新潟市西区に今年オープンした「中華そば 西巻流」。その店主の顔に見覚えがあるなと思ったら、それもそのはず、鯛だしラーメンで話題を呼んだ人気店「らぁ麺 鯛あたり」の元店主・西巻さんでした。私も何度か取材でお世話になった方です。「西巻流」を始めたいきさつや、新しいラーメンへの挑戦について、西巻さんにお話を聞いてきました。
中華そば 西巻流
西巻 孝 Takashi Nishimaki
1956年新潟市西区生まれ。工業高校卒業後、アイスリンクのボイラーメンテナンスの仕事をはじめ、喫茶店の店長、ロシア料理店の調理スタッフ、内装業者を経て、新潟市の大手ラーメンチェーンに35年間勤める。2015年に独立して「らぁ麺 鯛あたり」を新潟市東区でオープン。今年、新潟市西区で「中華そば 西巻流」をオープン。趣味はバイクとソロキャンプ。
——どうもご無沙汰しています。今日は久しぶりに取材させていただきますので、よろしくお願いします。
西巻さん:俺なんか取材しても、なんにも面白い話なんかできないよ(笑)
——たくさんいい話が聞けると期待していますよ(笑)。西巻さんは新潟市の大手ラーメンチェーンでは古株だった方ですよね。まずはその会社で働きはじめたときのお話からお願いします。
西巻さん:店舗設計をやっていた同級生から、「新規のラーメン店の店長を探している人がいる」って誘われたんさ。話を聞いてみると福利厚生もちゃんとしてたから引き受けることにしたんだよ。ちょうど子どもも生まれたばっかりだったし。
——新規で店長、ってことは1号店の店長だったんですね。 失礼ですけど、そのときラーメンづくりの経験はあったんですか?
西巻さん:喫茶店とかロシア料理の経験はあったんだけど、ラーメンはなかった。ラーメンもロシア料理も同じようなもんだろうと思っていたら、まったく違ったんだよな(笑)。だから社長と一緒に他のラーメン店や製麺機メーカーで勉強したり、試行錯誤したりしながらラーメンづくりをしたんさ。まともにお客さんに出せるようになるまでは3ヶ月くらいかかったね。
——製麺機……じゃあ、その頃から自家製麺だったんですか?
西巻さん:そうそう。社長がうどん屋出身だったから手打ち麺にこだわってたんさ。新潟市ではまだ自家製麺をやっているラーメン店ってなかったんじゃないかな。でも最初はなかなかうまくいかなかった。ぶつぶつ切れちゃってね。仕方ないから短いままお客さんに出して「ここの麺って、こんなに短いんだ?」なんて言われてさ(笑)
——それは大変でしたね(笑)。西巻さんが最初に店長をやられたお店のラーメンはこってりした背脂ラーメンのイメージがありますけど、最初からそういうラーメンだったんですか?
西巻さん:いや、1号店は古町にあったから、飲んだ後に合うあっさりした中華そばだった。こってりした背脂ラーメンを始めたのは女池の3号店から。1号店のラーメンはあっさりしていたから、チャーハンとセットにしてみたら人気が出たんだよね。あの頃はまだセットメニューが珍しかったから。それで亀田にセットメニューをメインにした2号店を作ったら、日曜の昼どきは道路が渋滞するくらい当たったんだよ(笑)
——有名なラーメンチェーン店のレジェンドだった西巻さんが、どうして退社して独立することになったんですか?
西巻さん:社長が経営を他の会社に譲渡したんだよね。俺は社長と一からやってきたし、その社長がいなくなるなら残る意味もないじゃん。あと新しい経営方針との考え方の違いもあってさ。それで35年働いたグループを辞めることになったんだよ。
——独立してオープンした「らぁ麺 鯛あたり」は、鯛だしのラーメンが話題になりましたよね。
西巻さん:前職のラーメンチェーンで商品開発の仕事をしていたときに、だしの食材として鯛と出会ったんさ。鯛だしの優しい味わいに惹かれたし、乾物じゃない生の魚を使ってだしを取るラーメン店って他になかったから、挑戦してみようと思ったんだよ。
——店名通り「鯛あたり」の挑戦だったわけですね。
西巻さん:ところがオープンしてまもなく西日本豪雨があって、仕入れ先だった工場が浸水被害を受けて閉鎖してしまったんさねぇ……。そしたら仕入れ値が3倍になってしまったんだけど、始めた以上は辞めるわけにいかないしさ(笑)。1年くらいは赤字が続いたんだよ。
——それは大変でしたね。でも仕入れ値は元に戻ったんですね?
西巻さん:うん。戻ったけど、もともと儲かるラーメンじゃなかったんだよね。鯛だしじゃなくて、煮干しだしでやっとけば良かったと後悔したりしてさ。でも鯛だしラーメンは商売としてじゃなくって、職人として作ってみかったし、食べてもらいたかったラーメンだったんさ。
——食べる側としてはとても美味しくいただいてましたけど、経営は大変だったんですね。「大変」といえば、お店に車が突っ込む事故を2回も経験しましたよね。
西巻さん:どっちも営業中の事故だったんだけど、お客さんの少ない時間帯だったから、けが人が出なかったのは不幸中の幸いだったな。1回目なんて入口の幅ぴったりに店内まで車が入ってきたからね。思わず「いらっしゃい」って言いそうになったわね(笑)
——2回目はしばらく経ってからでしたよね。
西巻さん:4年後。オリンピックと一緒だから「店を直してもまた4年後に突っ込まれるんかな……」と思ったね。さすがに心が折れちゃってラーメン屋の引退も考えたんだけど、ちょうどそのときに誘ってくれたラーメン店があったから、そこにお世話になることになって「らぁ麺 鯛あたり」を閉めたんだよ。
——「中華そば 西巻流」はどういういきさつでオープンしたんですか?
西巻さん:ここは立地のせいか売上げが伸びない店舗が続いて、もう3回くらいお店が変わっているんさ。それで社長から「好きなようにやっていい」っていうことで任せてもらったんだよ。
——今回は鯛だしじゃなくって、濃厚な煮干しラーメンなんですね。
西巻さん:鯛だしは商売としては厳しいから、今回は煮干しで勝負しようと思ったんさ。でも他の店と同じことはしたくなかったから、自分流の煮干しラーメンを作ろうと思ったんだよ。それで店名を「西巻流」ってつけたんだよね。
——それにしても思いきった濃厚煮干しスープですよね。どんなところが「西巻流」なんですか?
西巻さん:濃厚な煮干しラーメンを作るときって、普通は煮干しの粉を多く使うんだけど、俺は煮干しにひと手間加えることで濃厚な味わいを出すようにしたんさ。ひとつひとつの作り方にひと手間加えて、他の店とは違った味わいを出すように心掛けているんだよ。
——西巻さんの経験の総決算を感じさせるラーメンですね。いつもラーメンをつくるときは、どんなことに気をつけているんですか?
西巻さん:全体のバランスには気をつけてる。まずはスープをつくるでしょ。つぎはスープに合う麺を探すわけ。最後にトッピングを合わせるんだけど、スープを壊さないものを選ぶようにしているね。
——なるほど。では最後に、今後はどんなふうに「西巻流」を続けていきたいですか?
西巻さん:新しいメニューを増やすっていうよりは、今あるラーメンをもっと美味しくバージョンアップしていきたいな。これからもよその真似はしたくないから「西巻流」でラーメンをつくっていきたい。
西巻さんの取材をするときは、ラーメン業界の知らなかった話を聞くことができ毎回とても勉強になります。今回の取材では、これまで聞くことのなかった西巻さんの経歴を詳しく聞くことができました。西巻さんが新しく挑戦する「中華そば 西巻流」の煮干し醤油ラーメンは、今まで味わったことのない、まさしく「西巻流」のスープです。ぜひ皆さんも一度足を運んでみてください。
中華そば 西巻流
新潟県新潟市西区亀貝80-3
025-211-8450
11:00-15:00
不定休