米、味噌、アスパラの「高田農園」。
6代目が見据えるこれから。

食べる

2025.11.23

text by Etsuko Saito

新発田市で6代にわたり農業を営んできた「高田農園」。お米、アスパラガス、そして新発田産のお米と大豆で作る「あやめ味噌」の生産者さんです。代表の高田さんは、20代の終わりに関東から新潟に戻り就農したものの、戻ったばかりの数年間は農業に積極的になれなかったのだそう。「食の大切さ」に気づいたきっかけや現在の取り組みなど、いろいろとお話を聞きました。

Interview

高田 和直

Kazunao Takada(高田農園)

1980年新発田市生まれ。日本体育大学卒業後、教員を目指しながら不登校の生徒が通う教室で先生をする。その後地元に戻り、飲食業を経験。再び関東で飲食業に就くなどして、20代後半に新発田市で就農。「高田農園」6代目。

自分に納得できずにいた20代を経て、
東日本大震災で気づいた農業の意義。

――高田さんは教員を目指していたそうですが、ご実家の農業についてはどう考えていたんでしょう?

高田さん:家業の「高田農園」をどうにかしなくちゃいけない、という頭はありました。自分が表立って農業をするのか、どなたかにお任せするのか、それとも売却するか。いくつか選択肢はあったものの、「なくす」ことは考えませんでした。

 

――就農する道を選ばれたのは、なぜですか?

高田さん:「地元にいたら、このまま人生が終わってしまう」という危機感もあって、違う世界を見ようと関東へ飛び出しました。講師業や飲食業で一人前を目指していましたが、その間も「高田農園」を頭から完全に切り離すことはできず、結局20代後半になってから就農しようと決めました。しばらくは、本腰を入れられませんでしたけどね。

 

――何か理由があったんですね。

高田さん:ある意味、挫折して戻ってきたようなものでしたので。教員になることも、飲食業もうまくいかず、「自分はどうしようもねぇな」という気持ちでいました。思いっきり自己肯定感が低い状況で、モチベーションを上げるまでに時間がかかったんです。

 

――その後、モチベーションは高まりました?

高田さん:2011年に東日本大震災が起きて、あまりの被害に「この国は終わった」と思いました。その直後、スーパーから一斉に食品が消えた光景を見て「誰かが食べものを作らなければ」と強く思ったんです。あの震災で、考え方が大きく変わりました。

 

――放射能の問題なども大きく取り上げられました。農業の未来が心配になりませんでした?

高田さん:これからどうなるのだろうか、という不安はありました。立ち入り禁止地区が指定されたり、国内製品に輸出制限がかけられたりして、事態はどんどん悪くなっていきましたよね。一方で、土地から離れずに暮らし続ける人もいて。それを見て、「やっぱりみんな、土地に根付いて生きているんだな」と感じたんです。そこで暮らす人がいる以上、「自分は食べものを作り続けよう」と決意が固まりました。

 

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ブランド野菜「新発田のアスパラガス」と、
新発田産のお米と大豆で醸す「あやめ味噌」。

――それからはどう仕事に向き合ったんですか?

高田さん:「高田農園」は米、アスパラ、味噌を生産しています。数年かけてひと通りを学んでから、先代はお米、私はアスパラガスと自然に役割分担ができました。米については先代の領域だけど、アスパラガスは自分流にやりくりしてきたつもりです。

 

――アスパラガスも長く生産されているんですか?

高田さん:今から20年ほど前、福祉施設さんがアスパラの生産をするというので、畑をお貸ししたのがはじまりです。担当の方が変わったり、アスパラが病気になったりして、「育て続けるのは難しい」となり、「高田農園」が直接管理することになりました。当時は畑の状態がとても悪くて。品質の良いアスパラが採れるまでは、ずいぶん苦労しました。翌年にはハウス栽培にも取り組んで生産量が倍になって、そしてまた増産して。今では、初年度の10倍以上の売り上げがあります。

 

――新発田のアスパラは、有名ですよね。高田さんがアスパラ生産をはじめたときも、地元の名産だったんですか?

高田さん:もちろん、その頃から新発田のアスパラはブランド品でした。「新発田のアスパラガス」の名に恥じない良いものを作らなくちゃ、とずっとそういう気持ちでいます。

 

――自社で加工しているお味噌についても、教えてください。

高田さん:6次産業化事業として、先代が地元の農協さんと共同で作りはじめたのが「あやめ味噌」です。障がいをお持ちの方の就労支援につながる「ものづくりの場」でもありました。それが今から30年ほど前。就労支援の場ではなくなり、農協さんの事業から離れたものの、継続して味噌作りをしています。国産の大豆と米、食塩だけで製造していて、発酵の具合によって風味が変化します。地元の学校給食にも使われているお味噌です。

 

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アスパラを増産し、埼玉農場を新設。
事業拡大を進める理由は?

――埼玉にも農地をお持ちだとお聞きしました。いったい、どんな狙いがあるんでしょう?

高田さん:就農してから「農業は大変だ」と何度も痛感しました。天気の影響もあるし、売上の懸念もあるし。他にもいろいろ解決しなくちゃいけない課題がある中で、販路開拓も重要なミッションです。地元の農家さんと「teamしばもん」を組んで、関東のお客さまと「顔の見える付き合いをしていこう」と、マルシェや東京での販売会を試みた時期がありました。そういった活動から、販路開拓をするには人口が多い場所でつながりを持つ必要がありそうだと考えるようになりました。でも、年に数回、関東に足を運ぶだけで販路が開拓できるほど、現実は甘くありません。

 

――それで、どうされたんですか?

高田さん:今から7年、8年前から下準備をして、数年前にスタッフに「これから3年後に、自分はいなくなる。埼玉農場を作って現場に張り付くから、今と同じ仕事はできなくなる。僕がいなくても問題ない体制を作りたいので、よろしく頼む」と宣言しました。そしてようやく、昨年、実行に移せたんです。

 

――埼玉農場では、何を生産しているんでしょう?

高田さん:アスパラを生産しています。ネットサイトで「高田農園」のアスパラを購入した方から「こんなアスパラは関東にない」「食べたことない」というコメントをたくさんいただいて。実際、関東のスーパーを覗いてみると、「新発田のアスパラ」ほどジューシーなものはそう多くありませんでした。「これは勝負できるかも」「風穴を開けられるかもしれない」と思いました。

 

――新潟の農家さんが関東でも生産しているって、あまり聞かないように思うんですが。

高田さん:地元の金融機関に相談したら、「農家の県外事業に出資した実績はない」と言われました(笑)。いちばんの課題は、忙しい時期に責任者がいないこと。他の農家さんからは「よっぽど現場を信用しているんですね」と驚かれます。そもそもスタッフとの信頼関係があったからこそ、埼玉農場を作ろうと思えたんですけどね(笑)

 

――今のお話、農業に従事される方は、ご自身の田んぼや畑に特別な思いを持っているんだなとも感じました。

高田さん:みなさん、当然強い思いを持っているでしょうね。自分の田んぼ、畑は、とても大事なスペース。なんていうか、「子どもを育てる」みたいに米や野菜を育てているものなんですよ。それを誰かに任せるなんて考えられない、という方は多いと思います。親の子離れが難しいのと同じです(笑)

 

――埼玉へ進出することについて、周りの方の反応はどうだったんですか?

高田さん:先代も金融機関も「ノー」の反応でした。でも新しい取り組みを軌道に乗せるためには、自分が踏ん張らなくちゃ。芯を強く持っていないと、周りの意見に負けちゃいます。

 

――今のご自身の役目は、どんなことにあるとお考えですか?

高田さん:就農した当初は、ひとりで3人分働けばいいと思っていました。ですが一緒に働く若い人材と出会って、農業に従事する若者の環境改善に着手しなければいけないと思うようになりました。溜まっている水をみんなで分け合う現状から、もっと大きな水源を見つけたくなったというか。その結果、事業拡大に舵を切ることにしました。

 

――高田さんは、難しいチャレンジをされていると思います。迷ったときに、思い浮かべる言葉はありますか?

高田さん:「最善を尽くして天命を待つ」ですね。農業において、天候の影響は人の手ではどうにもならないことです。それは別として、人の手でどうにかできることは精一杯する。うまくいかなければ、何か原因があるはずなので、その経験を次に生かす。やるだけやってみて、ダメなら仕方ないっていう前向きさは大事ですよね。

 

株式会社高田農園

※最新の情報や正確な位置情報等は公式のHPやSNS等からご確認ください。なお掲載から期間が空いた店舗等は移転・閉店の場合があります。また記事は諸事情により予告なく掲載を終了する場合もございます。予めご了承ください。

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