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僕らの工場。#31 職人の一鎚一鎚が生む銅器「玉川堂」。

燕市で鎚起銅器を製造している、1816年創業の「玉川堂」。「打つ。時を打つ。」をコンセプトに、経年変化を楽しみながら日常生活で長く使える銅器を製造販売しています。今回はそんな玉川堂の商品に魅かれ、海外企画担当兼営業として働いているマシューさんにいろいろとお話を聞いてきました。

 

株式会社玉川堂

マシュー・ヘッドランド Matthew Headland

1985年カナダ トロント生まれ。趣味はキーボード。日本酒が好きだがあまりお酒に強くはないため、いかに美味しく飲むかを考えて楽しんでいる。

 

英語講師として働きながら、鎚起銅器の魅力に気づく。

――マシューさんはどのような経緯で玉川堂さんで働くことになったんですか?

マシューさん:新潟県立大学でモノづくりのトークイベントに参加していたとき、同席していた玉川堂代表の玉川と出会ったんです。実際に働くようになったのはその2年後でした。私はもともと、国内外向けた新潟の日本酒のPRの仕事をしていて、その仕事の一環で英語の講師もしていたので、英語の先生として玉川堂に来るようになったんです。

 

――あ、まずは英語の講師としてのお仕事だったんですね。

マシューさん:その頃はまだ正社員ではなくて、週1回だけ来ていたんですけど、ここにくるのが一週間のうちでいちばんの楽しみでした。もちろん皆さん良い人たちばかりで、英語を教えている時間も楽しかったんですけど、そのあいだの時間に歴史や文化を学んだりするのがとても楽しかったんです。当時外国人のお客様が増えてきていて、英語の説明をお願いされたりもして、案内をすると、職人とお客様のあいだに入って通訳などをしながらいろんなことが学べるんです。商品をどのように使えばよいかとか、どういう技術が難しいとか。それを伝えることもすごく楽しくて、結果として玉川堂のモノを発信していきたいという気持ちになって、ここで正社員として働かせて欲しいと自分からお願いしたんです。

 

――そうだったんですね。

マシューさん:ひとつエピソードがあるんです。ちょっとストレスがたまって悩んでいた時期があって、そのときに、自分はネットからの情報を見すぎているんじゃないかと思ったんです。遠くの情報ばかり気にして、身近なことに気づけていないことが多いのではないかと思いました。それで、朝の時間を大切にしようと思ったんです。毎日5時くらいに起きるようにして、あえてゆっくり過ごして。でもただ起きてゆっくりしようってだけだと、なかなか習慣にならなくてうまくいかないんですね。ちょうどそのとき、玉川堂から14万円する珈琲ポットをお借りすることがあったんです。はじめは緊張しましたけど、でも逆に高価なものだからこそ、モノも時間も大切に使わなければもったいないという気持ちが湧いてきて。そう思えたら、朝早く起きて丁寧にゆっくりと珈琲をいれる習慣ができ、精神的なゆとりを取り戻すことができたんです。以前の自分であれば、14万円する珈琲ポットなんて考えられませんでしたが、実際に使ってみて買いたくなったので、今は貯金中です(笑)。

 

玉川堂の珈琲ポットで、人生観が変わった。

――玉川堂の珈琲ポットがきっかけで生活スタイルが変化したわけですね。

マシューさん:ディスプレイを見ないでぼーっとする時間がすごく大事だと気がつきました。朝日を見て感動して涙が出るくらい、感性も豊かになり、何もしない時間の大切さを知りました。使うモノ自体はおそらくなんでもよかったんですけど、職人さんの話を聞いたり、200年も受け継がれてきた技術で作られたモノを使っていたら、不思議と時間も大切にできるようになったんです。

 

――時間をかけて受け継がれてきたものだからこそ、伝わるものがあったのかもしれませんね。

マシューさん:朝の時間が大切にできるようになると、今度は嫁さんとのコミュニケーションもよくとれるようになりました。嫁さんは将来のことについて計画をしっかり立てたい性格で、ピリピリしていることがあったんです。私は将来のことを考えるのがあまり得意ではなかったんですけど、朝だとわざわざ考えようとしなくてもよいアイデアを思いつくことが多いんですね。そのおかげで、一緒に住んでいる嫁さんのこともちゃんと大事にできるようになったと思います。そんなこともあって、「玉川堂すげぇな」って思いました(笑)

 

――(笑)ある意味、人生を変えた商品に出会えたわけですね。

マシューさん:モノを大事にしようという意識は、30代に入ってからはじめて思えるようになりました。モノが良いからこそ大事にしたくなる。それまでは、100均で買ったモノなら壊れてもまた買えばいいじゃん、くらいに思っていたんです。でもモノって自分の日常に本当に必要なモノであれば、長く使うのがいいと思うんです。よいモノであれば壊れてしまっても修理をすればいい。モノを大事にすることで生活が豊かになりますね。それは人と人との関係についてもいえることだと気づくことができました。玉川堂に入社して、こういうモノに対する価値をもっといろんな人に伝えたいなと思いました。

 

 

――玉川堂で実際に今のお仕事をはじめてみて、お客さんとのやりとりで感じたこととかありますか?

マシューさん:商品を長く使ったお客様から修理の依頼がきたりするんですけど、戻ってきた商品を見ると「あぁ、こういうふうな使い方をしてくださっているんだ」とか「こういうかたちで日常に溶けこんでいるんだ」って気づくことができるんです。同じ商品であれば、最初は多少の個体差はあれど同じものですよね、でも長い間使ってもらったものは使う人によって色の変化が全然違うんですよ。使い手によって育てられる色が違うし、それはすべてよい味となるんですね。例えば湯沸かしで空焚きをしてしまって色が変わっても、それはそれで味になったっていう方もいます。逆に、修理をしてそれを新品に近い色に戻すこともできます。実際に長く使われた商品を見るのはとても嬉しいです。

 

 

マシューさん:ちなみにこれが新品(写真左)で、これが40年間使ったもの(写真右)です。元々は同じものですけど、全然違いますよね。これを使った方は火鉢とかにかけてかなり丁寧に扱ってくださっていたと思います。これは長い間使うからこそできる色合いなんです。使い込んでできた色っていうのは真似しようとしても作れないモノになります。

 

――すごい。それに、40年経って色が変わっても、劣化したようには見えないのが不思議です。

マシューさん:モノっていかに新品の状態を保つかっていうところが注目されがちかと思うんですけど、最近はそれも違うんじゃないかって思うようになりました。銅だから認知としては低いですけど、革製品とかと同じで、劣化ではなくて使い込むことで味として認めてもらいたいですね。使い込めば使い込むほどずっと変わり続けていきます。丁寧に使えば人間より長生きする一生ものとして使うことができます。

 

――デザインも現代風にアレンジされてきているんですか?

マシューさん:商品のデザインは時代によってもちろん変わってきていますし、技術が変わるにつれて使う材料も変わってきています。ただ、私たちの銅器に対する想いとか商品を製造販売している理念は、昔から変わりません。「打つ。時を打つ。」というブランドメッセージがあるんですけど、時間を大切にする、日常に溶け込み長く使える商品を提案するという世界観は変わらずですね。

 

スペシャルなものとしてではなく、日常に溶け込む当たり前のものとして使って欲しい。

――お客様に伝える上で、大事にしていることはありますか?

マシューさん:まず日常で普通に使って欲しいということです。特別な日にだけ使うのではなくて、日常に溶け込むように使い込んで欲しいです。日々使うことがいかに大事かってことを伝えていきたい。そうすることで自分の生活の仕方だったり見方が変わってくるんだろうと思っています。あとは実際に来て見てもらいたいです。ネットで買っていただくのももちろんありがたいし、会社としては成り立つんですけど、実際に職人の技を肌で感じてもらいたいですね。燕三条にあるイタリアン「Bit」というお店で、うちの商品が使われているのでそこで体験してもらうのもいいかもしれないです。

 

 

――最後になにか、今後のPRなどあれば。

マシューさん:本店にご来店いただければ、スタッフからマンツーマンで工場をご案内していますので、実際に作っているところを生でクラスパネルなしにご覧いただけます。有形文化財の建物の雰囲気や空間そのものを肌で感じていただけますので、ご興味のある方は気軽にお立ち寄りいただければと思います。

 

 

株式会社玉川堂

0256-62-2015

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