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劇団主宰者が営む月潟の借景カフェ「牛のコーヒー」。

田んぼや果樹園の広がる新潟市南区に、今年、「牛のコーヒー」という変わった店名のカフェがオープンしました。その建物の側面には「月潟稽古場」という文字が書かれています。稽古場? どういうことでしょう。緑から黄緑に色が移ろいはじめた田園風景を眺めながら、オーナーの中嶋さんにお話を聞いてきました。

 

 

牛のコーヒー

中嶋 かねまさ Kanemasa Nakajima

1973年新潟市南区(旧月潟村)生まれ。新潟大学人文学部卒業。高校の演劇部に入部したことをきっかけに演劇がライフワークとなり、仲間たちと「劇団一発屋(2回目公演より「もう一発屋」に改名)」を結成。2006年より「劇団ハンニャーズ」として活動を続ける。サラリーマン生活に終止符を打ち、2022年に南区でカフェ「牛のコーヒー」をオープン。

 

カフェのマスターは、劇団の主宰者。

——建物に「月潟稽古場」って書いてあるんですけど、ここって昔は何かの稽古場だったんですか?

中嶋さん:私は「ハンニャーズ」という劇団を主宰していて、この建物は今もその稽古場なんです。倉庫だったスペースをリノベーションして「牛のコーヒー」をオープンしたんですよ。

 

 

——「劇団ハンニャーズ」って名前、よくお聞きしますが、中嶋さんが主宰している劇団だったんですね。演劇をはじめたのは、どんなことがきっかけだったんですか?

中嶋さん:高校時代に演劇部に入ったことがきっかけでした。中学校まではずっと運動部だったので高校では文化部に入ろうかなと思って、部活紹介のとき演劇部の上演会を観てみたんですよ。そしたらその舞台が面白くなくて(笑)、どんどん観客が出ていってしまうんです。私もどのタイミングで出ていこうかとそればかり考えていました。

 

——舞台が面白くなかったのに、どうして演劇部へ入ることになったんですか?

中嶋さん:出て行くタイミングを逃してしまって、とうとう私ひとりが最後まで残ったんです。そしたら演劇部の先輩に「君は見込みがあるから演劇部に入部しなさい」って言われて。断れずに入ってしまったんです(笑)

 

——そんな流れで演劇の世界に足を踏み入れたんですね(笑)。でも、それからは演劇にハマっていったんですよね。

中嶋さん:最初に書いた台本が先輩や先生から「面白い」と褒められたんです。それが嬉しかったんですよね。その後、高校の演劇部で演劇大会に出場するようになって、高校2年生のときは関東大会まで勝ち進んだんです。ただ、それが自信につながった反面、上には上がいると思い知った体験でもありましたね。

 

 

——当時から才能があったんですね。高校卒業後はどんなふうに演劇を続けてきたんでしょうか。

中嶋さん:自分の人生を一度リセットしたくて大学に入ったので、その間は演劇活動をしないでフラフラしていました。でも、どうしても演劇をやりたいと思いはじめたので、高校時代の演劇仲間と「一発屋」という名前で劇団を結成しました。

 

——そ、その名前の由来は……

中嶋さん:結成したときは一回限りの公演のつもりだったんです。ところが二回目以降も公演することになったので「もう一発屋」に改名しました(笑)。そのまま11回も公演が続きましたね。

 

——「もう一発」が11回も続いたんですね(笑)

中嶋さん:そうなんです(笑)。さすがに2006年からは「劇団ハンニャーズ」に名前を変えて今に至ります。団員それぞれに人生がありますから、進学、結婚、出産といったそれぞれの環境の変化で劇団も大きく影響を受けるんです。会社勤めしながら演劇をやっていると、会社での地位が上がったり部署が変わって忙しくなれば、演劇に関わる時間も取りにくくなります。何度も解散の危機を迎えましたが、なんとか乗り越えて「劇団ハンニャーズ」を続けることができました。

 

——ひとりでできるものじゃないから、そういう問題も起こりますよね。

中嶋さん:私自身、社内の部署異動で環境が変わったことで、演劇に向き合える余裕がなくなってきたんですよ。50歳を目前にして、もっと演劇と向き合っていきたいと思ったので、思い切って会社を辞めてカフェ「牛のコーヒー」をオープンしました。

 

お店づくりの先生は、YouTube。

——倉庫のリノベーション、お金がかかったんじゃないですか?

中嶋さん:改装資金がなかったので自分でDIYしました。床を全部剥いで水平にするところからはじめたんです。最初はひとりでやるつもりだったんですけど、一週間で音を上げて仲間に手伝ってもらいました。おかげで人件費ゼロで店舗が完成したので、仲間の偉大さを心から感じましたね。

 

——それも中嶋さんの人望なんでしょうね。元々リノベーションの知識はあったんですか?

中嶋さん:まったくなかったです。だから全部「YouTube先生」で勉強しました。でも舞台の大道具みたいには、さすがにいかなかったですね(笑)

 

 

——YouTubeを見ただけで、ここまでの店舗が作れるもんなんですね。料理ももしかして……。

中嶋さん:「YouTube先生」です(笑)。ただ、さすがに自分で調理してみなければ、美味しく作ることはできませんね。何度も何度も失敗を繰り返して、失敗した原因を反省して改善することで、納得できる料理を作れるようになったんです。失敗しないと正解が見えてこないっていうのは、料理も演劇も同じですね。

 

——そうして作り上げたメニューのおすすめは?

中嶋さん:トマトパスタは最初から美味しく作れたんですよ(笑)。逆にプリンは山のように失敗を重ねたおかげで、今では人気メニューになっています。あと自家焙煎コーヒーは「YouTube先生」じゃなくて、東京でコーヒーに関わる仕事をしている従兄弟から、しっかり教わったので特に自信があります。

 

 

——ロゴマークにも店名にも牛が使われていますね。

中嶋さん:ロゴマークは牛の顔に見えるけど、実は違うんですよ。

 

——えっ、違うんですか?

中嶋さん:あれは旧月潟村の地形なんです。小学生のときに担任の先生から「月潟村は牛の顔に見えるんだ」と言われて以来、牛の顔に見えるようになってしまったんです。地元に住むみんなが当然そう見えていると思っていたのに、誰もそう思っていなかったことを知ったときはショックでしたね(笑)

 

——じゃあロゴや店名の表す「牛」というのは月潟地域のことだったんですね。

中嶋さん:月潟をはじめ周辺地域に暮らす人たちの、憩いの場になれたらと思っています。向かいの畑でゴボウ掘っているおばちゃんが、休憩がてらお茶飲みに来てくれるような場所にしたいんですよ。

 

 

——広々とした月潟の田園風景も眺められて、気持ちがいいですよね。

中嶋さん:ありがとうございます。ここで生まれ育った僕にしてみたら、ずっと眺めてきた原風景なんですけど、この風景を楽しみに来てくれるお客様も多いですね。水を張ったばかりの春先から、見渡す限り緑色の爽やかな夏、黄金色に変わっていく秋、真っ白な雪景色の冬というように、一年中楽しむことのできる風景です。

 

——カフェを営業しながら、演劇にもますます力が入りそうですね。

中嶋さん:そう考えていたんですが、私はカフェを少し甘く考えていたみたいです(笑)。仕込みに想像以上の時間がかかるので、演劇に携われる時間が今まで以上に減ってしまいました。今後は効率的にカフェ営業して、演劇と両立できるようにしていきたいですね。その上で、月潟の人たちから愛される場所になったら嬉しいです。

 

 

 

牛のコーヒー

新潟市南区大別當949-1

070-5547-4582

11:00-19:15(L.O)

月曜、第3日曜休

 

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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