こんなときこそ、自分とじっくり向き合おう。「Toi陶房」の陶芸教室。
ものづくり
2021.02.13
新型コロナウイルスの流行が長期化し、「ステイホーム」の時間が増えていることで、その機会を利用してじっくり自分と向き合うインドアな趣味が注目を集めています。陶芸もそのうちのひとつ。県北の温泉地・瀬波温泉にある薪窯の工房「Toi陶房」では、観光地ならではの一日体験から長く通うパターンまで、それぞれの趣向や都合に合わせて陶芸を楽しむ少人数制の教室が開かれています。房主の陶芸作家・フジタヨウコさんにお話を聞いてきました。


フジタ ヨウコ Yoko Fujita
1972年村上市生まれ。「Toi陶房」房主の陶芸作家。女子美術短大、同専攻科で陶芸を学び、修了後は帰郷し胎内市に工房を構える坂爪勝幸氏に師事。2015年に独立し、出身地の瀬波温泉に薪窯を建て開房。作品制作や教室運営に励む。これまで日本陶芸展、女流陶芸展、長三賞、九州山口陶磁展などに入選。
温泉街の一角に窯。観光客向け一日体験教室も。
――さっそくですが、こちらでは何ができるんですか?
フジタさん:陶芸教室で、自分の作りたいものを自由に作陶することができます。温泉地という土地柄、観光で来られた方向けの一日体験もやっていますし、もちろん定期的に通ってじっくり作品を作ることもできます。また地元のお子さん向けに工作教室も開いています。作陶は、土練りから手びねりによる成形、乾燥、焼成までの一連のプロセスを体験することができます。
――正直、こんな温泉地の住宅街の一角に窯があって驚きました。
フジタさん:そうかもしれませんね(笑)。私自身ずっと薪窯でやってきたので、独立してここを開房するにあたってももちろん薪窯を建てたかったんですけど、当初は少し躊躇しました。でも新潟市の「水と土の芸術祭」で現代アーティストのグループが県都の市街地に薪窯を作ったのを見て、であればこちらでもできるんじゃないか、と。地元の方々にもご理解、ご協力をいただいて、実現することができました。

――やっぱり薪窯は違うんですか?
フジタさん:そうですね。電気やガス、灯油の窯よりも火力のコントロールが難しく、偶然性に負う部分もより大きくなりますが、薪窯にしか出せない陶器の表情、「景色」は何物にも代えがたいものだと思っています。炎との距離や炎の流れによって、その「景色」に幅や奥行きが生まれるんです。

実家の器から陶芸に興味。短大、修業を経て自窯を手作り。
――フジタさんがそもそも陶芸に興味を持ったキッカケは?
フジタさん:実家が寿司店で、小さい頃から身近にある器に興味があったんですよ。高校に入って茶道をするようになって、さらに器への興味が高まりました。それで卒業後は本格的に陶芸を学ぼうと、上京して女子美術短大に進んだんです。当時はまだバブルが弾ける直前で、ちょっとした陶芸ブーム、芸術ブームというか、デパートなどで連日展示会が開かれていて、どんどん作品が売れていた時代でもありました。そんな中で陶芸を学ぶのは、どこか「手に職をつける」ような感覚もあったかもしれません。短大では専攻科にも進み、合計3年間学ばせてもらいました。
――なるほど。その後は?
フジタさん:専攻科を修了後は帰郷し、同じ村上市出身で、胎内市に工房を構えている坂爪勝幸さんのもとに弟子入りしました。先生のことはもともと高校時代から存じ上げていて、短大2年の秋には工房の窯焚きも見学させてもらっていました。この薪窯はすごいんですよ。穴窯といって、山の斜面を利用した中世の窯を再現したものなんです。先生のところには結局、20年近くお世話になりました。
――それから地元で独立したのは?
フジタさん:いずれ自分の窯を持ちたいという気持ちとともに、親が元気なうちに活動の基盤を確立しておきたいとずっと思っていて。それで実家の隣に開房したのが2015年ですね。窯は坂爪先生にも手伝ってもらいながら、自分たちで手作りしました。

――窯ってどれくらいの頻度で焚くものなんですか?
フジタさん:教室では普段ガス窯で焼成していて、薪窯を焚くのは年1、2回ほどです。薪窯は1回火を入れると丸2日、48時間は焚き続けます。なので焚く際には近隣の方々の了解をとり、消防署にも届け出をします。窯としては小ぶりですが、窯内は最高で1250℃にもなります。

コロナ禍だからこそ、心落ち着かせる時間を陶芸で。
――作品を拝見すると、木や家、動物などのモチーフが多いですね。
フジタさん:そうですね。身近にあるものを題材とすることが多いかもしれません。


――でもどこか幻想的というか、現実離れした感じも受けます。
フジタさん:そうですか。できるだけ自然に、シンプルにということは心がけています。木や家って、自分の居場所があるというか、見ているとどこか心が落ち着きませんか?
――コロナ禍の今こそ、心を落ち着かせるのは大事かもしれませんね。コロナといえば、「ステイホーム」の長期化に伴い、陶芸のようなじっくりやれる趣味に注目が集まっていると思いますが、いかがですか?
フジタさん:観光の方向けの一日体験はもちろん減ってしまいましたが、何かとストレスの増えた今、必要な息抜きとして陶芸にも目を向けてもらえればありがたいですね。作陶でコロナのストレスを忘れて、気分よく楽しい時間を過ごしてもらえればと思っています。
――本日はありがとうございました。


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