時代劇のロケ地に選ばれることも多い純和風の建物と庭園が見事な、関川村の「東桂苑」。近年、カフェやワーキングスペースとしても利用できるようになりました。今春には、村の地域おこし協力隊員として元パティシエの女性が同館に着任。スイーツを中心にメニュー開発を進めラインナップを拡充しています。次々と新メニューの開発に取り組んでいる当の吉田さんに、いろいろお話を伺ってきました。
東桂苑
吉田 美香 Mika Yoshida
1986年旧山北町(村上市)生まれ。高校卒業後に上京、専門学校で製菓を学び、卒業後も都内の製菓店やカフェ、結婚式場などでパティシエとして働き腕を磨く。ワーキングホリデーの制度を活用してパリで働きながら周辺各地を旅した経験も。今春、夫とともに関川村に移住。同村の地域おこし協力隊員に就き、カフェやワーキングスペースとしても活用されている村の歴史的建造物「東桂苑」で働きながら、メニューや村特産品の開発に取り組んでいる。
――とても風情のある建物と庭園ですね。ここで喫茶が楽しめるなんて、とても贅沢な気分になります。
吉田さん:ありがとうございます。そうですよね、私もこの4月から働き始めたばかりなのですが、とても心が落ち着きますよね。今の季節であれば新緑が目に優しく、働いていてもとても気持ちがいいです。撮影にもよく使われているようで、最近では今年公開の日本映画『峠 最後のサムライ』のロケも行われたそうですよ。
――そうなんですね。吉田さんはこちらでどんなお仕事を?
吉田さん:関川村の地域おこし協力隊員として、こちらのカフェでスタッフとして働きながら、提供するメニューを開発しています。協力隊としての任務の柱は、村の「名物」、特産品の開発なので、3年の任期中になんとかかたちにできるようがんばっています。
――なるほど。今日いただいたスイーツも吉田さんが開発したというわけですね。とても美味しかったです!
吉田さん:ありがとうございます! これまでに、「桑の葉シフォンケーキ」「甘酒ブリュレ」「猫ちぐらモンブラン」「そば茶のミルクプリン」「ヨモギと胡桃のクッキー」「そばの実クッキー」の6品をメニュー化できました。できるだけ地場の素材を使いながら、美味しいだけじゃなくてこの地域らしさが出せればいいなと思って日々開発に取り組んでいます。
――え、まだ就任して2カ月ちょっとですよね? すごいハイペースじゃないですか?
吉田さん:おかげさまで順調です(笑)。周囲の方々のご協力はもちろんですが、近くにある「雲母里」という村の食品加工場を日常的に使わせてもらえているのも大きいかもしれません。もともと農産物の加工、6次産業化のために整備されたとのことで、充実した設備で、思いついたらすぐに試すことができるので。
――そうなんですか。メニューのアイデアはどうやって思いつくんですか?
吉田さん:もともと協力隊としての任務が村の名物、お土産になる食品の開発だってこともあって、村にある素材からアイデアを膨らませる場合が多いですね。「お題」から考える、というか。甘酒もそばもそうですし。「猫ちぐらモンブラン」にしても、最初にモンブランを作ろうと思ったのではなくて、村の名産品・猫ちぐらをお菓子で表現しようと考えた結果、モンブランになったんですよね。猫ちぐらとモンブランって、似てませんか?(笑)
――確かに似てる(笑)
吉田さん:ただ、村内にあるものだけで考えると、一定の量が確保できなかったり、幅が狭くなってしまったりもするので、素材については近隣の地域にまで範囲を広げていければなぁとは考えています。東桂苑が休館になる冬期を、それについて勉強したり視察したりする時間に充てようと思っています。
――今後はどんなメニューを予定していますか?
吉田さん:現在は夏に向け、「かき氷」のメニューを思案しています。村は自然が豊かで清流として知られる荒川、その支流の大石川や女川も流れ、水のきれいなイメージがあるので、そのこともアピールできないかな、と。
――吉田さんのことについても教えてください。関川村に移住したと伺いましたが、もともとのご出身は?
吉田さん:現在はお隣の村上市になっている、旧山北町です。高校卒業後に上京してからはずっと東京で、夫も都内出身なのですが、今春ふたりでこちらに移住してきました。
――移住のきっかけは?
吉田さん:コロナ以前から、いつかまた緑に囲まれた暮らしがしたいとぼんやりと考えてはいたんです。でもそういうテレビ番組を「いいなぁ」って思いながら見ているくらいで(笑)、特に具体的な行動に移してはいなかったのです。でもまずは考える材料を仕入れようと思って、全国から自治体が集まる移住相談フェアに夫と行ってみたんです。去年の1月とかですね。
――ほうほう。その時点で、まだどこに行きたいとかはまったく?
吉田さん:そうですね。ただ、私の実家のある新潟がいいかなとは思っていて。そうこうするうちに、地方転職の求人を探していた夫が関川村役場の社会人採用を見つけて応募したら、あれよあれよという間に選考を進んで内定をいただいたんです。実家も近いし、それで関川村に決めました。
――住み心地はいかがですか?
吉田さん:住居は村の空き家バンクを活用して選んだのですが、すぐに決められました。水の音や鳥の声が心地よく、思い描いていたイメージ以上で、夫婦ともども楽しく暮らせています。移住について調べているときはネットなどで「失敗談」も目にしていたのですが、大家さんやご近所、地域の方々もとても温かく、心配は杞憂でした。東京に住んでいたときは大嫌いだった車の運転さえ、ここに来てからはむしろ好きになっちゃいました(笑)
――協力隊になり、ここで働くことになったのは?
吉田さん:最初はどこか近隣のカフェで働こうかなと思っていたんですが、コロナ禍もあってか求人があまりなくて困っていたところ、役場の方が協力隊の募集を紹介してくれて。パティシエとしての自分の経験を活かせる内容だったのですぐに応募し、採用していただきました。
――なんというか、話を聞く限りでは、すごくトントン拍子に事が運んだんですね。
吉田さん:はい、自分でも、導かれてここに来たような感じがします(笑)。とてもありがたいです。
――改めて、仕事への意気込みを教えてください。
吉田さん:自分のやれることで移住先の役に立てることに、どこか運命的なものを感じています。チャンスというかラッキーというか、ちゃんと自分と向き合う機会を与えてもらったような。これから上手くいかないことや失敗もあるかもしれませんが、自分から逃げずにしっかりやり遂げたいと思っています。
――メニューに対するこだわりのようなものはありますか?
吉田さん:こだわりと言っていいのか分かりませんが、レシピを作って終わりではなく、メニュー化後もより良くなるよう少しずつ変化・改善させていっています。味も見た目も、自分の理想に近づけ、お客様の反応も見ながら。
――協力隊の任期は3年ですが、最終的には?
吉田さん:協力隊としての主要任務は村の名物、特産品をつくることなので、そうやって変化や改善を重ねた先に、それがあればいいなと思います。3年後、「やりきった」と素直に言えるように、自分だけでなく、周りにも認めてもらえるような成果を出せればと思っています。
――意気軒昂ですね! 見習わなきゃ。本日はありがとうございました。
〈カフェメニュー〉
コーヒー 300yen
ジュース(ラムネ・オレンジ) 200yen
ノンアルコールビール 200yen
サブレ(かぼちゃ・アーモンド) 200yen
アイス シングル 200yen
ダブル 350yen
猫ちぐらモンブラン 400yen
そば茶のミルクプリン 400yen
糀甘酒のブリュレ 300yen
クッキー各種(お土産) 100yen
そば各種 600-700yen
※デザート、そばは土日祝のみ
〈東桂苑OFFICE〉(2階ワーキングスペース)
9:00-17:00 ネット環境、複合機、会議用モニター完備
1人1時間あたり 400yen
1人3時間以上 1,000yen
1部屋終日 4,000yen
〈貸切〉(ロケ撮影、催しなど)
全館 10,000yen/日
座敷 6,000 yen/日
碁天の間 2 室 3,000yen/日
6畳1室 1,000yen/日
※土日祝は碁天の間 2 室のみ貸切可能
冬期は休館