新潟の食卓を彩る、秋の食材のひとつに菊があります。ツマなどでお料理を彩ることは多いですが、お料理として食べられているのは新潟を含め限られた地域だけです。長岡市で農業を100年間以上続けてきた「しみず農園」も、取材に伺った頃が食用菊収穫のピークでした。結婚を機にサラリーマンから農家に転職した清水さんに、農業や食用菊についてお話を聞いてきました。
しみず農園
清水 正宣 Masanobu Shimizu
1993年宮崎県生まれ。東京の専門学校を卒業して音楽活動を続けた後、2016年に不動産関係の会社へ就職。2017年より奥さんの実家がある長岡市に移住し、2019年に「しみず農園」へ就農。
——「しみず農園」は奥さんのご実家で、清水さんは宮崎県のご出身なんですよね。おふたりはどこで出会われたんですか?
清水さん:東京で不動産関係の仕事をしていた頃、飲み屋で声をかけて意気投合したんです。
——平たく言えば「ナンパ」じゃないですか(笑)。以前は不動産関係の仕事をされていたんですね。
清水さん:その前はボーカリストを目指して音楽活動をしていました(笑)
——すっごく気になるので、詳しく教えてもらっていいですか?
清水さん:中学まではサッカーに夢中だったんですけど、膝を怪我して断念することになったんです。それで、たまたま叔父が音楽関係の仕事をしていた影響で、高校に入った頃からボーカリストを目指しはじめたんですよ。当時はR&Bをよく歌っていましたね。
——高校を卒業して上京されたんでしょうか?
清水さん:東京の専門学校でボーカルの勉強をして、ライブハウスで歌ったりオーディションを受けたりしていました。でも、次第にまわりの音楽仲間が地元に帰って行ったりしはじめたので、僕自身も音楽活動に見切りをつけて不動産投資の会社に就職したんです。
——なるほど。その頃に奥さんをナンパしたんですね。
清水さん:声をかけたんです(笑)
——新潟で暮らすことになったのはどうしてなんですか?
清水さん:「しみず農園」は100年以上続いてきた農家なんですけど、お義父さんは自分の代で終わらせようと思っていたようなんです。妻は3人姉妹の次女なんですけど、農業を守りたい気持ちは特に強かったので、一緒に農園を継ぐつもりで長岡にやってきたんですよ。
——南国出身の清水さんが雪国の長岡に来て、どんなふうに感じましたか?
清水さん:最初の年は雪を楽しみましたけど、翌年からはうんざりするようになりました(笑)。でも、はじめて見た長岡花火には感動しましたね。街の空気感が故郷と似ていたので、馴染むのに時間はかかりませんでした。
——農業は初体験だったんですよね?
清水さん:そうなんです。新潟に来てからもしばらくは不動産会社で働いていました。休みの日に農業を手伝っているうちに興味を持ちはじめて、跡を継ぐ覚悟につながったんです。
——「しみず農園」では、どんな農作物を栽培しているんでしょうか?
清水さん:農作物の半分はお米です。収穫したお米の半分をJAに卸して、残りはネット販売したり飲食店に納めたりしています。お米以外にはいろいろな野菜を作っていて、スーパーの「地場野菜コーナー」へ直接卸しているんです。スーパーで買い取ってもらえない規格外品は、無人直売所で販売しています。
——どんな野菜を作っているんですか?
清水さん:トマト、キュウリ、ナス、ネギ、枝豆……とにかく一年中何か作っていますね。今の時期は食用菊がピークを迎えているんですよ。でも、実は僕、新潟に来るまで菊を食べたことがなかったんです(笑)
——ああっ、そういえば菊を食べる地域って、東北と新潟くらいなんでしたっけ?
清水さん:そうなんですよ。最初は「どんな文化だ」なんて思いましたけど、食べてみると季節感があるしシャキシャキして美味しいと感じましたね。春菊が好きだったので抵抗なく食べることができました。
——春菊とはニュアンスが違うような気もしますが……(笑)。こちらではどんな食用菊を作っているんですか?
清水さん:「おもいのほか」をメインに作っています。5月中旬になると残した株から新芽が出るので、株分けをして大きくしていくんです。花がつき過ぎるとひとつひとつが小さくなってしまうので、欲張らず肥料とのバランスを見ながら花の量を調節します。あとトマトやキュウリと違って、食用菊は害虫防除のタイミングが難しいんですよ。
——へぇ〜、食用菊って、そんなふうに栽培するんですね。それにしても「おもいのほか」って食用菊の名前だったんですね(笑)
清水さん:食べてみたら思いのほか美味しかったので、この名前で呼ばれるようになったと聞きました。そのまんまですよね(笑)
——清水さんオススメの菊の食べ方ってありますか?
清水さん:おひたしとか酢の物が一般的ですけど、うちでは天ぷらにすることもあります。花びらを食べることが多いんですが、ガクの部分を佃煮にするとクセや苦みも楽しめて、お酒のあてによく合うんですよ。
——ところで、農業をやってみて大変だなと思うことはありますか?
清水さん:思ったよりも体力を使う仕事だったので、身体が慣れるまでは大変でした。日常生活では使わない筋肉を使うんですよね。あと天候の前ではかなわないとつくづく感じますね。昨年は災害級の暑さでお米のできが悪かったんです。でも、その分今年はいいお米ができたと思っています。
——自然相手のお仕事ですもんね。では、農業をやっていてよかったと思うことは?
清水さん:純粋に自然のなかで働くことって気持ちがいいと思います。あと植物って素直だなって思うんです。手をかけた分だけ返してくれるんですよ。そうしてできた作物を食べた消費者の方々から「美味しかった」と言っていただけると嬉しいですね。
しみず農園
長岡市川崎1-293-3