実は新潟県内屈指の温泉地でもある関川村。人口6千人弱の小さな村に、5つもの温泉が湧き出ています。そのうちのひとつ・高瀬温泉にある旅館「髙橋屋観山荘」さんが、新型コロナによるダメージからの回復を期して、これまで宿泊や宴会でしか味わえなかった同館自慢の料理を、家庭で気軽に楽しめるお土産品として新たに商品化しました。現在4品がラインナップされている同商品は、その名も「CHOTTOii」。その控え目で奥ゆかしいネーミングにつられ、同館の若旦那・髙橋専務に、どのあたりが「ちょっといい」のか伺ってきました。
髙橋屋観山荘
髙橋 俊 Shun Takahashi
1973年生まれ。関川村・高瀬温泉にある昭和28年創業の温泉旅館「髙橋屋観山荘」専務。神奈川県横浜市出身で、元はメーカーのエンジニア。若女将の夫人とは職場で出会い婿入りし、同館の後継者となった。現在は地元の旅館組合の役員や商工会の理事も務める。新潟に来てから日本酒にハマり、今や新潟清酒達人検定の最高位「金の達人」の保有者でもある。
――さっそくですが、「CHOTTOii」について詳しく教えてください。まず、商品のラインナップは?
髙橋さん:「鮭の味噌漬け」「冷製焼豚」「烏賊の塩辛」「山菜のお漬物」の4品になります。ややアレンジを加えたものもありますが、基本的には当館でお客様にお出ししているメニューを商品化しました。郷土料理をベースに食材には地物を採り入れ、当館の板前が腕によりをかけてつくっています。
――商品化したのは、やっぱり新型コロナの影響でしょうか。
髙橋さん:そうですね、大きなきっかけのひとつです。もともとコロナ禍以前より、お客様から今回商品化したメニューを中心に「料理をお土産で持って帰りたい」という嬉しいご要望は度々いただいていたんですが、食品衛生上できないので心苦しく思っていたところではあったんです。このコロナを機に食品製造について本格的に検討したところ、食品衛生法の改正もあって大きな投資をしなくともほぼ現状の設備で許可が取れることが分かり、また県の対コロナ関連の補助金も活用できるので、思い切ってチャレンジすることにしました。
――なるほど。商品化にあたって、苦労したところはありますか?
髙橋さん:食品製造自体が未知の世界だったので、板場のスタッフといっしょに手探りで少しずつかたちにしていった感じですね。味にはもちろん自信がありましたが、どうやってパッケージングするかから始まり、保存性と美味しさをいかに両立するか、またどうすれば「旅館の料理」としてより付加価値をつけられるかは特に試行錯誤しました。もともとのコンセプトは旅館の味を気軽にご自宅で楽しんでいただくことですが、商品を通じて、当館だけでなく高瀬温泉や関川村の魅力も伝わってほしい、という思いも込めたつもりです。
――気になるこのブランド名「 CHOTTOii 」の由来は?
髙橋さん:5年ほど前から使っている当館のキャッチコピー「ちょっといい宿」から採りました。もちろん、「すごくいい」と思っていただくのに越したことはないのですが(笑)、当館は「ちょっといい」の方がしっくりくるんですよ。なので食品のネーミングにも使うことにしました。
――確かに「ちょっと」って、意味に奥行きがありますものね。自分から「すごくいい」って言うのもどうかと思うし……。
髙橋さん:(笑)。お客様に対しては、心の機微というか、奥ゆかしさを大切にしていきたいと考えているのですが、それがこのフレーズで伝わってくれればな、と思っています。設備などのハード面ではなかなか大観光地の大規模旅館さんにはかなわないかもしれませんが、従業員の心遣いをはじめとするソフト面では決して負けない、むしろ中小規模ならではの距離の近さや細やかさを活かしてご満足いただけるように、常々取り組んでいます。そういったことが今回の商品にも反映されていれば幸いです。
――髙橋屋観山荘さんについてももう少し詳しく教えてください。館内は調度品も並び風格というか落ち着きのある雰囲気ですが、創業はいつなんでしょう?
髙橋さん:昭和28年の夏なので、来年ちょうど創業70年を迎えます。創業当時の建物は昭和42年の羽越水害で流されてしまったので、現在の建物はそれ以後にできたものになります。
――あぁ、荒川がほんのすぐそばにありますものね……。その後は?
髙橋さん:バブル期までは規模が拡大していったようですが、近年は旅行が少人数化し、また今般のコロナがそれにさらに拍車をかけた面もあって、当館も時代のニーズに対応していっているのが現状です。現在は部屋食以外の食事スペースも個室化しました。
――旅館のコンセプトは?……って、「ちょっといい宿」でしたね。
髙橋さん:(笑)。そうです。今は接客のサービス業自体が、変な話ですができるだけお客様に接しない方向と、至れり尽くせりの方向とにどんどん二極化していっているような感覚がありますが、当館としてはお客様に合わせながら、人同士の心のふれあいを大切にした接客を心掛け、訪れた方の心に残るような宿にしていきたいと思っています。個人的にも、訪れた地域の方とのふれあいのない旅なんて何が面白いのか、と思いますし(笑)。
――改めて、今般のコロナの影響はいかがですか。
髙橋さん:いやぁしんどいですね(苦笑)。元々時期によって多少の繁閑はある業界ですが、コロナでは季節に関係なく感染拡大の度合によってこれまでにない乱高下を経験し、最も悪い時期には2カ月もの間、休館も余儀なくされました。それでも最近は少しずつ回復してきていて、当館は元々県内からのお客様が多いこともあってか、今回のGWもコロナ以前とまでは言いませんが過去2年とは比べものにならないくらい多くの方に訪れていただきました。貴重な旅行の機会に当館を選んでいただき、とてもありがたいことです。
――では髙橋さん個人のことも少しお伺いできれば。やっぱりこちらのご出身なんでしょうか?
髙橋さん:いえ、出身は横浜です。大学を卒業後も首都圏で防災設備メーカーにエンジニアとして勤めていました。関川村は妻の出身地で、結婚してこちらに来たんです。
――そうなんですね。首都圏で機械相手のエンジニアから地方で人相手の旅館業とは、真逆の転身ですね。
髙橋さん:まったくのゼロからのスタートでしたね。こちらに入る前に妻とともに越後湯沢の温泉旅館で修業してノウハウをひと通り学びました。地方に住むこと自体は前職で方々に長期出張に出たりもしていたので殆ど抵抗はなかったのですが、周囲に知り合いが全くいなかったのが精神的に辛かったです、当初はホントに妻しかいない感じで(苦笑)。それでも地元の消防団や旅館組合に入って活動しているうちにだんだん知人や友人も増えて、地域に溶け込むことができたと思います。本業の方も、周囲と相談しながら自分なりのやり方を試行錯誤することや、お客様に喜んでもらえることに、とてもやりがいを感じています。気が付けばもう20年になります。
――すっかり若旦那なんですね。最後に、今後の展望を教えてください。
髙橋さん:この高瀬温泉をもっと盛り上げていきたいです。最盛期には13軒あった旅館も今では7軒に減り、中には荒れ果てた建物もあって、温泉街と呼ぶには残念ながらちょっと引け目を感じる景観となってしまっているのが現状です。そんな中、村長がこのほど、高瀬温泉の名前を挙げてテコ入れに言及してくれたんです。今後、旅館の若手と村で、将来に向け何とかしていこうと話し合いから始めることになっています。私も一員として、どんなことができるのか一生懸命考え、力になっていこうと思っています。
――なるほど。高瀬温泉も「ちょっといい」感じになるといいですね。本日は新商品をきっかけに様々なお話をありがとうございました!
館内の自販機でも試食・おつまみ用として2品を販売中(上記写真・右下)
■「CHOTTOii」ラインナップ
鮭の味噌漬け 2,160yen
山菜のお漬物 650yen
烏賊の塩辛 750yen
冷製焼豚 850yen
〒959-3261
新潟県岩船郡関川村湯沢228-4
TEL 0254-64-1188