。「ものづくり」といえば、職人さんの技術がクローズアップされることが多いですが、今回お話を聞いたのは、アイデアから製品をつくる「企画営業」のお仕事をされている諸橋さん。企画営業の面白さについて、いろいろとお話を聞いてきました。
諸橋 涼
Ryo Morohashi(下村工業)
2000年生まれ長岡市出身。高校卒業後はホームセンターで働く。その後「下村工業」に転職し、現在2年目。最近はドジャースの試合観戦に熱中している。
調理が楽しくなる、ものづくり。
「下村工業」のアイデア製品たち。
――まず、「下村工業」について教えてください。
諸橋さん:「下村工業」は刃物を中心とした、キッチンツールをつくっているメーカーです。創業は1874年なので、100年以上の歴史があります。創業当時は農作業に使う鎌をつくるところからはじまったみたいで、そこから包丁やおろし器など、キッチンツールをつくるようになったんです。
――とても歴史ある会社さんなんですね。こちらには自社の工場もあります。
諸橋さん:1950年代から、自社工場で刃物の製造・加工をはじめました。工場内には刃物の品質を細かくチェックする機械も多くあります。中には自社で開発した機械もあって、切れ味はもちろん、耐久性や使いやすさなど、品質にはとてもこだわっているんです。
――数多くのアイデア製品が生み出されているようですね。
諸橋さん:毎月、1,200種類ほどの製品を全国各地に出荷しています。工場の技術を活かした「プログレード」シリーズと、調理のひと手間が簡単になる「フルベジ」シリーズがうちの代表的なシリーズなんです。特に「フルベジ」シリーズには、料理しているときの「こんなのがあったらいいな」をかたちにした、アイデア製品がたくさんあるんですよ。
――「とうもろこしピーラー」や「小ねぎハサミ」……かゆいところに手が届くようなアイテムですね。
諸橋さん:「小ねぎハサミ」は、社員が料理をしているときに、小ねぎを切るときに飛び散るのが嫌だと思ったのがきっかけだそうです。まな板を使わず、お皿の上で切れるように専用のアタッチメントも開発しました。これを使うことで、飛び散ることなく、均等な長さでネギを切ることができます。
――なんというひらめき。そんなアイデア製品を考えて、世に送り出すのが、諸橋さんがされている「企画営業」のお仕事です。
諸橋さん:「企画営業」は、製品の開発から、納期までのスケジュール管理や進行を行っています。お客さまや社員の声を、そのまま製品の開発につなげることができるのが、この仕事の特徴だと思っています。


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入社2年目の諸橋さんに聞く、
「企画営業」のお仕事のこと。
――諸橋さんが「下村工業」に入社されたのは2年前だそうですね。
諸橋さん:もともとホームセンターで働いていました。そこで燕三条でつくられた、包丁やキッチンツールがたくさん並んでいる「燕三条コーナー」というものがあったんです。その中には「下村工業」の製品もたくさんあって。アイデア製品をたくさん出している面白い会社だな、と興味を持ったのがきっかけです。
――販売する現場目線で、アイデアの面白さに惹かれたんですね。
諸橋さん:先ほど出てきた「小ねぎハサミ」もそうですが、調理をするときの、ちょっとした手間を省いてくれるピンポイントの製品がたくさんあって、「この会社だったら、無限にアイデアが出せるんじゃないかな」と思って働きはじめました。
――諸橋さんが、実際に担当した製品がこの秋発売されたと聞きました。
諸橋さん:「Verdun(ヴェルダン)」 包丁をオールステンレスでつくるシリーズの新製品を担当しました。お客さまからのお声をいただいて、開発がスタートしました。
――諸橋さんにとってはじめての経験も多かったと思います。特に大変だったことはありますか?
諸橋さん:たくさんあります……(笑)、 いちばんは価格設定とロゴの制作ですね。どちらも経験がなかったですし、マニュアルがあったわけではなかったので、先輩に聞きながら進めていきました。どれも経験したことのないことばかりで、先輩に質問するときも「どこをどう聞けばいいんだろう」とか、「今聞いても大丈夫かな」って、不安になっていたこともありました。

――その気持ち、とても良くわかります。「これって、聞いてもいいのかな」って不安になったりしますよね。
諸橋さん:製品開発の仕事は、営業だけではなく、製造現場ともやりとりが多くて。サンプルをつくるにしても、現場に依頼する必要がありました。このときも、最初は聞きづらさを感じていたんですけど、「聞かないと自分だけじゃなく、現場も困る」と思って、そこからはためらわず、気になったことは聞くようにしています。
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お客さんの声からできた、新製品。
開発の裏話を、聞いてみました。
――そうして「Verdun」シリーズの新しい包丁ができました。
諸橋さん:今回の製品のいちばんの特徴は、ダマスカスの包丁にしたということです。お客さまのご希望にあうような価格帯には、どんな包丁がいいか、市場調査をして製品のかたちを提案しました。 このダマスカスの模様を出すのも、かなり大変でした。現場の方に何度もサンプルをつくってもらって。33層の模様をつくることができたんです。
――ずっと見ていられるくらい、きれいでかっこいいです。この包丁には、他にはどんな特徴が?
諸橋さん:「Verdun」シリーズは全体を通して、オールステンレスでつくられているので、食洗機でも洗えます。持ち手の部分の握りやすさや重さなんかも、毎日使いやすいように調整しているんです。個人的には、道具は使う人の気持ちを動かすものだと思っているので、見た目にもこだわりました。
――諸橋さんがつくったロゴも入っています。
諸橋さん:本当に未経験からはじめたので、すごく難しい仕事でした。製品を見ると、ロゴって小さなものに感じるかもしれないんですが、製品の命にもなるような、とても大事な部分なんです。先輩方に教えていただきながら、自分の中で「こうしたらいいんじゃないか」っていう意志を持って進めることができたと思います。
――細かいところまでこだわった包丁が完成して、いよいよ販売。
諸橋さん:製品ができあがって、お客さまのもとへ納品したり、実際に製品が店頭に並んでいるのを見たとき、すごく達成感を感じましたね。つくっている途中は、包丁が夢に出てきたりしたこともあったので(笑)。振り返れば大変なこともたくさんありましたが、「頑張ってよかった」って本当に思います。


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コミュニケーションを大切に。
人気シリーズに続く製品を。
――諸橋さんが「企画営業」というお仕事の中で、大切にしていることを教えてください。
諸橋さん:製品を販売する方から「売りたい」と思ってもらえるように、共感してもらえるように、製品の魅力を伝えることは意識しています。お客さまとのコミュニケーションは、以前、ホームセンターで働いていた経験が活いてきているな、って感じますね。
――先輩いわく、「諸橋が歩けば、案件が生まれる」とのことですが……。
諸橋さん:そう言っていただけて、とても嬉しいです(笑)。今は僕が関わっている製品はOEMがメインなので、今後は「下村工業」の自社製品もつくっていきたいと思っています。いつか、「フルベジ」や「プログレード」と並ぶような、ヒット製品を生み出せるように、これからも頑張っていこうと思います。
――最後に、「下村工業」のこれからを教えてください。
諸橋さん:今あるシリーズの製品をもっと拡大させていこうと思っています。いろんなアイデアから新しい製品をつくっていくのはもちろん、既存の製品の切れ味や切った食材の食感など、より品質のいい製品をつくることにも力を入れていきたいですね。

Verdun ダマスカス包丁 三徳

「毎日の料理を楽しくする」をコンセプトに「使いやすさ」と「切れ味」を追求した『Verdun』シリーズ。33層にもなるダマスカス模様は、切れ味はもちろん、洗練されたビジュアルを実現。食洗機で洗うこともできるので、毎日のお手入れも簡単にできます。
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