真新しい雁木のアーケードが続く加茂市の商店街。その一画に明治29年から130年近く続く老舗「涌井金太郎商店」があります。お店の看板には、熊ではなく笹団子にまたがってマサカリを担いだ金太郎の姿が。お店に入ると優しい笑顔の五代目店主・涌井さんが迎えてくれました。
涌井金太郎商店
涌井 陽 Hiroshi Wakui
1979年加茂市生まれ。東京の大学を中退後、新潟に戻って飲食店や紳士服店で会社員として働く。病に倒れた父の跡を継ぐため、2004年より家業の「涌井金太郎商店」に就業し、現在は五代目店主として切り盛りしている。ドライブが好きで印象に残っている旅先は岐阜県の飛騨古川。
——店名に「金太郎」っていう言葉が入っていますけど、昔話の金太郎にゆかりのあるお店なんですか?
涌井さん:いえいえ(笑)。創業者の名前が、初代涌井金太郎だったんですよ。ちなみにこの「金太郎」という名前は代々襲名しているものなので、私も襲名しなければならないのですが、手続きが面倒で先延ばしにしているんです。
——へぇ〜、それは珍しい。でも自分の名前が変わることに抵抗はありません?
涌井さん:少しありますけど、今でも「金ちゃん」ってあだ名で呼ばれていますからね。周囲の人たちが面白がって「早く襲名しろ」って言ってくるんです(笑)
——涌井さんは、最初からお店を継ごうと考えていたんですか?
涌井さん:考えていなかったですね。子どもの頃から、休みもなく夜遅くまで働いている親の姿を見てきたので、自分で商売をするより会社勤めを選んだんです。
——それがお店を継ぐことになったのはどうして?
涌井さん:25歳の頃に父が病に倒れ、祖父母から店を継いでほしいと相談されたので、店を継ぐことを決心しました。
——よく決心しましたね。
涌井さん:身近にあることが当たり前だった「涌井金太郎商店」が、いざなくなるかもしれないという現実を目の前にしたら、自分の代でなくすわけにはいかないと思ったんですよね。
——サラリーマンから自営業になって、いろいろ苦労も多かったんじゃないですか?
涌井さん:お菓子づくりや店のことを教えてくれていた父と祖父が、1年くらいで続けて他界してしまったんです。まだまだ菓子店の仕事をはじめたばかりの素人だったので、それからはお菓子づくりはもちろん、お店の経営もうまくいかない状態が5〜6年続きましたね。
——それは大変でしたねぇ……。
涌井さん:私はそれまで飲食店や紳士服店で働いていたんですけど、来店されたお客様の接客をしているだけだったんです。ところが店を経営する立場になったので、今度は自分で販路をつくり出さなければならなくなったんですよ。
——うまくいかない状況を打開できたのはどうしてなんですか?
涌井さん:ひとつは地元の加茂で菓子店を営む、同業の皆さんの協力があったからです。本来は商売敵である私に対して、お菓子づくりの技術を教えてくれたり、経営のアドバイスをしてくれたり、手を差し伸べて協力してくださったんですよ。加茂の人達のあたたかさには今でも感謝しています。
——聞いているこちらも、あたたかい気持ちになりますね。
涌井さん:もうひとつは、いろいろな方々と出会うことで刺激を受け、いろいろと改善してきたことが実を結んだと思います。今までは水ようかんを箱に入れただけでしたが、商品をイメージした帯をつけたことで道の駅から引き合いがありました。「ふるさと納税」や「新潟直送計画」といった通販サイトへ出品したことで販路が広がりましたね。
——看板商品は笹団子なんですよね。どんな笹団子なのか教えてください。
涌井さん:県央地域ならではの「ごんぼっ葉」を使った笹団子なんです。「ごんぼっ葉」っていうのは「オヤマボクチ」という野草の葉で、これを入れることで風味とコシが強くなるんです。下田地域では100%使われるんですけど、うちはヨモギにブレンドすることで柔らかさも残すようにしています。
——へぇ〜。他にも特徴はあるんでしょうか?
涌井さん:蒸さずに煮てつくることで、さらに柔らかさが増して笹の色も綺麗に仕上がるんですよ。
——確かに笹の色が青々しているように感じますね。他にもおすすめ商品があったら教えてください。
涌井さん:水ようかんも期間限定の看板商品です。あたたかい季節は傷みやすいので、10月中旬から4月中旬までの期間に気温を見ながら提供しています。特徴としては自家製の金時豆を煮汁ごと使っていることですね。
——この水ようかんは甘さ控えめで食べやすいですね。あと、どら焼きの種類も揃っていますけど、おすすめはあるんでしょうか?
涌井さん:スタンダードなどら焼きがいちばん人気ですけど、「みそくりどらやき」がおすすめです。どら焼きの皮に味噌が練りこんであって、白あんの中に栗が丸ごとひと粒入っているんです。皮に味噌を練り込むと焼くときに焦げやすくて何度も失敗しましたが、おかげさまで味噌の風味を楽しめるどら焼きが生まれました。
——変わっていて気になるどら焼きです。ところで、こちらの商店街は新しくて綺麗ですよね。
涌井さん:今までは一方通行の狭い通りだったんですけど、ようやく道幅を広げて対面通行になりました。電線を地中に埋めてあるので景観もすっきりしていますし、路上駐車用のスペースまであるんです(笑)。歩道の雁木は不燃材が開発されたことで実現したそうです。
——誰もが訪れやすい商店街になったのではないでしょうか。
涌井さん:私は地元の皆さんに助けていただいたので、これからは地元への恩返しのつもりで商店街や加茂市を盛り上げていきたいです。
涌井金太郎商店
加茂市新町2-3-10
0256-52-0237
8:00-17:30
不定休