江南区のお料理教室「waktak cooking class(ワクタク クッキング クラス)」。新潟に移住し、農業を経験した徐さんが、食材とじっくり向き合う「食のあり方」を教えてくれます。お料理教室のことや、来日したばかりの頃に驚いたことなど、徐さんにいろいろと聞きました。
waktak cooking class
徐 紅英 Jo Kouei
1978年中国生まれ。短大卒業後に来日。日本語学校と大学で学び、家電メーカーに就職。結婚を機に2012年に新潟に移住し、夫婦で農業に従事。2022年に食品の加工・販売、料理教室「waktak cooking class」を事業とする「株式会社ワクタク」を設立。代表取締役社長を務める。食べることが大好き。
――徐さんは、日本のどんなところに興味を持ったんですか?
徐さん:今でいう「韓流ブーム」みたいなもので、以前私の故郷では日本のドラマや音楽がすごく流行っていたんです。「いつか日本に行ってみたい」とずっと思っていて、中国の短大を卒業してから来日しました。
――そのまま日本で就職するお考えだったんですね。
徐さん:せっかく日本語を勉強したので、日本の企業で働いてみたかったんです。
――来日して驚いたこと、覚えていますか?
徐さん:梅干し、ラーメンの味にびっくりしました。「酸っぱいものをしょっぱくする」梅干しの発想にとても驚いて。ラーメンは、しょっぱいどころか濃厚で油がたっぷり。穏やかで美しい日本のイメージとは違って、食べものはハードなんですよ(笑)。酢飯にも馴染みがなかったので、「お寿司まで酸っぱい」と、とにかく不思議でしょうがなかったです。
――ご結婚されて新潟にいらしたそうですね。新潟の印象は、どうでしたか?
徐さん:日本の食文化にはすっかり慣れていたんですが、新潟に来て「まだまだ美味しいものがたくさんある!」と感動しました。お米はもちろん、果物やお水など、自然に恵まれた食材が本当に豊かで。
――関東の生活とは変わりました?
徐さん:田舎でのんびりできると思ったら、そうでもなかったですね(笑)。関東より新潟で暮らす方が、ずっと忙しくて。夫婦で農業をはじめたので、いつも農作業と手仕事に追われているんです。
――「手仕事」とは、具体的にどんなことを?
徐さん:今の時期だと、梅の手仕事。収穫した梅を大きさごとに選別して、ヘタを丁寧に取り除きます。そういった作業は、新潟で初めて経験しました。
――なぜ、農業をはじめることにしたんでしょう?
徐さん:夫の影響が大きいですね。彼がすごく楽しそうに仕事をしていたので。自分の手を動かして何かを作り出すって、楽しいものですね。
――2022年に「株式会社ワクタク」を設立して、食品販売や料理教室「waktak cooking class」をはじめられました。農業から事業転換されたのは、なぜでしょう?
徐さん:私は朝鮮文化の中で育ち、子どもの頃から両親が漬けたキムチを一年中食べていました。新潟に来て7年ほど経った頃、子どもに「故郷の文化を伝えたい」と思うようになって。それで、自家製のキムチを漬けることにしたんです。それをきっかけに梅干しやキムチの加工・販売をはじめました。梅干しは通年、キムチは冬の間だけ販売しています。
――お料理教室では、どんなメニューを教えているんですか?
徐さん:1月は「春食」、2月は「麻辣」、3月は「満腹」、4月は「常備菜」など、月ごとにテーマを設けています。7月は、「夏の薬膳食養生」について教えますよ。
――ユニークなテーマですね。
徐さん:料理教室というと、レシピを伝えて、レシピに沿って調理をするイメージがあると思います。でも大事なのは「なぜこのメニューを作るのか」だと思っていて。例えば、ナムル。定番は、ほうれん草やニンジン、もやしを使うレシピですが、すべての野菜をナムルにすることができるんですよ。しかも本場では、具材を炒めて調理したものも「ナムル」と言います。大事なことは、自分や家族か食材をどんなふうに食べたいか。「こうするべき」という考えはどこかに置いておいて、もっと広い視野でお料理を伝えていきたいなと思っています。
――ついついレシピ通りに作りがちなので、勉強になります。
徐さん:料理をするとき、みりんやお酒を使いますよね。生徒の皆さんには、「なぜ、それを使うのか」をもっともっと理解していただきたいと思っているんです。レッスンには当然レシピをご用意しているんですけど、体調や気分に合わせてアレンジするのは大歓迎。食材と対話することを大事にしている料理教室だと思います。
――レシピは、ひとつの模範例に過ぎないってことですね。
徐さん:不思議なもので、毎日同じように調理をしても、仕上がりに違いが出ます。ましてや自宅のキッチンでは、ここで食べた料理と同じものはできないんですね。道具も火加減も違うわけですから。それが、料理のおもしろさなんですよ。私は生徒さんに、食材との向き合い方や食文化への感性を養ってもらいたいと思っていて。なのでテキスト代わりに作成している冊子には、私たち夫婦のエッセイやお花の先生のコラムなども添えています。
――法人を立ち上げられてからの約3年間は、どんな時間でしたか?
徐さん:「waktak cooking class」を長く続けるためにどうしたらいいか、生徒さんにもっと満足いただけるようにするにはどうしたらいいのか、常に考えています。そういう意味では、ずっと挑戦しているかな。大変なこともたくさんあるんですけど、「残せているな」と感じています。
――「残せている」というと?
徐さん:生徒さんに私の思いを伝えることができていますし、冊子や商品としてかたちに残せています。生徒さんの食卓に「waktak cooking class」の料理が並んでいることもそうですよね。「教えてもらった料理、たくさん作りましたよ」「レシピなしで作れるようになりました」って声を聞くと、この仕事をやっていてよかったなと思います。
waktak cooking class
新潟市江南区二本木1-4-19