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焼鳥一本にも美学がある。備長炭で焼き上げる「コキノハチナ」の串焼き。

新潟市西区みずき野にある「コキノハチナ」。なんだか不思議な店名ですが、こちらは串焼きのお店です。新発田の「串焼きとこころいきGen」の姉妹店で、こだわりの備長炭で焼き上げる串を、カジュアルな空間で味わうことができます。今回は店主の佐藤さんに、串焼きへのこだわりや気になる店名の由来を聞いてきました。

 

 

コキノハチナ

佐藤 祐一朗 Yuichiro Sato

1984年新発田市生まれ。新潟市の飲食店で10年以上働き、経験を積む。「串焼きとこころ 克」での修業を経て、9年前に新発田市で「串焼きとこころいきGen」をオープン。昨年「Gen」の姉妹店として新潟市西区みずき野で「コキノハチナ」をはじめる。

 

焼鳥一本で、こんなに感動させられる。

――こちらは新発田にある「串焼きとこころいきGen」さんの姉妹店だそうですね。

佐藤さん:新潟市で10年ぐらい飲食業に携わった後、独立して新発田で「串焼きとこころいきGen」をはじめたんです。9年くらいやらせてもらっています。ここは2号店ですね。

 

――独立前からずっと串焼きのお店で働かれていたんですか?

佐藤さん:いや、むしろ魚を捌いていた人間なので「新発田に戻って魚系の居酒屋をやるんだろうな」って漠然と思っていたんです。でもあるとき親方の店と出会って。「串焼きとこころ 克」っていう店なんですけど、そこで親方の串をひと口食べて驚愕したんです。「これだ」って思いましたね。

 

――そんなに美味しかったんですね。

佐藤さん:「新発田にこれを持って帰って店をやろう」と思って「雇って欲しい」と電話してみたら、ちょうど社員をひとり募集していたところだったみたいで、働かせてもらえることになったんです。ただ焼鳥なんて焼いたことも刺したこともなかったので、1年間で必死に覚えました。

 

――親方さんのお店で修業する中で、串焼きへのイメージは変わっていったんでしょうか。

佐藤さん:やっぱ親方からいろいろ話を聞いていると、串焼きがどんどん面白くなっていきましたね。ひと串に美学があって、串の打ち方ひとつで仕上がりもぜんぜん違ったり、鶏の種類によって味がぜんぜん違ったり。焼鳥一本でこんなに感動させられるんだって知りました。

 

夢が実現するまでを、息子に背中で見せたかった。

――昨年のタイミングで2号店を出されたのは、何か理由が?

佐藤さん:ずっと新しい店をやりたいとは思っていたんですけどコロナ禍とかでなかなか進まなくて、3年越しぐらいに叶ったんですよ。ちょっとご縁があって、この場所でオープンすることができました。

 

――新発田のお店とはメニューが違うんでしょうか?

佐藤さん:新発田の「Gen」のメニューをほぼ持ってきました。ただ「Gen」はカチッとしている和っぽいイメージのお店なんですけど、こっちは周りの町並みを見たときにカジュアルな方がいいかなと思って、制服もエプロンにしたり、メニューも若干変えたりしています。「Gen」は焼鳥に日本酒を合わせる人が多くて、こっちはワインを合わせる人が多いので、それも意識したメニュー構成にしていますね。

 

――パッと見て、焼鳥のお店っぽくないスタイリッシュな外観ですよね。

佐藤さん:そうなんです、焼鳥屋さんって分からないような外観にしたくて、店の名前にも「焼鳥」ってつけていないんですよ。前を通ったときに「何の店だろう」って気になって、初めて来たときに焼鳥屋だって分かって、口コミで「美味しい」って広まっていったらいいなと思って。

 

 

――店名も気になっていました。「コキノハチナ」って、どういう意味が込められているんですか?

佐藤さん:今6歳の息子がいて、3年ぐらい前に「パパが次のお店を出したいんだけど、何て名前がいいかな」っていう話をしたんです。まだ片言で話せるぐらいのときだったので、「こと、きと、のと、はと、ちと、な」みたいに言っていて、それをくっつけたんです。新発田の「ゲン」っていうのは親父のあだ名なんですよ。だからこっちの店の名前は息子につけてもらいました。

 

――へ〜、そんな由来だったんですね。息子さんにつけてもらったのも、何か理由があるんでしょうか。

佐藤さん:息子に夢を持って欲しくって。夢を抱いて、それが実現するまでを背中で見せたかったんです。なかなかこの店の話が進まずに僕がもがいていたところも、息子は見ていて。「『コキノハチナ』楽しみだね」っていう会話も、だんだん食卓からなくなっていくんです。「たぶん叶わないんだな」って思わせるのが悔しくて「絶対出そう」と思って、やっと去年実現しましたね。

 

――それは息子さんも喜んだでしょうね。

佐藤さん:喜んでいました。夢を追う姿と叶えるまでの苦労する姿の両方を見せられたので、彼のためになっているのかなと思います。

 

手間を省いて打つ串は、時間をかけて打つ串には絶対に敵わない。

――串焼きのことも教えてください。串は備長炭で焼いているんですね。

佐藤さん:「紀州備長炭」っていう日本最高峰の備長炭を使っています。値段は高いし貴重なものなんですけど、火の入り方がすごくよくて。やっぱり炭で焼いた方が美味しいなと思いますね。

 

――使っている鶏肉にもこだわりはありますか?

佐藤さん:鶏に関しては、部位によって使っている鶏の種類が違います。5〜6種類くらい、日替わりのメニューが入ると7〜8種類くらい使っていますかね。自分が食べて「美味しいな」って感じた鶏を全国から取り寄せています。「レバーはこの鶏が臭みがなくていい」とか、それぞれの鶏に良さがあるんです。

 

 

――焼鳥の中でいちばん人気なのはどれなんでしょう。

佐藤さん:レバーがいちばん人気です。「レバーが苦手だ」っていう方からも「美味しかった」って言われます。親方の店もレバーがすごく人気で。ただ、すごく難しいんですよ。

 

――どういうところが難しいんですか?

佐藤さん:串打ちがすごく難しい部位なんです。他の部位だと一度刺し間違えてもまた刺し直せるんですけど、レバーは柔らかいので一度刺して抜いてしまうと、次に刺したときにくるくる回っちゃうんです。それだと焼けないので使えなくなるんです。

 

――少しでも間違えたら、そのお肉は無駄になっちゃうんですね。

佐藤さん:肉の中心を捉えなきゃいけないんです。それが1ミリとか2ミリでもずれると、もう焼けないんですよ。それを親方の店で練習したときにめちゃくちゃ苦労して。もう感覚でしかないので、最初の頃はぜんぜんできなかったですね。

 

 

――焼鳥って、食べる側が想像している以上に技術が必要な料理なんですね。

佐藤さん:焼鳥一本にも美学があって、たかが一本でも綺麗な一本を焼いて提供したいと思っています。中途半端に打とうと思えばいくらでも打てるんですよ。でも手間を削って打った串って、丁寧に処理した串には絶対に敵わないんです。

 

――今のお話を聞いた後にメニューを見ると、この値段は破格じゃないですか……? ほとんどの串が100〜200円台って。

佐藤さん:この辺りは子育て世代の方が多いんですよね。ここで店をはじめようと思ったのも、お子さんがいると外食ってなかなかできないじゃないですか。でも美味しいものは食べたい。だから子育て世代でも来やすい価格にしたいなと思って、この値段にしています。正直これでも高いかなと思うんですけど、経営のこともあるので(笑)

 

 

――最後に伺いますが、息子さんにはこのお店を継いでもらいたいですか?

佐藤さん:この前「継ぎたい?」って聞いたんですけど、気を使って「うん」って言っていたので「それならやめた方がいいよ」って言っておきました(笑)。好きでもないことをやるよりは、本当に自分のやりたい仕事とか夢が見つかったときに、それを全力で、壁にぶつかってでもいいからやれって言いたくて。自分で見つけて欲しいですね。

 

 

 

コキノハチナ

新潟市西区みずき野1-11-9

TEL:025-378-3771

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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