新潟を拠点に活動するニット作家「une chaise(ユヌ シェズ)」。ニットというと秋冬のイメージが強いですが、この季節にも活躍するハットやポシェットも作っているそう。「une chaise」として活動する佐藤さんに、編み物をはじめたきっかけや作っている作品のコンセプトなど、いろいろなお話を聞いてきました。
une chaise
佐藤 遥 Haruka Sato
1994年新潟市生まれ。高校卒業後、文化服装学院に進学。在学中よりアルバイトしてた古着屋さんに勤めた後、群馬のニットブランドに就職し2年間働く。3年前に新潟に戻り、「une chaise」の名前でニット作家としての活動をはじめる。活動の傍ら編み物教室の先生も務める。
——佐藤さんは何をきっかけに編み物に興味を持ったんでしょう?
佐藤さん:東京で服飾の学校に通いながら古着屋で働いていた頃に、フィッシャーマンズセーターのような、手編みのセーターが流行ったんです。古着屋にあるニットとかを見ていて「自分で編んでみたいな」と思って、趣味として編み物をはじめました。専門学校では年に1回ファッションショーがあって、そこでニット科の子たちが作った衣装を着させてもらったり、フィッティングを見させてもらったりすることがあって、以前から「ニットってかわいいな」と思って興味があったんです。
——それまでも編み物はしたことがあったんですか?
佐藤さん:おばあちゃんが手芸全般できるので、教えてもらったことがあったんですよ。学生のときも、選択授業で知らず知らずのうちに編み物を選んでいましたね。だからそこまでハードルを高く感じずにはじめられました。
——佐藤さんは編み物のどんなところにハマったんでしょう?
佐藤さん:私はひとりっ子なので、ひとりの時間ができると「何しようかな」って考えるのが好きで。ゲームとかはそんなにしないんですけど、パズルゲームとかテトリスとか、組み合わせるようなゲームは今でもよくやっちゃうんですよね。そういう黙々とかたちを作っていくところが編み物も似ているんですよ。
——黙々と作業できちゃうものに熱中しやすいんですね。
佐藤さん:丸や四角を作るための正解があるところとか、かけ算に近いのかなって思います。頭を使う加減が程よく心地いいんです。
——それで、編み物を続けていくうちに「編み物を仕事にしたい」と思うようになったんですね。
佐藤さん:「編み物を仕事にするにはどうしたらいいんだろう」「どんな仕事の種類があるのかな」と思って調べていたときに、群馬のニットブランドを見つけて。手編みだけじゃなくて機械編みについても知りたかったし、すぐに「働かせてもらえませんか」って電話したら雇ってもらえることになったんです。ブランドに勤めながら近くのニット工場とやりとりするんですけど、そのときに工場で余ってしまった糸を貰うこともありました。そういう残糸の生かし方は今も考えていますね。
——新潟に戻って編み物作家としての活動に本腰を入れようと思ったのは、何かきっかけがあったんですか?
佐藤さん:群馬で、自分でコーヒー屋さんをやっていたり、ヨガの先生をやっていたりする同世代の子と出会って。「やってみないと何か必要かもわからないし、まずははじめてみたらいいんだよ」って言われたんです。コロナ禍真っ只中だったことや賃貸の契約が切れるタイミングとかも重なって、実家に帰って細々でも編み物作家として活動をはじめることにしました。とりあえずオンラインショップを立ち上げて、「une chaise」として作品を作りはじめて今年で3年です。
——「une chaise」ってどういう意味なんでしょう? 英語じゃないですよね。
佐藤さん:フランス語で「ひとつの椅子」という意味なんです。編んでいるときって椅子に座っていることが多いですし、家庭にあるもので、座って落ち着く場所というのであたたかみがあっていいなと思って。友達にロゴをお願いしたら、椅子の下に毛糸玉が転がっているイメージで文字を入れてくれました。
——「une chaise」のコンセプトはありますか?
佐藤さん:「足りないを編む」をコンセプトにしています。古着屋さんで働いていたときに「この服かわいい」と思っても、一点物なので「この首の開きが自分には合わないな」とか「プリントはかわいいけど袖が短いな」って思うことがあったんですよね。そういうちょっとした「足りない」を補いたいと思って、アームウォーマーとネックウォーマーから作りはじめました。今も秋冬はそういうものを作っていて、春夏は帽子とかバッグを作っています。
——「+ROOMy」というイベントも企画されているそうですね。
佐藤さん:バッグや雑貨を作っている「Com eddy」の美穂さんと一緒に企画しているイベントで、いろいろな作家さんとかを呼んで、これまでに4回開催しました。自分の好きなものをおすすめするような感覚で、来る人に楽しんでもらえるような空間を作りたかったんです。
——イベントを企画する上で大事にされていることはありますか?
佐藤さん:「8月は暑いしお休みにしよう」とか「『梅雨の時期でも行きたい』と思ってもらえるものを置こう」とか。そういう気分や季節もうまく汲み取りながら、心地よい流れを作りたいと思っています。「この作家さんの作品が好きな方なら、質感とかジャンルはぜんぜん違うけど、この作家さんの作品も好きなんじゃなかな」とかも意識しています。あとは「接点がなさそうなお店同士でも、このイベントをきっかけに仲良くなってもらえたらいいな」っていうおせっかい精神もありますね(笑)。これからも続けていきたいなと思います。
——「une chaise」として、これからどんなものを作っていきたいですか?
佐藤さん:最近は竹の持ち手とか、手に入れたパーツからインスピレーションを受けて「何を作ろうかな」って考えていくことが多いんです。そういうふうに、改造せずに足すことで生み出せるものに興味があって。オーダーを受けて作る一点物もパワーアップさせていきたいですし、その人とかモノとかに合わせて生まれ変わらせるということもやっていきたいですね。
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