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加茂の学生たちに親しまれてきた老舗「ピノキオ」のスパグラ。

お店の歴史や「スパグラ」の正体をマスターに聞く。

加茂駅前の商店街に、レンガ調の落ち着いた入口の喫茶店があります。その名も「ピノキオ」。加茂市民にはおなじみの老舗喫茶店です。お店の入口には「スパグラ」と書かれたのぼりが掲げられています。いったい「スパグラ」って何のことなんでしょうか?マスターの真柄さんに、お店の歴史や「スパグラ」の正体についてお話を聞いてきました。

 

 

ピノキオ

真柄 誠 Makoto Magara

1945年加茂市生まれ。工業大学卒業後、東京の企業に就職。3年後に加茂市に戻り、地元の紙器工業会社に就職。1975年に実家の旅館が喫茶店になったのを機に、紙器工業会社を退職し「ピノキオ」のマスターとなる。休日は自分の好きなよう自由に過ごすのが最近の楽しみ。

 

交通機関の発達で旅館から喫茶店に変身?

——今日はよろしくお願いします。「ピノキオ」の店内はレトロな雰囲気でとってもおしゃれですよね。創業からずっとそのままなんですか?

真柄さん:ありがとうございます。創業してから45年も続いてますので細かい修繕はしてますけど、ほとんどそのままですね。途中で改装する必要がないよう、あんまり流行に左右されないベーシックな内装にしたんです。レンガと漆喰マホガニーっていうのは流行がないと思ったんですよね。

 

——フローリングを見ても45年経っているように見えないほどきれいですね。張り替えてないんですか?

真柄さん:このフローリングは擦り減ってボロボロにならないよう厚めにできていて、模様が「金太郎飴」みたいに、厚い層になっているんですよ。だから、擦り減っても模様が消えることはないんです。ちょっとお金はかかったけど、後で張り替えることを考えたらねぇ。

 

 

——50年続いているってことは、創業したのはいつなんですか?

真柄さん:昭和45年創業です。その前は旅館をやっていたんですよ。商売で加茂市に来たビジネスマンが泊まることが多かったんです。ところが、特急や新幹線の時代になって日帰りできるようになったら、泊まっていくお客さんが減るのは予想できるわけですよね。これから旅館業は難しくなってくるので、何か商売替えをしようと家族会議したわけです。

 

——それで喫茶店を始めることになったんですか?

真柄さん:はい。旅館時代は料理を楽しみにして利用してくれるお客さんが多かったんです。だったら次も料理を出すような商売の方がいいだろうということで、喫茶店「ピノキオ」を始めたんです。

 

喫茶店のマスターになる前は機械をいじっていた?

——真柄さんは「ピノキオ」のマスターになる前は何をやっていたんですか?

真柄さん:私は機械関係の仕事をしていたんですよ。東京の工業大学を卒業して、卒論の関係企業で3年働いたんです。でも実家の父親から、長男として新潟県内の地元に近い企業に勤めてほしいと再三の勧めがあり、やむなく加茂に帰ったわけです。

 

——それで実家の旅館を継いだんですか?

真柄さん:いえ。地元の紙器工業会社から誘われたんです。機械に強い人間がほしいということでした。どうしようか迷っていると見学に来るよう勧められたので、どんな設備があるのか見学に行ったんです。ところが、見学に行った時にたまたま機械が動かなくなって、工場のラインがストップしちゃったんですよ。そしたら、社長から「機械に詳しいんだから、どこが悪いかちょっと見てくれ」とか言われちゃって(笑)

 

——まさか修理したんですか?(笑)

真柄さん:何度断っても頼まれるので、見るだけ見てみようと(笑)。分解して部品を点検してみたけど故障の原因がつかめなくて、あきらめて元通りに組み立てたんです。そしたら機械が動いちゃったんですよ(笑)。それをきっかけに、社長からもっと熱烈に誘われるようになったけど、やっぱり私は迷ってたんですよね。ところが、会社案内にいつのまにか新入社員として名前が載ってたんですよ(笑)

 

——よっぽど入社してほしかったんですね(笑)。さすがに入社したんですよね?

真柄さん:入社後は技術担当の管理職としていろいろなことを経験させていただき、充実した日々を送っていました。でも7〜8年後に実家で「ピノキオ」を始めることになって、無理を承知で会社を退職することにしたんです。当然、すぐに辞めることはできなかったので、3ヶ月くらい会社と店を掛け持ちしてたんですよ。

 

当時の喫茶店は悪いイメージで見られていた?

——喫茶店をやってきて、大変だったことってありますか?

真柄さん:地元に「ポパイ」っていう喫茶店があったんです。そのお店で売春行為があったらしく、摘発されて新聞で報道されたんですよ。その新聞記事には「加茂市の喫茶店P」というようにイニシャルで報道されていたもんだから、読んだ人の多くが「ピノキオ」だと勘違いしたんです。お客さんや取引業者の人たちから「このたびは大変でしたね」とか言われて困りましたね(笑)。でも、喫茶店がそういう目で見られていた時代だったんですよ。

 

——そういう目で見られていたっていうと?

真柄さん:当時の加茂市では、喫茶店はヤクザ者がやる商売だと言われていたんです。喫茶店を経営しているなんて知った途端、手のひらを返すように態度が変わる相手も多かったんです。そういう意味ではずいぶん悔しい思いをしてきたし、世間や地元に根付いている喫茶店の悪いイメージを変えたいと思って続けてきたんですよ。

 

——喫茶店って、そんなに悪いイメージで見られていたんですか?

真柄さん:そうですねぇ。悪の温床として見られていた時代もありました。だから、学校でも学生が喫茶店に出入りするのを校則で禁止してましたよ。アルバイトも喫茶店ではしちゃいけないって言われたりしてました。でも、学生って大人ぶって背伸びしたい年頃じゃないですか。喫茶店のマスターと仲よくなるのがステータスだったりするのか、実際は学生のお客さんが多かったんですよ(笑)

 

学生のリクエストと加茂の歴史が生んだ「スパグラ」。

——「ピノキオ」は喫茶店としてはフードメニューが充実してますよね。どんなメニューが人気なんですか?

真柄さん:うちの看板メニューになっているのは「スパグラ」。グラタンの中にスパゲッティが入っている料理です。ベーシックなものの他に、トマトソース系、シーフード、カレーといったバリエーションもあるんです。

 

——スパゲッティとグラタンで「スパグラ」なんですね。発想が素晴らしいですね。

真柄さん:それこそ、学生のリクエストから生まれたメニューなんですよ。ある日、学生が「グラタンを腹いっぱい食べたいんだけど、マスター作ってよ」っていうわけです。でも当時はグラタンに入れるのはマカロニが主流でした。でもマカロニって少量でも高価だったんですよ。それでスパゲッティの量を多くして入れてみたら、学生に絶賛されて、ぜひメニューに加えてくれって言われたんです。そこでメニューに加え、昭和53年くらいから今まで続けてるんです。

 

——それが人気メニューになったんですもんね。

真柄さん:喫茶店を始める時、スパゲッティの仕入れ先を探していたら、日本で一番最初にマカロニを作った会社が加茂にある「石附マカロニ」という会社だと知ったんです。当時はマカロニの製造を辞めていて、スパゲッティーの製造しかしていませんでした。でもせっかくだったら、そういうストーリー性のある会社の製品を使いたいと思い、早速出かけて行って交渉しました。でも、スパゲッティは下請けで作っているだけで卸売はしていないと断れちゃったんです。そこで今度は「石附マカロニ」にスパゲッティを発注している会社に交渉してみたら許可がもらえて、うちにもスパゲッティを下ろしてもらえるようになったんですよ。そうしたストーリー性を大事にしたことも人気の要因じゃないかなって思ってます。

 

 

——もちろん喫茶店の定番・チョコレートパフェもあるんですよね?

真柄さん:うちのチョコレートパフェは「チョコロック」っていう名前なんです。山のようにアイスクリームや生クリームが盛り付けてあるので、岩山みたいなイメージで名付けました。開店から味も形も変わっていないんですよ。当時は専用のガラス容器が30個あったのに、45年のうちに壊れたりして今ではほとんど残っていません。補充したくても、もう同じ型のものは製造してないんですよね。それほど歴史の長いメニューなんですよね。

 

——「スパグラ」って初めて食べましたけど、美味しいですね!

真柄さん:ありがとうございます。お客さんからそういう言葉をかけてもらえると、やっぱりうれしいですよね。でも、一番うれしいのは子どもから「おいしい」って言われたとき。子どもの言葉には駆け引きがないでしょう。本当に心から言ってくれてるんだなって思うんですよね。そういう言葉って励みになりますね。

 

学生に喫茶店の出入りを禁止していた先生が今ではお客さん?

——今後はどのようにお店を続けていこうと思ってますか?

真柄さん:最近は昔と違って、学生のお客さんが減って年配のお客さんが増えて来たんです。その年配のお客さんの中には、以前、学生たちに喫茶店の出入りを注意していた先生もいたりしてね(笑)。先生は学生に注意している手前、自分たちが喫茶店に入るわけにいかなかったんですよね。そういう人たちが今はお客さんになってくれてます。喫茶店に対しての概念がやっと変わってきたんでしょうね。これからも、喫茶店のイメージがよくなるよう努力していきたいです。

 

 

以前は「悪の温床」というイメージが強かったという喫茶店。アットホームなムードで長年続けてきたこともあって、今では加茂市の老舗喫茶店として、「ピノキオ」は地元に根付いたお店になっています。その象徴ともいうべき「スパグラ」は加茂市民のソウルフードといっていいほど、いろいろな人の記憶に残っているようです。これからも「スパグラ」共々、あったかい喫茶店として続けていってほしいです。

 

 

 

ピノキオ

〒959-1378 新潟県加茂市駅前4-14

0256-52-6339

11:00-20:00

火曜休

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