地域を思うお店でありたい、燕市で10年続く「手打ちそば いちぶん」。
食べる
2023.03.13
燕市にある「手打ちそば いちぶん」には、お昼時になるとたくさんのお客さんが足を運びます。実は店主の福士さんはもともと、日本三大そばのひとつである「戸隠そば」で有名な長野県戸隠で、そば粉の営業マンとして働いていたんだとか。そんな福士さんがおそば屋さんとして独立した経緯や、そばへのこだわりについて聞いてきました。


手打ちそば いちぶん
福士 学 Manabu Fukushi
1979年燕市生まれ。長野県戸隠にあるそば粉などを扱う企業に就職。営業として8年務めた後、そば職人になるため戸隠のそば店で1年間、東京で3年間修業を積む。2013年に燕市で「手打ちそば いちぶん」をオープン。休日はスノーボードやランニングなど、身体を動かすことが多い。
そば粉の営業マンから、そば職人の道へ。
――まずは福士さんがそば職人を目指されたきっかけを教えてください。
福士さん:もともと私はそば粉の営業マンだったんですよ。そば粉に限らず、スーパーでも売っているような乾麺を扱う会社が長野の戸隠っていうところにあって、そこで8年間サラリーマンをしていました。そういう意味では当時も内側からそば屋を見ていましたね。
——就職先にその会社を選んだのは、やっぱりそばがお好きだったから?
福士さん:正直、そばが特別好きっていうわけではなかったんですよ(笑)。私が配属された部署がたまたま、そば屋さんに業務用のそば粉を売ってまわるところだったっていう。その頃は営業の仕事をやりたかったので、何を売るかっていうことには執着なかったんです。

——それからおそば屋さんとして独立しようと思われたのはどうしてですか?
福士さん:「いつかは実家に戻らなきゃいけないな」「どうやって戻ろうかな」って考えたときに、それならば自分でそばの店をやってみたいと思ったんです。面倒を見てくれるっていう人も周りにちょうどいたので、サラリーマンを辞めた後、そのまま長野のそば屋さんで1年、その後は東京のそば屋さんで3年ほど修業しました。
——せっかくそばの知識があるんだから、店を開くならそば屋さんだろうっていう?
福士さん:そうですね。うまくつながっちゃったっていうのはあります(笑)。自分で何か店を開いてみたいなっていう気持ちは前からあって。そこにそばの業界に入ったこととか、実家に帰ろうと思ったことがうまくリンクしたっていうところです。それで2013年にこの店をオープンしました。今年で10年ですね。

戸隠と東京で学んだことを生かして打つ、「いちぶん」のそば。
——福士さんが打つそばは「○○流」とか、流派みたいなものがあるんですか?
福士さん:うーん……。最後に修業したのが東京なので、打ち方としては江戸流ですね。ただ、はじめに修業したのは戸隠ですし、うちのそばを食べたお客さんから「戸隠だよね」って言われるっていうことは、戸隠流なのかもしれませんね(笑)
——江戸流と戸隠流ではどんなところが違うんですか?
福士さん:ひとつは打ち方ですね。戸隠だったら、長い棒を1本使って生地を大きく丸く伸ばすんです。でも江戸前だと、短めの棒を3本使うんですね。というのも戸隠の店はどこも広いですから、生地を大きく広げて打てるんですけど、東京の店だと敷地が狭いから、いかに効率よく場所を使うかっていうところがあって。他にもそば粉の割合とか盛り方とかいろいろな違いがありますけど、いちばん大きな違いはそこかもしれませんね。

——お客さんがそばを食べて「戸隠だよね」って分かるっていうことは、味わいにも違いが現れるんでしょうか。
福士さん:どちらかというと東京はのどごしがある、上品なそばが多いんです。だけど田舎に行けば行くほど趣がある味になるというか。うちのそばにはそういうところがあるかもしれないですね。原料に戸隠のものを使っているっていうのもありますね。
——なるほど。だけど打ち方は東京流なんですよね? それはスペースの関係で?
福士さん:生地を大きく広げる戸隠流のやり方だと、空気に触れる面積が大きくなるんですよね。ところが3本使うときには生地を棒で巻き取りながら打つので、空気に触れる時間が短くなるんです。効率がいいですし、生地にとってもいいので、その打ち方をしています。

——じゃあ東京と戸隠で吸収したことを生かして打つ、福士さん流のそばっていうわけですね。つゆにもこだわりはありますか?
福士さん:最初に修業したところで言われた、独立するための条件に「そば粉は自分のところで挽きなさい」「かつお節は自分のところで削りなさい」っていうふたつがあって。なので、今も必ず自分のところで削ったかつお節をつゆに使うようにしています。そば粉と一緒でかつお節もやっぱり削りたてが美味しいですから、その日に削ったものをその日に使うようにしています。
——冷たいものも温かいものも、いろんなそばがありますね。おすすめはどれですか?
福士さん:うちの代名詞みたいになっているのは「鴨南蛮そば」ですね。鴨って臭いがいつまでも口に残ってしまったり、食感が独特だったりっていう悪いイメージを持つ方が多いと思うんです。だけどうちの鴨南はそんなことないですし、「ここの鴨南なら食べられる」っていう人もいるんです。

——私も先ほどいただきましたが、「鴨ってこんなに美味しいんだ!」と感動しました。そばに添えてある炙った鴨も美味しいですね。
福士さん:つゆの方にはうま味が出るもも肉を使って、添える方にはロースを仕込んでおいてさっと炙って出すっていうふうに、部位で使い分けているんです。あと「鴨が食べたいけど、冷たいおそばも食べたい」っていう方におすすめなのは「鴨せいろ」。冷たいそばを温かいつゆにつけて食べるつけ麺タイプですね。
——冷たいおそばもぜひ食べてみたいですね。他にはどんなメニューが?
福士さん:佐渡の「ながも」を使ったそばとか、「天使の海老」を使った「純海老天そば」とかは、うちにしかないそばだと思います。あとは季節ごとに変わるメニューもありますよ。

そばが食べたくなったときに、思い出してもらえるお店でありたい。
——「いちぶん」という店名の由来について聞いてもいいですか?
福士さん:映画の「武士の一分」にいちばん由来しています。映画は武士のプライドの話だったと思うんですけど、「一分」って「ほんのわずか」っていう意味でもあるんですよね。それを屋号に付けたのは、自分のことは本当にわずかでいいので、お客さんだったり、地域の方だったり、従業員さんだったり、そういう周りの人のためにこの店がありたいなっていうのがひとつ。
——お店に関わる人たちを本当に大事にされているんですね。もうひとつは?
福士さん:もうひとつは映画で使われていた「武士の一分」っていう言葉とそのまま同じ意味で、このお店を通じて自分が生きている意味や存在を示したいと思ったんですね。
——今後、お店を続けていく上での目標があれば教えてください。
福士さん:「そばを食べたい」っていうときに思い出してもらえる店になりたいなって思います。今は燕とか三条の人たちだけかもしれませんけど、それがどんどん広がっていって「そばを食べるなら『いちぶん』」っていう方が増えていってくれたら嬉しいですね。

手打ちそば いちぶん
燕市井土巻2-32
0256-46-8481
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