『刀剣乱舞』『鬼滅の刃』といった人気ゲームやアニメの影響で、女性を中心とした「刀剣女子」と呼ばれる刀剣ブームが続いています。そんな「刀剣女子」たちも訪れているのが、長岡市にある「与板鍛治体験工房(よいたかじたいけんこうぼう)」。与板町に伝わる伝統工芸の打刃物製作を体験できる施設なんです。今回はこちらで指導にあたっている若手の鍛治職人・島田さんにいろいろなお話を聞いてきました。
与板鍛治体験工房
島田 拓弥 Takuya Shimada
1988年神奈川県生まれ。東京の大学を卒業して、都内のインターネット通販会社に就職。2017年に地域おこし協力隊として与板に移住。鍛治職人としての修業をはじめ、「与板鍛治体験工房」オープンとともに講師になる。趣味は料理でトンカツをよく作っている。
——こちらの「与板鍛治体験工房」はいつ開設したんでしょうか?
島田さん:2017年の6月です。ここは古見誠一(ふるみせいいち)さんという鍛治職人が使っていた工房だったんです。伝統ある越後与板打刃物の技術を継承して、後継者を育成することを目的に開設されました。
——与板の打刃物って、長い歴史があるんでしょうか?
島田さん:戦国時代に上杉謙信の四天王のひとり・直江大和守実綱(なおえやまとのかみさねつな)が春日山から与板に刀剣師を連れてきたのが起源といわれています。それ以来400年以上にわたって伝統技術が受け継がれて、1986年に「伝統的工芸品産地」として国の指定を受けたんです。
——へぇ〜、そんなに長い伝統があるんですね。
島田さん:でも鍛治職人の高齢化が進んで、後継者もなかなか育たないことから、現在与板には5人しか鍛治職人がいない状況なんです。
——じゃあ存続という点ではかなり危機的状況なんですね。島田さんはいつから「与板鍛治体験工房」の講師をしているんですか?
島田さん:実をいうと開設してすぐの第一回目から講師をしていたんです。まだ鍛治修業をはじめたばかりで自分も教えてもらっているのに、人に教えていたんですよ(笑)。若者が少ないのでしょうがないんですよね。
——そうだったんですね。鍛治体験に参加するのって、どんな人たちなんですか?
島田さん:いろんな目的で参加する人がいますよ。職業として鍛治の技法を身につけたいという人もいれば、夏休みの自由研究のために参加する親子もいます。最近は人気ゲームの影響で「刀剣女子」も体験に来ますね。他の地域ではできない体験なので、県外からわざわざ足を運ぶ人が多いんです。
——どんなことを体験できるんでしょうか?
島田さん:熱した地金(じがね)に鋼を乗せて、叩きながら接合する「鍛接(たんせつ)」という工程からはじまり、整形や焼き入れなどの様々な工程を経て「切り出し」を製作します。だいたい2時間半で完成ですね。
——自分の手で刃物が作れるのって感動しそうですね。どんなことを心がけて体験の指導をしていますか?
島田さん:何よりもまず、安全に作業していただくことに気をつけています。火の前にいるときは特にケガのないよう、安全に作業してもらうことしか考えていません(笑)
——安全面以外ではどうですか?
島田さん:皆さん、自分の手で作った製品が欲しくて参加していると思うんですよ。だからなるべく手を出さないようにして、参加者の手で作業してもらうように心掛けています。本当は手を出したくなっちゃうんですけどね(笑)。あと、できるだけ参加者の要望を取り入れるようにしています。完成品を見て喜ぶ姿を見ていると、教えた甲斐があったと感じて、こちらも嬉しくなりますね。
——島田さんが鍛治職人を目指したいきさつを教えてください。
島田さん:そもそもじいちゃんが大工をやっていたので、僕も大工に憧れていたんですよ。でも大工が使う道具に興味が移っていって、大工道具を作る仕事を探してみたんです。そうしたら、与板町で鍛治職人の後継者を育てるための地域おこし協力隊を募集していたんですよね。それに参加するかたちで与板町に移住して、鍛治職人としての修業をはじめました。
——鍛治修業をしてみて、どんなことを感じました?
島田さん:最初はできないことばかりだったので苦労しましたけど、生まれ故郷を離れて背水の陣で与板に来たわけだから、とにかくやるしかなかったですね。修業をはじめてひと月で仕事が回ってくるんですけど、未熟だから慌ててケガしちゃったりするんですよ。
——やっぱりケガはありましたか?
島田さん:ありましたね。機械に手を挟んじゃったりして……。普段当たり前にできることができなくなっちゃうんですけど、仕事は容赦なく回ってくるので、使えない右手の代わりに左手で作業するんです。そういうときに先輩の職人たちから「ケガは自分持ちの責任」と言われました(笑)
——なかなか厳しい世界ですね。
島田さん:苦労した分、元を取れるように頑張ろうと思っています(笑)
——でも、建築業界では大工道具の需要が減っていると聞きます……。
島田さん:確かに大工道具の需要は減っていますけど、まったくないわけじゃないんです。二極化が進んでいるだけなので、道具を使わず作れる住宅や家具もあれば、道具にこだわる大工や木工職人もいるんです。そんな職人に納得していただけるような道具を作って、認めていただけるような鍛治職人になりたいですね。僕は主にカンナを作っているんですけど、削った木の肌が生まれたての赤ん坊みたいにツルツルになって、仕事に厳しい大工さんからも喜んでいただけたときは嬉しかったですね。
——島田さんは鍛治仕事のどんなところに魅力を感じていますか?
島田さん:なかなか上手くいかないところです。同じものを作り続けるのが、こんなに難しい仕事は他にないんじゃないでしょうか。同じものを作っているのに、毎回初めて作るような気持ちになれるんです。
——うわ〜、めっちゃ難しそう。
島田さん:そういうのが難しいところでもあり、面白いところでもあるんですよね。できるだけ早く仕事を覚えて独立をして、一人前になったら今度は弟子を取りたいと思っています。そして与板打刃物の伝統技法を後世に伝えていきたいですね。
与板鍛治体験工房
長岡市与板町東与板369-1
0258-72-2303