代々農作物を生産している南魚沼市の「鈴木農場」。自家栽培した「からし菜」の種で作る「和からしマスタード」は、「新潟ガストロノミーアワード」の特産品部門を受賞。また昨年の夏にオープンした農業複合施設は、農業体験や南魚沼市を満喫できるアクティビティなどを用意し注目が高まっています。今回は広報全般を担当している南雲さんにいろいろとお話を聞いてきました。
鈴木農場
南雲 優 Yu Nagumo
1991年千葉県出身。デザインの専門学校を卒業後、東京でデザイナーとして活動。2017年に南魚沼市にIターン。フリーデザイナーを経て、「八海醸造」へ入社。2019年に「鈴木農場」へ転職。広報やデザインの分野を任されている社長の右腕。
——まずは「鈴木農場」さんがどんなことをしているのか教えてください。
南雲さん:春はアスパラ、夏に小玉スイカ、他にはカリフラワーや野沢菜などを生産している農家です。自家栽培した野菜で加工品を作ろうと、いろいろと模索をしまして、今は「和からしマスタード」を主軸商品にいくつかを製造・販売しています。昨年の夏には、農業複合施設として新しく店舗をオープンしました。
——幅広い取り組みをされているのですね。
南雲さん:現在の社長が大学を卒業して間もなく代替わりし、しばらくは従来と同じように農業に取り組んでいたそうです。ただ、野菜農家が収益を得るには北海道クラスの広大な敷地がないと難しいんです。生活はできないことはないけど厳しい。そこで小規模農家でも価値があるものを作ろうと加工品の開発をはじめたと聞いています。
——そのひとつが「和からしマスタード」ですね。
南雲さん:「和からしマスタード」は3種類あります。燻製タイプの「SMOKE和からしマスタード」が先日開催された新潟ガストロノミーアワードで特別賞を受賞しました。
——それはおめでとうございます! 農業複合施設としてどんなことができるのかについても、詳しく教えてください。
南雲さん:商品販売以外にも、マスタード作りと野菜の収穫体験、南魚沼を楽しめるアクティビティができる施設です。田んぼの真ん中にあるので、自然が楽しめる仕組みをいっぱい用意しています。スポーツブランドの「ROSSIGNOL」と契約していて、ノルディックスキーやクロスバイクの試乗もできます。今年はじゃがいもを植える予定で、収穫後にはテラスで焼いて食べる企画も計画中しています。
——店舗ではお食事も楽しめるようですね。
南雲さん:トルティーヤボックス、ホットドック、ハンバーガーなどがテイクアウト可能です。ゴールデンウィーク前にはランチプレートをメニューに加える予定なので、より一層ここでお食事を楽しんでもらえるようになりますよ。
——障がい者雇用の一翼を担っているとも聞きました。
南雲さん:この建物は就労継続支援B型施設に併設していて、職員と障がいを持っている方が一緒にレタスを育てています。農福連携のひとつのかたちとして、雇用の創出と障がい者の方が働ける選択肢を増やすことに役立っているのではないかと思っています。
——ところで南雲さんはどんなきっかけで「鈴木農場」さんで働くことに?
南雲さん:ずっとデザインの仕事をしていて、子どもが生まれるタイミングで南魚沼市に移ってきたんです。せっかく南魚沼に来たんだからと思って、地元の「八海醸造」さんで酒造りをしていたこともあるんですよ。でも、4、5年前に社長と出会って、意気投合しまして。社長から「もっと会社を大きくしたいから一緒にやらないか」と声をかけてもらったんです。
——製品のパッケージデザインなども南雲さんが手がけているんですね。
南雲さん:もとはゴリゴリのスマホゲームのデザイナーだったんです。今やっているような分野のデザインができるか正直不安はありました。今はだいぶ慣れましたね。デザインの他にはサイトの運営や広報的な役割を担っています。
——製品開発にも関わっていらっしゃると思いますが、「和からしマスタード」の誕生秘話ってあります?
南雲さん:知り合いの方から「ピリッと辛みが効いたマスタードを作って欲しい」とリクエストされたのがきっかけなんです。それまでも他の加工品の製造に取り組んでいたものの、いまいちパッとしなくて。新商材としてやってみるかと、2017年に種まきをし、翌年商品としてできあがりました。
——メディアにも度々取り上げられていますよね。「だんだん注目されてきた」と感じたタイミングってありますか?
南雲さん:商品を卸す個数が増えたときは手応えがありました。あとは3年前、はじめてテレビ取材を受けたときは嬉しかったです。それで認知度が高まった感じがしましたし、営業もしやすくなりました。
——「和からしマスタード」の味の特徴はどんなところに?
南雲さん:他のものとは、マスタードの原料となる種に大きな違いがあります。うちでは、秋に種蒔きをして春に花を咲かせたからし菜の種を採種します。からし菜は冬の間、雪の下で伏せている状態です。雪の下で育つのが良いのか、えぐ味のないマスタードができあがるんです。
——へぇ、雪下野菜は甘くなると言いますもんね。
南雲さん:そもそも僕たち、「からし菜の種にえぐ味がある」ことを知らなくて(笑)。他の業者さんから「どうやって育てているの?」「どうしてもえぐ味が残るんだけど」と相談されて、自分たちが育てているからし菜の強みを知ったんです。この辺りではお蕎麦にからしをつけて食べる文化があるんですよね。それも雪の下で育ったからし菜が美味しいことと関係があるのかもしれません。
——野菜で加工品を生み出したり、農業複合施設をオープンさせたり、達成感があったのではないですか?
南雲さん:いやぁ、まだスタートに立ったばかりですよ。僕たちが目標にしているところまでたどり着くには、頑張らなくちゃいけないことがたくさんあります。
——なんと頼もしい! ちなみに今も農作物の栽培は続けていらっしゃる?
南雲さん:もちろんです。「鈴木農場」の基盤は農業です。収穫したものにどう価値をつけていくかと思案して、今の商品があるんです。
——かたちを変えて着々とステップアップされているんですね。これからはどんな展開を目指していますか?
南雲さん:「鈴木農場」の商品とこの施設の認知度をもっと高めることが必要だと思っています。農作物ですから、天候などによって収穫できない時期があるかもしれない。そうなった場合、経営が傾いてしまってはいけないので「和からしマスタード」以外の人気商品を作ることも模索しています。これからも「鈴木農場」らしい取り組みを続けていきたいです。
鈴木農場
南魚沼市大月1200