昨年の夏に村上地域を襲った豪雨災害から一年が経ちました。多くの被害をもたらしましたが、今回ご紹介するパティスリー「HAPYY SUGAR(ハッピーシュガー)」もそのひとつ。復旧を機にリニューアルを遂げ、より上質な洋菓子を提供するお店へと生まれ変わりました。オーナーの細野さんを訪ね、どのようにリニューアルしたのかお話を聞いてきました。
HAPPY SUGAR
細野 智子 Tomoko Hosono
1983年村上市生まれ。大阪府の製菓専門学校卒業後、奈良県の洋菓子店で修業を積み、2010年に村上市で「HAPPY SUGAR」をオープン。趣味は6年前から続けている社交ダンス。
——どのケーキも見た目が綺麗で美味しそうですね!
細野さん:ありがとうございます。私がパティシエに興味を持ったのも、ケーキの見た目の美しさに心惹かれたからなんです。高校生の頃、パティシエブームが起こって、色鮮やかなケーキがテレビや本でよく紹介されていたんですよ。それを見て「パティシエってこんなに綺麗なケーキを作ることができるんだ」と感動して、パティシエになろうと決心しました。
——それで大阪の製菓専門学校に進学されたんですね。
細野さん:両親からは大学進学を勧められていました。でも、やりたいことがないのに大学へ行くことに意義を見出せなかったんです。両親はパティシエの厳しさを体験させようと、私を知り合いの洋菓子店でアルバイトさせたんですが、厳しさを知った上でますますお菓子作りの面白さにのめりこんでしまったんですよね(笑)
——諦めるかもしれないと思ったのに、逆効果だったわけですね(笑)。専門学校を卒業してからは洋菓子店で修業されたんですか?
細野さん:ブームの頃だけあって、人気のある洋菓子店は採用も順番待ちだったんですよ。それでなんとか奈良の洋菓子店で働けることになりました。早朝から夜中までずっと働き続けて睡眠不足なのに、精度の高いお菓子を作らなければならないので、四六時中ぴりぴりと緊張感が張りつめている職場でしたね。
——それはメンタルがもたなそう……。
細野さん:しょっちゅう怒られて泣いている人や、夜逃げしてしまう人もいました。
——細野さんは泣かなかったんですか?
細野さん:私は逃げた子を家まで迎えに行く役割だったので、泣いている暇がなかったんです。それまで怒られる経験がないまま育ってきたので、逆に怒られることを新鮮に感じていたりもしました(笑)。あと、そのお店のケーキがとにかく大好きだったので、それを学べることで他の辛いことは我慢できたんだと思います。
——好きなことをやっているから、厳しい職場でも耐えられたんですね。
細野さん:そのお店のことを反面教師にして、自分のお店がああいう職場にならないよう心掛けています(笑)
——新潟に帰ってきてからは「HAPPY SUGAR」をオープンされたんですよね。
細野さん:親から独立を勧められたんですけど、最初は自信がなかったんです。そこで経営やパソコンの勉強をしたり、お店の構想をしっかり考えたりしてからオープンの準備をはじめました。
——お店のイメージは頭にあったんでしょうか?
細野さん:「楽しくて可愛くて嬉しくなるお店」です(笑)。だから店舗もテナントではなく、自分のイメージ通りに新築することにしたんです。「HAPPY SUGAR」という店名にも「お砂糖がもたらしてくれる幸せ」という意味を込めました。
——でもその店舗が、昨年の水害で被害に遭われてしまったんですよね。
細野さん:そうなんです。お腹の高さくらいまで浸水して、冷蔵庫が一度浮き上がってひっくり返ってしまうほどでした。床板まですべて剥がして2週間掛かりで掃除をしました。大工さんが早い者勝ちの取り合いになっていて、修繕をお願いするのに3ヶ月待ちの状況だったんですよ。
——復旧するのではなく、お店をリニューアルすることにしたのはどうしてですか?
細野さん:10年間営業してきたなかで自分のスキルも上がってきたことや、年齢を重ねたこともあって、最初に立てたお店のブランディングとのズレを感じるようになっていたんです。以前は「とにかく美味しいものを作りたい」と思っていたんですけど、今では「もっと質の高いお菓子を作りたい」と思うようになってきたんですよね。
——リニューアルされて、お店をどういうふうに変えたんでしょうか。
細野さん: 楽しくポップなイメージから、上質な大人のイメージにチェンジしました。特に大切にしたのは「大切な方への贈り物」として耐えられる商品でありたいということです。感謝や愛を伝えるにふさわしいようなお菓子を作っていきたいと思いましたね。オーガニックをはじめとした、質のいい素材を使ったお菓子作りに徹底的にこだわるようにしました。普通はお菓子に使わないような高級素材も試してみて、美味しかったら迷わず使うようにしています。
——復旧やリニューアルの際に苦労したことも多かったんでしょうね。
細野さん:いちばん大変だったのは資金面ですね。補助金申請の書類を何枚も作って提出しました。あと大工さんがつかまらなくて困りましたけど、多くの人たちの力を借りることができて助かりました。本当に感謝しています。
——細野さんは、お菓子づくりの際に心掛けていることってありますか?
細野さん:自分の気持ちを整えることがいちばん大事だと思っています。嫌々作ると、ケーキの完成に影響するんですよ。だからメンタルも含めてコンディション管理が大切だと思っています。ケーキは自分の分身ですね。
——そんな自分の分身でもある商品のなかで、特にオススメのものを教えてください。
細野さん:看板商品のチーズケーキです。子どもの頃から好きで、自分の原点だと思っています。シンプルなケーキですけど、とことん素材にこだわって、いちばんいいグレードのものを厳選して使っているんです。贈り物にぴったりなオリジナルのギフト缶に入れて販売しています。
——見た目からも美味しさが伝わってきますね。「見た目」といえばカップケーキも色とりどりで綺麗ですよね。
細野さん:こちらは卵や乳、グルテンを使っていないヴィーガンスイーツなんです。お菓子作りに欠かせない素材を使っていないのに、とても美味しくできました(笑)。だからといって「ヴィーガン」を売りにするつもりはなくて、あくまで「新しい美味しさ」として取り組んでいます。
——そのあたりも、以前とは意識が変わった部分なんでしょか?
細野さん:そうですね。あと最近興味を持つようになったのは地元の食材です。地元にはたくさんの美味しいものや、生産者の思いが込められたものが多いことに気づいたので、そうした食材をケーキに託して世のなかに発信していきたいと思っています。
——素材へのこだわりがハンパないですね。
細野さん:丁寧に育てられた本物の素材で作られたケーキって、食べると身体が喜ぶんですよ。そうした感動を多くの人たちに伝えていきたいんです。だからケーキ以外にも、オーガニックなチョコレートや卵も販売しています。「あそこにはいいものが売っている」という安心感のある、お客様から信頼していただけるようなお店になりたいですね。
——ただオーガニック製品をはじめとした、上質な素材って価格が高いですよね。
細野さん:そうなんですよ。日本では多くの消費者が必要性を感じていないために、生産量も少ないんです。だからこそ大きなムーブメントを起こして、もっと食への関心を持つ人を増やしていけたらいいなと思っていますし、そのお手伝いができるお店でありたいですね。
HAPPY SUGAR
村上市坂町2395-1
0254-62-1234
10:00-18:00
日月火曜休