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伝統工芸に斬新で自由な発想を取り入れる金工作家「須佐 真」。

昨年12月、若手金工作家の「三上 洸希」さんをご紹介したところ、三上さんの師匠である「須佐 真」さんからThings編集部に「金工を広めるよいきっかけになりました」とお礼のメッセージをいただきました。そんなご縁で、今回は30年間金工に携わってきた須佐さんに、これまでのキャリアや作品づくりへの思いなど、いろいろとお話を聞いてきました。

 

金工作家

須佐 真 Makoto Susa

1975年燕市生まれ。高校を卒業後「株式会社玉川堂」へ入社。1998年「第53回新潟県美術展覧会(県展)」入選。2003年「第43回東日本伝統工芸展」「第50回日本伝統工芸展」に初出品し入選。以降、数々の受賞歴を持つ。2018年に「玉川堂」を退社し、2019年に独立。

 

職人に憧れ金工の世界へ。仕事と作品づくりの両方に力を入れる。

——須佐さんは、高校を卒業してすぐに「玉川堂」さんに入社されたんですね。

須佐さん:父親が料理人で「職人はかっこいい」と思っていたので、職人になれる仕事に就きたかったんです。小さい頃からプラモデルや絵を描くことが好きだったので、ものづくりの世界へ憧れていました。それで「玉川堂」の求人を見かけて応募したんです。

 

——就職されたばかりの頃のこと、覚えていますか?

須佐さん:「右も左も何もわからず」でしたね(笑)。同世代の同僚はいましたけど、「玉川堂」さんの親族の方や同業から修業に来ている人ばかりで、私は運良くたまたま入社できたんですね。最初の何年かは、模様付けのベースとなる錫(スズ)を塗るのが仕事でした。黙々と言われたことをやっていただけで、今振り返るとあまり自分の考えはなかったな。

 

——それから20年以上もお勤めされていたんですね。

須佐さん:何もわからないのがよかったんでしょうね。変に知識があると、何かと理由をつけて言われた通りやりたがらなかったかもしれません。目の前の作業を黙々とできるピュアな状態で仕事を任せてもらえたのがありがたかったです。

 

 

——入社されて4年目には、県展で入賞されました。

須佐さん:当時の社長が「職人としての技術を上げるために作品展に挑戦しよう」とお考えでした。職場の先輩からも「県展に出品してみないか」と声をかけられて。初回は落選してしまったんですけど「入選するまで続ける」と決めていたので、2年目も応募して入選できたんです。

 

——2度目の挑戦で入選だなんて、周りの方は驚かれたのではないですか?

須佐さん:入選歴のある方は職場にたくさんいましたし、「いかったね」と褒めてもらったくらいでしたかね。「力がついたぞ」っていう実感はそこまでなかったけど、嬉しかったですよ。会場に飾られている自分の作品を観られるっていうのは。いろいろな言葉で評価されますから、仕事とは違った意味でやりがいがありますよね。

 

——職人としてものづくりもされて、それと並行して作品づくりにも取り組まれていたんですね。

須佐さん:技術を上げるために発表の場に作品を出すことも大切だとされていたのでね。でも創作意欲はそれほど強くなかったんですよ。あくまで仕事の一環で「作りたい、作りたい」という感じではなくて。創作の面白みを感じられるようになったのは最近です。特にこの2年くらいは、「仕事」として取り組んでいたことを楽しみながらできるようになりました。発想も超・自由に、伝統工芸の型にはまらず、新しいことをどんどん取り入れたいと思っているんです。

 

人間国宝直伝の技術に、自由な発想を加えた須佐作品。

——2001年からは、人間国宝である玉川宣夫さんに師事されたそうですね。

須佐さん:会社として宣夫さんの「木目金」という技法で商品を作ろうというので、「須佐、習わんか」と声をかけてもらって。宣夫さんの木目金は、展示会で観て興味があったのでいい機会をいただきました。そこで今までとは違う技法を習得して、師匠からの言葉もあり、今度は「伝統工芸展」に出品して。難しいとされる展覧会ですが、初年度で入選できました。

 

 

——特に思い出に残っている入選作はありますか?

須佐さん:最初に「日本伝統工芸展」で入選した作品です。その頃から正統派の作り方はしていないんですよ。師匠がいろいろとアドバイスする人だとそうはいかないんでしょうけど、宣夫さんは大事なポイントだけ教えてくれて、あとはやりたいようにさせてくれたんです。

 

——じゃあ、当時からオリジナルの技法も披露されていたんですか?

須佐さん:チラホラ入れています。木目金にしても師匠と同じ技法ではいけないと、自分なりのルールがありました。なので、アレンジを加えて作品づくりをしていましたね。

 

伝統を守りながら、常識にとらわれない表現を貫く。

——独立を決めたのはどうしてでしょう?

須佐さん:より作品づくりに力を入れたいと思いました。そんなタイミングで廃業される方から「伝統工芸に携わっている人間に道具を引き継いで欲しい」と道具を譲り受けまして。その言葉は重かったです。

 

——須佐さんの作品の特徴について、わかりやすく解説していただけないでしょうか。

須佐さん:作家とは何かを考えると、やはり「個性を重視した作品を生み出すべきだろう」と思っているので、オリジナルの技法をいくつも使っています。現代的なデザインにも私らしさがあるでしょうか。パッと見て「これが鎚起銅器なの?」とびっくりするようなものを作りたいので、いろいろな技法を取り入れています。

 

——例えばどんな?

須佐さん:盛錫(もりスズ)という技法があります。通常は塗った錫を平らに払いますが、錫がこんもりと盛り上がった風合いを残したまま作品に生かしています。邪道とされる技法をアレンジしてもいいだろうと思うんです。とにかく常識にとらわれず、柔軟に考えるようにしています。

 

 

——独立され「作家」となられたから、思い切った技法ができるんでしょうか。

須佐さん:ベースは長年教えてもらった鎚起銅器の技法ですよ。そこにオリジナリティを加えて、レパートリーを増やしてきました。「ワニ柄」「ヘビ柄」と呼んでいる表現の仕方もそうです。誰もやっていないことをつきつめたいと思っています。

 

——若い金工作家さんをおふたり、育てていらっしゃいますよね。

須佐さん:金工をたくさんの方に知ってもらうためにも、若い人が「楽しい」と思える作品が評価されたらいいですよね。私はふたりを「職人」ではなく、「アーティスト」として育てているつもりです。自分がそうしてもらったように、自由なものづくりをして欲しくってあまり細々と教えてはいないんですよ。

 

——須佐さんご自身は、どんな目標を持っているんですか?

須佐さん:これからの世代に一生懸命な姿を見せたいし、もっと売れないといけないですね(笑)。やっぱり稼げない業界に入りたいとは思えないでしょう。

 

——今もこれまで作品展に出されたようなオブジェも作られているんですか?

須佐さん:オブジェは作らないです。「伝統工芸」なので、使えるものじゃないといけないですから。でも作品展に出すようなアート要素がある作品も好きなので、伝統工芸の技を駆使しつつ、アート表現も入れた作品を生み出したいと思っています。あまり馴染みのない金工ですが、ミニチュア作品みたいなちょっと変わったアイテムもあるので、そういったものから関心を持ってもらえるといいのかな。

 

 

 

金工作家 須佐 真

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