2月14日、新潟市中央区の古町通5番町にカレー店「Side by Side Spice Stand」がオープンしました。実はこのお店、アパレルで有名な「DeepInside」さんがプロデュースをしたんだとか。「アパレルからカレー?」って、いったいどんなメニューが提供されているんでしょうか。店長の村上さんに、オープンまでの経緯やカレーへのこだわりなどいろいろとお話を聞いてきました。
Side by Side Spice Stand
村上 大輔 Daisuke Murakami
高校生のときに飲食業界へ進むことを決意。卒業後は「新潟調理師専門学校」へ進学し、就職を機に上京。その後新潟へ戻り、さまざまなジャンルの飲食店で料理人として厨房に立つ。2022年2月に「Side by Side Spice Stand」を開店。
――アパレルのお店を展開する「DeepInside」さんがこちらのお店をオープンしたと聞きました。村上さんも以前はアパレルのお仕事をされていたんですか?
村上さん:いえ、僕はもともと他の会社でずっと飲食をやっていた人間で、アパレルの経験はありません。この店のことは、人づてに話をいただいて引き受けることにしたんです。
――そうだったんですね。前のお店でもカレーを作っていたんですか?
村上さん:前の店では和食や中華、イタリア料理を作っていました。スパイスカレーは初めてなんです。
――じゃあカレー作りはどこで?
村上さん:以前「VOVO(ボボ)」というカレー店で働かれていた方が「DeepInside」と昔から付き合いがあったようで、その方に基礎をイチから教えてもらいました。そのあとは自分でスパイスの香りや作用を確かめながら試行錯誤をくりかえして、約4ヶ月かけて完成させました。
――そもそも、村上さんはどうして飲食の道を?
村上さん:高校生のとき、はじめてアルバイトをしたお店で自分の作った料理をお客さんが「美味しかったよ」と言ってくれたことがあったんです。そのときの嬉しさが忘れられなくて、この道でプロを目指そうと思いました。
――そのひとことが村上さんの人生に大きな影響を与えたんですね。高校卒業後はどうされたんですか?
村上さん:料理の知識や技術を身に付けるために、「新潟調理師専門学校」で基礎をイチから学びました。専門学校を卒業してからは東京にあるイタリアンのお店に就職することができたんですけど、結局半年くらいで辞めてしまったんですよね。
――えっ、どうしてですか?
村上さん:凄くレベルの高いお店だったので、単純に実力不足でした。今となっては若気の至りですが、自分はかなり尖っていたと思うので(笑)
――新潟に戻ってからのお仕事は?
村上さん:地元の先輩から誘ってもらって居酒屋で料理長として働きはじめました。最初はひとつの店だけを任されていたんですけど、あとからその店以外の飲食もやらせてもらったり、商品開発にも携わらせてもらったりするようになって。だいたい10年くらいはその会社で働かせてもらいました。
――で、そのあと「Side by Side」のお話をいただいたわけですね。カレー店を引き受けることに躊躇はなかったですか?
村上さん:僕が前にいた会社はフランチャイズの飲食店でした。そこでいろんな経験を積ませてもらったんですけど、フランチャイズ形式のお店って、ターゲット層が広いので万人受けするものがよかったり、学生でも作れたりするようにローカライズするのでシンプルなレシピになっていきます。僕はお客さんともっと濃いつながりを築きたかったし、「これは自分が作った料理だ」と知ってもらえるような環境を求めていたので、この話を引き受けたいと思いました。
――カレーについても教えてください。こちらのお店ではどんなカレーを提供しているんですか?
村上さん:この店では「ミールス」という南インドで食べられているカレーを出しています。
――「ミールス」ってはじめて聞きました。最近のカレーというと、真ん中にご飯があって、両端にカレーのあるものをイメージしていました。
村上さん:そうなんです。ダムカレーをやるお店さんが年々増えてきて、どこかで差別化できないかと考えていたんです。それでいろいろと調べているうちに、インドで日常食として食べられているミールスにたどり着いて、いくつかの野菜とカレーがのっているから目立つだろうと思ったんですよね。それに、新潟での認知度もまだ高くないことがわかったのでこのスタイルにしようと決めました。
――プレートにいろいろ乗っていますね!小分けにされているものがカレーですか?
村上さん:左から「本日の3種から選べるカレー」が1種と、他の4種は元からついてくる豆とほうれん草が入っている優しい味付けの「ダールタルカ」、根菜とかぼちゃが入っているやや薄味の「サンバル」、すっぱくて辛いスープ「ラッサム」、タルタルソースに近い味のヨーグルト「パチャディ」です。
――ご飯の上にのっているのは野菜と、ナンですか?
村上さん:野菜はひとつひとつ味が違っていて、甘かったり、辛かったり、味の濃いものから薄いものまであります。それと、これはナンじゃなくて「パパド」と呼ばれる、インドではポピュラーな豆の粉からできた煎餅です。
――ひとつのプレートでいろんな味が楽しめそうですね。ちなみに、村上さんオススメの食べ方はありますか?
村上さん:最初はプレートにのっているものをそれぞれ味見してみてほしいです。そのあとは、すべてを一緒によく混ぜ合わせてもらって、ひと口ごとに食感や風味の違う「何味とも表現できないなにか」を楽しんでいただけたらと思います。その状態を僕は「カオス」と呼んでいるんですけど、どんな味になるのかはお店に来て確かめてほしいです。
――カレー以外にはどんなメニューがあるんですか?
村上さん:「ジャークチキン」というジャマイカで親しまれている鶏肉料理や、自家製の衣をまぶして揚げた「フライドポテト」、南インド発祥のタレを使った「唐揚げ」なんかがあります。ドリンクで「チャイ」も出しているんですけど、一般的な甘い味とはちがって、ショウガが強めの辛めな味にしてあります。
――初のカレー作りということでしたが、不安とかはありませんでしたか?
村上さん:正直なところ、はじめは自信がなかったんですよね。自分は食に関してはプロであっても、カレー作りの経験はなかったから何が正解なのかわからなくて……。でも、僕にカレーのことを教えてくれた方が、大切なことを気づかせてくれたんです。
――それはどんなことだったんでしょうか?
村上さん:誰かに「美味しい」と言ってもらうには、「自画自賛できるくらい、まず自分の料理を好きになる」ということですね。それが味にどう現れるかはわかりませんが、「自分の料理を自分が好きかどうか」という料理人にとって重要な心構えを教わりました。
――マインド的な部分を受け継いだわけですね。ちなみに作る上でいちばん苦労されたことはなんですか?
村上さん:「何かが足りないけど、何を入れたら補完されるのか」を見つけるのが難しかったですね。長く飲食業をやっていると、まとまりのよさを気にしてセオリーから外れることを嫌うようになるんです。でもそこは、料理の正解や常識をあまり考えずにスパイスの香りや作用を少しずつ理解していったらスムーズに進められるようになりました。
――これまで培ってきたものがこのお店でも発揮されたんですね。それでは最後に、今後の展望を教えてください。
村上さん:このスタイルのカレー作りをしてみて、「『経験がないからできない』はない」と思いましたね。なので、ここを起点にいろんなジャンルに挑戦してみたいです。例えばこの店のサイドメニューにあるフライドポテトをメインにした新しい店を開くとか。いろいろなイモの種類や味を展開していって、そこからまたさらに新たなものを作ったりしたいですね。
「自分の作った料理を愛する」と話してくれた村上さんの言葉からは、これまで積み重ねてきた料理への愛と、火傷しそうなほどに熱い情熱が伝わってきました。そんな村上さんの作るカレーを食べにぜひ「Side by Side Spice Stand」へ足を運んでみてください。ちなみに、お店の壁にかけられている絵は村上さんにカレー作りを教えた方、小川洋平さん(アーティスト名:Youhei Ogawa)が描いたものだそうです。こちらの作品も、カレーと一緒に楽しめます!
Side by Side Spice Stand
新潟市中央区古町通 5-591-1F
営業時間 11:00-17:00(L.O.16:30)
火曜休