「とちお農園株式会社」の大竹さんを迎え、栃尾で生まれた栃尾産葡萄100%のワイン「T100K」の魅力を探る。ワインの製造過程においてキーポイントとなる“醸造”※を一挙に引き受ける唯一無二のパートナーである「越後ワイナリー」の青木さんにも合わせて話をうかがった。日本ワインの現状、特徴あるネーミングはどのようにして生まれたのか、その魅力に迫る。
※醸造:発酵作用を利用してアルコール飲料などを製造すること。ワインでの醸造は、葡萄を二度に分けて発酵させ、瓶に詰める過程を表す。
葡萄の杜
大竹幸輔 Kousuke Ohtake
1971年、旧栃尾市生まれ。大学進学を機に東京へ移住し、デザインの世界に惹かれる。デザイン会社での勤務を経て2014年にワイン作りの道へ。2017年にはワインを販売する拠点として「葡萄の杜」をオープン。メイン銘柄「T100K」のラベルデザイン、広告物全般のデザインも担う。
越後ワイナリー
青木茂晴 Shigeharu Aoki
1993年より新潟県産葡萄にこだわり、さまざまなワインを作っている越後ワイナリー(株式会社アグリコア)にてワイン人生をスタート。入社当初は自社製品をアピールする営業として活躍し、現在は醸造者。「T100K」の醸造にも携わり、毎年改良を重ねながら最高のワインを送り出している。
―まずお二人の関係についてお聞きしたいのですが。
:長岡市栃尾の大倉地域という場所で、私たちはドイツ原産の葡萄・ケルナー種という葡萄を栽培しています。その葡萄を青木さんが勤める「越後ワイナリー」さんで醸造してもらっています。なので、私ども(とちお農園)は葡萄を作り、青木さん(越後ワイナリー)に醸造してもらう関係というとわかりやすいですかね。
―原材料を作る。加工する。この二手に分かれているんですね。
:わかりやすくいえばそうですね(笑)。
―「T100K」というネーミングはどのようにしてつけられたんですか?
:昔は「栃尾ワイン」として販売していたんです。しかし、2018年に地名を商品につける場合は産地と醸造場所が同じ(または隣接)でなければならいという法改正が行われました。事前に青木さんからその情報をもらっていたので、どうするかなぁと考えていました。
:栃尾で葡萄を育てていますが、醸造する「越後ワイナリー」は南魚沼にありますからね。まだ魚沼だったらよかったんでしょうけど(笑)。
:そうなんですよね(笑)。ちょっとの距離が引っかかってしまい…。そこで改名することになったんですが、どうせ改名するならプラスに考えたいと思いました。飲食店でワインメニューを見ても、正直どれがなんなのかってわからなくないですか? なんとなく覚えた銘柄でも、長いカタカナばかりですし。そこで思いついたのが、記号みないたなネーミングです。ワインメニューのなかに記号みたいなメニュー名があったら目立つじゃないですか。なので栃尾の「T」、栃尾産葡萄100%使用の「100」、ケルナー種の「K」を並べました。
―法改正がキッカケだったんですね。
:2018年の法改正で地名をつけてはいけなくなった理由のひとつとして、ワインの種類が3つに分類された背景があります。外国から輸入して販売されている「輸入ワイン」、外国から葡萄を仕入れて作る「国内醸造ワイン」、そして市場の4%程度しか存在しない国内産葡萄100%で作られた「日本ワイン」です。もちろん「T100K」は栃尾産ケルナー種100%なので、希少な日本ワインです!
―ケルナー種という葡萄の特徴を教えてください。
:ケルナー種とはドイツが原産国の白ワイン用葡萄品種です。トロリンガーという黒葡萄と、リースリングという白葡萄の交配から生まれ、とても香り高い特徴があります。栃尾で育つケルナー種は洋梨やグレープフルーツのような香りのものが多いですが、今年(2018年度)は柑橘系の香りが少し強い印象でした。ちなみに北海道のケルナー種はマスカットのような香りが多いんですよ。
:確かに今年の葡萄は柑橘系の酸味がしっかりと感じられましたね。品種的には香りと酸味がしっかりとしているので、良い出来でした。
―ドイツも日本のように寒い国ですが、気候的にも合っている品種なんですか?
:そうですね。このケルナー種を育てている栃尾は寒暖差が激しく、冬はとても寒いので原産国のドイツに似ていると思います。あと、おいしい葡萄が育つヒミツは、土地の性質もあると思います。私たちは栃尾の大倉という場所で葡萄の栽培を行っています。この場所は火焔土器で有名な栃倉遺跡があり、狩猟採集生活を送った縄文人から受け継いだ土地でもあります。歴史ある場所での栽培ってこともあり、先人たちのパワーもあるのかもしれません。
:土地の性質もありますが、大竹さんたちの努力はもっと大きいと思っています。手間暇を惜しまず大切に育てられた葡萄です。葡萄本来の味を損なわないように醸造するのが、わたしたちの仕事だと思っています。
これからの展望を2人にうかがうと、返ってきた答えは「生産本数1万本を目指したい」だった。現在「とちお農園株式会社」では、1シーズンに約3,000本を生産している。単純に3倍だ。しかしこの数字は単純に売上を伸ばしたいからという理由ではなかった。「日本人なら日本ワイン」と思ってもらえるよう、もっとワインが身近にになって家でも気軽に飲んでもらえるようにとの願いがあるからだ。もちろんそこには、地域(栃尾)のためにはじめたワイン作りの輪をもっと広げ定着させたいとの思いもあった。お互いを信頼し合い、よりおいしいワインを作りたいという同じベクトルに向かって邁進する2人が生み出す「T100K」。これから毎年のようにそのおいしさが増していくこと、ファンが増えていくことは間違いない。飲食店のワインメニューに、まるで記号のような「T100K」の文字が現れたらぜひ飲んでみてもらいたい。きっとその1杯が「日本ワイン」との出会いのきっかけになるはずだ。
とちお農園株式会社(栃尾ワインの店 葡萄の杜)
新潟県長岡市栃尾本町3-11
0258-89-8960
株式会社アグリコア(越後ワイナリー)
新潟県南魚沼市浦佐5531-1
025-777-5877