Things

「てるてる坊主」を現代アートにしちゃったアーティスト「今井翔太」。

運動会や遠足など楽しみなイベントの前に「てるてる坊主」を作って軒先に吊るした経験って、ほとんどの人があるんじゃないでしょうか。それほど日本人にとっては身近な風習になっているてるてる坊主ですが、他の国ではほとんど見られないもののようです。今回はこの「てるてる坊主」をモチーフにしたキャラクターで作品を展開している、アーティストの今井翔太さんを訪ねました。

 

 

今井 翔太 Shota Imai

1996年長岡市生まれ。新潟大学教育学部卒業。大学在籍中より弟の駿弥(しゅんや)さんと「今井兄弟」として様々な作品を発表。2021年から、てるてる坊主をモチーフにした「Telu Telu Boy(テルテルボーイ)」を展開。現在は制作活動の傍ら、WEBデザインや音楽プロデュースにも関わっている。

 

学校の先生を目指していた若者が、現代アートに目覚める。

——今井さんは昔から絵を描くことがお好きだったんですか?

今井さん:小学生の頃は漫画家になりたかったんです。でも漫画家にこだわらず絵を描くことで人を喜ばせたいと思っていたので、ある意味、子どもの頃の夢に向かって進んでいるところなんですよ。

 

——ずっと画家を目指されてきたわけですね。

今井さん:でも中学生のときに出会った先生の影響で、中学校の先生を目指して新潟大学の教育学部に入学したんです。

 

——そうだったんですね。でも先生にはならなかったんですか?

今井さん:大学2年のときに教育実習で現場を体験してみて、先生の仕事の大変さを痛感すると同時に、子どもたちの将来に関わる教育の仕事に就く覚悟があるのか自問しました。結局、自分のなかにはそこまでの覚悟がなかったことに気づいて、先生になることを諦めたんです。

 

——それでアートの世界に?

今井さん:はい。1年間絵画の制作に没頭して、全国的な絵画展の公募に入選を果たしました。それでアーティストとしてやっていく手応えや自信を感じたんです。

 

 

——順調なスタートですね。

今井さん:でも大学の海外研修で訪ねたオランダの美術館で、レンブラントの「夜警」という作品に打ちのめされたんです。「400年前の画家がこんなにすごい作品を書いていたのか」「自分には一生かかっても描けない」と衝撃を受けて、その絵の前で30分くらい立ち尽くしました。それから2か月はまったく作品が作れなくなるほどショックだったんです。

 

——あらら……。どのようにその危機を乗り越えたんですか?

今井さん:ダミアン・ハーストっていうイギリスのアーティストの作品に触れて、現代アートに目覚めたんですよね。その作品は、ガラスケースのなかに本物の牛の頭とたくさんの蛆虫と殺虫灯を入れたもので、ハエの誕生から死までを表現したものだったんです。同じ時期に村上隆さんの「芸術起業論」という著書を読んで感銘を受けました。それらに影響を受け、過去の作品を目指しても意味がないんじゃないかと気づかされ、新しい表現に挑戦していこうと決意しました。

 

——今井さんにとっていい刺激になったんですね。

今井さん:それからはどんな作品が新しいのか、どんなコンセプトを作品として表現したらいいのかを模索するために、西洋美術の歴史を勉強することからはじめました。古いことを知らなければ新しいことは生み出せないと思ったんです。海外の作品にも広く目を向けなければと思ったので、英語の勉強もはじめました。

 

——では海外にもアートの勉強に行かれたんですか?

今井さん:大学卒業後の半年間はアイルランドで語学と美術を勉強しました。アイルランドは航空料金が安いので、イギリス、フランス、イタリアに行って、有名な美術館を見て回ることができたんです。ビートルズの聖地巡りまでしてきました(笑)

 

——えっ、どうしてビートルズ?

今井さん:中学生の頃に出会って以来、僕のルーツになっている存在なんです。ジョン・レノンの伝記を読んで、ますます尊敬の気持ちが強くなりました。ビートルズの足跡を辿ったことや大切な友達が作れたことも含めて、半年とは思えないほど濃厚な時間を過ごせたんです。帰国してすぐに新型コロナが拡大してアイルランドもロックダウンしたので、危うく帰れなくなるところでした(笑)

 

現代アートとしてのキャラクター「Telu Telu Boy」とは。

——今井さんは今までどんな作品を作ってこられたんでしょうか。

今井さん:長岡造形大学で彫刻を学んでいる弟の駿弥と「今井兄弟」というユニットを組んでいます。僕が絵画、弟が彫刻を担当して共同作品を展開していて、佐潟公園に展示した「the Stranger(ザ・ストレンジャー)」という作品は、弟が作った人物の彫刻を囲むように、僕が竹を使って水の波紋を表して制作しました。

 

 

——弟さんと制作活動をされているんですね。

今井さん:和島地域の「椿の森」にあるコンテナに良寛と貞心尼、ミニSLや椿を描いて、人々の交流拠点になっている「椿の森」を表現した「幾千の和」という作品には多くの反響がありました。その他に「二人展」や「Telu Telu Boy展」を開催してきました。

 

 

——「Telu Telu Boy」って何ですか?

今井さん:日本に古くから伝わる「てるてる坊主」をモチーフに、海外にも通用するようデザインしたキャラクターです。

 

——それで横文字の「Telu Telu Boy」なんですね。でも、どうしてキャラクターを作ろうと思われたんでしょうか。

今井さん:僕は海外のアートシーンに日本独自のキャラクター文化を持ち込めないだろうかと考えているんです。

 

——てるてる坊主をモチーフにしたのはどういう理由で?

今井さん:「椿の森」で「幾千の和」を制作したとき、屋外での作業だったので天候にとても左右されました。それから、留学したアイルランドは「雨の国」と言われるほど雨が多い国なんです。そんなことから「天気」というものに興味を持つようになって、そこで思いついたのがてるてる坊主でした。

 

——なるほど。

今井さん:てるてる坊主って日本独自の文化じゃないですか。そもそも晴れ乞いという行動自体が世界的に見ても珍しいんですよね。それを海外に紹介したいという思いはありました。今では「雨が晴れるようにコロナ禍が終わってほしい」という願いも込めています。

 

——日本の伝統文化であるてるてる坊主をモチーフにしながらも、表現は現代風でポップですよね。

今井さん:僕がやっているのは現代アートなので「現代」という時代性を作品に取り入れたいんです。だから「Telu Telu Boy」たちを運んで飛んでいるのはドローンですし、背景にもコンビニや電線、標識といった現代日本の風景を描き込んでいます。特にコンビニは「すごく便利なんだけどマニュアル通りで無機質なもの」という、現代日本を象徴するものだと思うんです。

 

不条理と、それに向き合う人間の姿を表現したい。

——作品の一貫したコンセプトって、どういうものなんですか?

今井さん:僕の作品のコンセプトは「不条理」です。アルベール・カミュの「異邦人」を読んで以来、不条理の哲学に興味を持ちました。あと僕は長岡で育ったので、中越地震、中越沖地震という2回の震災や東日本大震災も経験しています。そういった震災や、近年のコロナ禍も世の中の不条理なことだと考えているんです。

 

——「Telu Telu Boy」も「不条理」を表現した作品のひとつなんでしょうか。

今井さん:雨が降ったり、晴れたりする天候というのも不条理なことですよね。そうした不条理に人間がどう向き合い、どのように生きていくのかを表現していきたいんです。不条理な出来事は降り続く雨のように僕たちの心を濡らしていきますけど、「Telu Telu Boy」がみんなの心を少しでも晴れさせることができたらいいなと願っています。

 

——いろいろなお話、ありがとうございました。今後はどんな活動をしていく予定ですか?

今井さん:僕は「figbash & the Sketchy friends(フィグバッシュ・アンド・ザ・スケッチー・フレンズ)」っていうバンドの音楽プロデュースもやっているんです。そうした活動も含めてクリエイティブな活躍をする人たちを集めた総合的な会社を立ち上げたいなと思っています。「Telu Telu Boy」もグッズ展開やイベント参加をしながら、日本はもちろん世界中に広めていきたいです。僕自身も新潟を代表する美術家として、世界での活躍を目指してこれからも活動していきたいと思います。

 

 

 

今井 翔太

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
  • 部屋と人
  • She
  • 僕らの工場
  • 僕らのソウルフード
  • Things×セキスイハイム 住宅のプロが教える、ゼロからはじめる家づくり。


TOP