燕市に「溶接アート」の作家さんがいると聞きつけ、「溶接がアートになるってどういうこと?」「どんなキャリアを積んだ人なんだろう」と興味津々で取材に伺いました。アトリエには天井に届きそうなほど大きな作品がドドーンと置かれていました。それは三条市の「北興商事株式会社」さんからのオーダー品で、細かな溶接技術が施された地球儀のようなオブジェでした。あまりのスケールに圧倒されながら、笑顔が抜群に似合うshappoさんにお話を聞いてきました。
WAAS FACTORY
shappo
1982年燕市生まれ。溶接の会社で技術者として経験を積む。2021年に独立し、新しいものづくりのかたち「溶接アート」作家としての活動をはじめる。趣味もものづくり。
——shappoさんは作家となるまでにどんなキャリアを積まれたんですか?
shappoさん:高校を卒業して溶接の会社に就職しました。そこで18年、もう1社でも同じように溶接の仕事を3年ほどしましたかね。それから2021年、コロナ禍まっただ中にみんなの反対を押し切って独立したんです。
——私たちがイメージする、あの溶接技術でアート作品をつくっていらっしゃる?
shappoさん:バチバチと火花を上げながら、金属と金属を溶かしてつなげるっていうアレですね。それが一般的な溶接ですけど、僕はもっと繊細な溶接をしているっていうか、金属を細かく溶かせる道具を使って作業しています。だから絵とか文字とかも書けちゃうんですよ。
——なんとなくわかるような、わからないような……。とにかく普通の溶接とはちょっと違うわけですね。
shappoさん:溶接職人の「あるある」だと思うんですけどね。休憩時間に工具で文字を書いたり、イラストを描いたり、そういう遊びをするんですよ。今から20年くらい前ですかね。当時勤めていた会社の社長さんから、「展示会で注目を集められるアイディアを考えてくれないか」と言われまして。そのとき溶接技術を使って絵を描いたんです。
——来場者の目を惹く看板みたいなものを作られたと。
shappoさん:それをつくったことで、自分の中に何かが芽生えたんですよね。「これ、面白いなぁ」って。それで試しに仕事の空き時間に溶接で作ったものをInstagramに載せてみたら、すごく反響があったんですよ。「これは絶対、仕事にできる」って思いましたね。
——じゃあ、最初の頃は副業みたいな感じで作品をつくっていたんですね。
shappoさん:いやいや、もう趣味ですね。でも僕、一度はじめたらとことんのめり込むタイプで、「もっともっと繊細に」って追求していたら、趣味に費やす時間が増えてきちゃったんです。溶接職人として働いているんだけど、ものづくりを仕事にしたくなったんですね。それで作家として独立する道を選びました。
——お話を聞く限り、お師匠さんみたいな存在の方はいないですよね。
shappoさん:ひとりでずっとやりたいことを続けていたって感じですよね。看板や表札を作るといったところから、知人の金工作家さんからアドバイスをいただいてオブジェの制作もするようになりました。「もっと立体的にしてみたら」「抽象的にした方がいいよ」とかいろいろヒントをいただきまして。
——でもそれをどう表現するかっていうのはご自身で考えるわけですよね。
shappoさん:「溶接アート」の分野で同じことをしている人はいませんから、そうなりますね。趣味の範疇で取り組んでいる方はいるでしょうけど、お仕事としてやっている方は日本ではいないと思います。海外にはいらっしゃるんですけどね。僕は溶接技術でオリジナルの模様を考えることもしています。個性的で美しい作品ができあがるんですよ。
——ご商売としてはオーダー品の制作と作品販売をされている?
shappoさん:そうですね。オーダーのほどんどはInstagramからのご依頼です。特に同業さんからのオーダーが多いです。
——溶接をされている方からってことですか?
shappoさん:「ここまでできるんだ」とわかっていただけるから、作品をイメージしやすいんだと思います。海外での販売にも力を入れたいので、今後はECサイトを設けようと思っています。
——いやぁ、どういうご経歴をお持ちなのかいろいろ想像してきたんですよ。職人気質とアーティスト要素をお持ちの方だったんですね。
shappoさん:きっとそうだと思います。じゃなきゃ、たぶんこうなっていないでしょう(笑)。アーティスト要素があって、たまたま持つ道具が筆やペンじゃなくて溶接機だった。僕は溶接機でアート的な表現をすることに成功したと思っています。扱うのは金属だから立体作品も作れたっていうね。
——生みの苦しみはありませんか?
shappoさん:基本的には楽しんでやっています。作品をつくるときは、それがオーダー品であっても好きなものをつくるときもそうなんですけど、明確なイメージを持ってスタートするわけではないんですよ。制作を進めながら、そのときのインスピレーションを形にするって感じです。
——最初に細かく設計図みたいなものはつくらないんですね。
shappoさん:ある程度は考えますけどね。お客さまとイメージを共有しつつ、そのときどきで新しい要素を加えているって言えばいいのかな。年々、濃い作品づくりができている手応えがあります。
——個展もされているんですか?
shappoさん:個展を開きたいところですが、手持ちの作品はアトリエにあるものがすべてでなかなか実現できていないんです。ご依頼品の場合は、完成したら旅立ってしまいますから(笑)。でもグループ展は度々参加させてもらっています。
——ご自身の作品を「こんなふうに仕上げたい」って思いはあります?
shappoさん:信念としては、お客さまに満足いただくのは当たり前で、さらに感動していただけるものを作りたいと思っています。びっくりされるものを作りたいって常に思っていて。それと日本だけじゃなくて海外に誇れるもの、世界中に感動を与えるものづくりをしたいと思っています。
——少し前までお勤め人でいらしたというのが不思議です。
shappoさん:作品づくりをやりたくてやりたくて仕方なかったんですね。今は土日も平日も、昼も夜もわからないくらい好きなときに好きなことをしています(笑)
——この「溶接アート」は燕らしい技術だし、これからもっと広がっていきそうな予感がします。
shappoさん:燕市の飲食店や会社さんとタッグを組んで、ふるさと納税の返礼品に溶接アートを施すプロジェクトに取り組んでいる最中です。そういうお声もいただくようになりました。
——地域ともマッチしていますよね。
shappoさん:そう、燕の地場産業にはストーリーがありますからね。燕市の製品って、着色や表面処理をして最終的な商品として販売するケースが多いんですよね。それに加えて、まったく新しい表現方法を、燕市らしい溶接の技術でできるところがアピールポイントだと思っています。
——これからの活躍を期待しています!
shappoさん:ただ僕ひとりでやっているので、発信力不足に課題があると思っていて。まだあまり認知されていませんから。なので今、溶接体験を積極的に受け入れているんです。そうすると溶接の難しさや魅力に気づいてもらえるので。
——shappoさんには最終的な目標があるそうですね。
shappoさん:海外に作品を広めるために、英会話を習いはじめました。何にしてもコミュニケーションが取れないと仕事になりませんから。あとはたぶん、行ってしまえばなんとかなる自信があります(笑)
——えっ?! もしかして海外に拠点を移すお考えなんですか?
shappoさん:もちろんです。各国で活動することを目指しています。アメリカもいいしイタリアにも行きたい。海外では、もっとおもしろいことができるんじゃないかなと思うんですよ。いつかきっとチャレンジできるタイミングがあると信じています。
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